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エピローグ


 ――あれから、ひと月程の時間が経った。


 初めは口数の少なかった唯ちゃんも徐々に私達との共同生活に慣れてきたのか、今では大分気を許してくれるようになったと思う。


 まだ親子と呼ぶにはよそよそしすぎる印象は否めないが、それはお互い様というものだろう。お母さんの態度から硬さが抜ければ、唯ちゃんも自ずとお母さんに対して構えずに受け答えができるようになるはず。こればっかりは焦ったところでどうにもならない。


 ……まあ、そちらは時間が解決するだろうから経過を暖かく見守るとして。


 私と唯ちゃんは共に近隣の中学校に通うことになった。南戸ソフィアと南戸唯という新たな名前と共に中学一年生という新たな立場を無事に得ることができたわけだ。


 ここに至るまでは様々な苦労があった……らしい。大人達の方には。


 私達子供側は幸い、毎日のへへんと暮らしていただけだ。一応アイテムボックスに保管してあった金貨とか装飾品を供出して生活費の足しにしてもらったりなんかはしたが、後は特にすることも無く堕落した生活を過ごさせてもらった。誰かを魔法で洗脳するよう頼まれることも全くなかった。


 社会って意外とテキトーなのかね。お母さんに「今日あんたのこと正式に『南戸ソフィア』として養子に迎え入れたから。もちろん唯の方も一緒にね」と言われた時には、思わず「はやっ!?」って驚いちゃったよ。世界には意外と戸籍のない人間って多いのかしら。


 まあそんなこんなで、私達はちょぴっとだけ特殊な家族として新たな一歩を踏み出したのだった。既に学校ではそれなりに仲の良い友達だってできたんだよ!


 ……何故か唯ちゃんとは同じクラスになれなかったけどね!!


 でも今となってはそれで良かったと思えるようになってたりして。そばに居ると思わず手助けしちゃいたくなる唯ちゃんだけど、別のクラスになった今では魔法を使っての盗み見、盗み聞きがせいぜいで、事ある毎に隣のクラスの様子を確認するくらいしか出来なかったが……唯ちゃんは意外と、私以外の子供とは普通に話すのだ。休み時間のたびによく話している友達だっている。


 もしかしたら、私の過保護が唯ちゃんの可能性を狭めていたのかもしれない。


 そんな当たり前の可能性に今更のように気付いて……そして、唯ちゃんに必要とされなくなったことで気付いてしまった。唯ちゃんが私を必要としていたんじゃない。()()唯ちゃんを必要としていたんだってことに。


『唯ちゃんには保護者である私がついていないと』


 どうやら私は、その傲慢な考えを心の支えにして今まで心の安寧を保っていたようだった。


 ……なんかさ。前からちょいちょい思ってはいたけど、私って相当な寂しがり屋になってるんじゃないかな? 異世界に転生する前、女子高生やってた時はここまで不安定な精神してなかったと思うんだけどな。


 見た目最高。頭脳、肉体も紛うことなき高水準。

 そんなカンペキボディのソフィアちゃんでも、流石にメンタルまで最強ではなかったってことなのかもしれない。人間何かしらの欠点はあるものだしね。


 個人的には、メンタル弱々ってわりと致命的な欠点じゃないかと思うのだけど……。


 魔法で無理やり落ち込んだ気分を改善して「私ってばちょー元気!!」とかしちゃうの、あれって地味に反動あるしね。そもそも《平静》は精神に均衡をもたらすだけの魔法だから気分をあげるような効果は一切ないし。


 無駄に元気に振る舞うのは「落ち込むのが悪いこと」と考える私の単なるクセに過ぎない。無理にでも明るい気分を作っていないと、また暗い考えに捕らわれるんじゃないかって不安がずっと付き纏っているのだと思う。


 では、何がそんなに不安なのか。

 無事に元の世界に帰還して、諸悪の根源は恐らく世界の狭間に消えた。そんな現状で、私は何に対して不安を覚えているのだろうか。


 ……恐らくは、失うこと。また大切な家族を失うことを、私は酷く恐れているのではないかと思う。



 ――一度目は、お母さんを失った。


 前触れなく異常事態に放り込まれ、元の世界への帰還は絶望的。私は「悲しい」という現実を心の奥底に閉じ込めることで、何度寝ても決して覚めない夢の中で生きていく術を模索していた。



 ――二度目は、お兄様を失った。


 正確には、記憶を。(ソフィア)という存在を失った。


 やっと、居場所を得られたと思ったのに。安心を掴んだと思ったのに。その希望は儚く一瞬で消えてしまった。まるで握り固めた砂糖菓子が火に炙られて溶けるように、脆く崩れて消えてしまった。



 ――なら、今度は? この世界は大丈夫だろうか。


 お母さんがいる。唯ちゃんがいる。これから仲良くなる友人がいる。


 またそれらを、失うのが怖い……。


 私はきっと、ずっとそんな恐怖に囚われているのだ。


「――ソフィア? どうしたの? 食べすぎてお腹壊しでもした?」


「――ソフィアお姉ちゃん? あの、ご飯食べながら寝ちゃったわけじゃない……ですよね? 早くご飯を食べて、一緒に学校へ行かないと」


 不安に襲われるのはいつだって突然だ。今日は朝食の途中だったが、就寝時に不安で堪らなくなることだってある。もしかしたら「この幸福はいつか壊れる」と無意識に幸福を避けてるのかもしれない。


 でも、そんな恐怖も永遠には続かない。二人と暮らすことで次第にこの不安も薄れていき、やがて緩やかな幸福を――あるいは確かな絶望を――この手にするのだと思う。



 ……まあ、要するにさ。今私が何を考えていようと、未来は未定ってことなんだよね。


「んー? ……んふふ。目ぇつぶってパン食べてたらちょっと寝てた。んふ」


「アホなこと言ってないで、早く食べて準備しなさい」


「お姉ちゃん、カバン、カバン出しておかないと……。また手ぶらで行ったら怪しまれちゃうよ?」


 明日は明日の風が吹くし、今日には今日だけの風が吹く。


 これから先、また驚くような事態に巻き込まれるようなことが無いとも言い切れないけど、その時はその時ってことで! 結局今の私に出来ることは、今日を精一杯生き抜くことくらいなものなんだよねっ、と。


「仕方ないなぁ……。それじゃあ今日も、元気に学校で勉学に励むとしましょうかね〜」


 牛乳で最後の一口を流し込むと同時、《アイテムボックス》から通学カバンを召喚。あーんど《浄化》で歯磨きの手間を省略ッ! 食後三秒で通学準備完了ですよ!


 さーてさて、それじゃあ今日も元気にっ、一日を始めるとしましょうかね!?


「よっし、準備でーきたっ。ほらほら、唯ちゃんも行くよーっ! いってきまぁす!!」



 転生少女は今日も気ままに! 完!!


我ながら雑すぎる当作品のご愛読、誠にありがとうございました。

次回作はきちんと時間をとって執筆して、きちんと時間をかけて推敲する予定(あくまでも現在の予定)ですので、もう少しマトモな読み物としての形でお届けできるかと思われます。

とりあえず数話〜十数話で完結する作品を書き上げてからまとめて投稿を……と考えてはいますが、毎日投稿の反動でしばらくは執筆欲が控えめになることが予想されるので、再開はどれだけ後になることか……。

また忘れた頃に投稿するかと思われますが、その時にはまた、面白いと思われたらお付き合い下さい。つまんねと思われたら無言でブラバして切り捨ててやって下さい。


そんな感じで。それではまた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます!感想を書くのは初めてだと思いますが、毎日読ませていただきました。次の作品も楽しみにしております。
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