王子様に頭を下げさせる女の子
私の目の前で、王子様が頭を下げている。
クラス中の視線を集めて。
まるで時が止まったかのような錯覚に陥るが、これは現実だ。
その証拠に、ほら。王子様の後ろにいた男の子が私を睨む目がどんどん険しくなってる。
その目は「いつまで王子に頭を下げさせているんだこの下女が。その不敬の贖罪として今すぐ地面に這いつくばれ。俺が頭を踏んでやる」と言わんばかりだ。絶対違うだろうけどそのくらい怖い。
その顔を意識から外して、気付いた。
王子様に着いてきていた女の子たちの表情から、感情が抜け落ちている。
不味い。この状況は入学試験の時と同じだ。
この王子様、何も反省してないじゃないか!
どうする!? 喪神病を未然に防ぐにはどうするのが正解だ!?
違う、まずはそう、落ち着こう。慌てていても始まらない。切羽詰まった時こそ思考はクールに。
喪神病は感情の昂りが引き起こす。ならば。
複数人。感情。意識。リセット。よしこれだ!
体内に押し込めていた魔力を喉に集める。多くてもダメ。魔力酔いとかもう十分だ。適切な量で、適切な効果を。
「わぁっ!!」
声に魔力をのせて教室中をぶっ叩いた。
人の身体には魔力が巡っている。それを外から揺らすことで強制的に意識を覚醒させ、ついでに魔力が均衡を取り戻すまでの一瞬の間に「びっくりした!」という感情を無理やり与える。
怒りや悲しみと違って、驚愕という感情は長続きしない。
「ど、どうしたんだ、ソフィア!」
王子様やめて。その呼び捨てをいますぐにやめて。
一体誰のせいでこんなことになってると思ってるんだ。いや、そうか。背後の出来事を一切把握していないのか。
女の子たちはもう普通に驚いていた。人形のようになってる子はいない。
まったく、事件が起きても気付かないうちに誰かが解決してくれるなんていいご身分だこと! ……うん、王子様は確かに良い身分だろうけども、そーゆーことではなくてね?
そもそもその話は済んでるんだしここで蒸し返さなくてもとか、わざわざ王宮まで出向いた私たちの苦労が水の泡だとか、謝罪って自己満足だよねとか色々あるけど。
まあ、真面目なんだろうな。
悪気が無いからって全て許せるわけじゃないけどね。
「ごめんなさい。大きな虫がいた気がして……気の所為だったみたいです」
言い訳をしながら、視線だけで、王子様に現状が如何に危うかったかを伝えようとしたけど無理だ、これ。
教室中の視線を集めながらてへぺろ言い訳しながら王子様以外に気づかれることなく女の子たちが喪神病になりそうだったことを伝える。どう考えても無理。
別に今すぐじゃなくても、後で落ち着いてから伝えればいいよね。
「そ、そうか……吃驚したぞ」
うん、私もびっくりしたよー。
王子様、喪神病引き起こした件、全然懲りてないんだなって。
平穏とは真逆を爆走するソフィアの生き様。ツヨクイキロ。