とてつも楽しいお買い物
結論から言おう。買い物めっっちゃ楽しかった!!
テルさんが同行していたせいで買った商品を《アイテムボックス》に収納し私の有用性を証明するという当初の目的自体は崩されたが、そんなのどーでもよくなるくらい楽しかった。誰もがみんなニコニコだった。
唯ちゃんとお揃いのカップやぬいぐるみなんかも買って貰えたしね。幸福すぎて顔面がひどい間抜け面になっているという自覚があるよ。
唯ちゃんの装いもパワーアップして、もはやそこらのアイドルなんて目じゃない程の美少女っぷりだ。ぬいぐるみを抱いてる姿が愛らしすぎてただ歩いてるだけで人々の視線が吸い寄せられていくのが傍目に分かる。
――まあ同じくらいの視線が私にも同時に向けられてはいるんだけどね!!
いやー、美少女過ぎてごめんなさいね!? やっぱ可愛いって罪だわー、歩いてるだけで人目を引いちゃう! これが美少女税ってやつなのかな? ……なんてな、なんてな! なはははは!!
「これ優越感がヤバいっスね。イケメンの彼氏をやたら自慢してきた友達の気持ちが今初めて分かったっス」
「私は面倒事の予感しかしなくて頭が痛いわ……。ちょっと顔がいいだけの子供が普通に買い物してるだけでしょ? なんで段々視線の数が増えてるのよ……?」
満足気なテルさんと重い溜息を吐き出すお母さんの態度が対照的だが、お母さんの疑問に答えるなら、それはやはり、私達が美少女すぎるのがいけないのだろう。美しさはどの世界でも人を惑わす魔性なのだ。うふん、悪いねぇ。うひひひひ。
完璧に勝ち誇ったドヤ顔を晒しながらも身体に染み付いた優雅な歩き方が乱れることは無い。買ってもらったスニーカーも履き心地が異世界の物とは比べ物にならず、ただ歩くだけでも否応なく気分が昂ってゆく。
あとこれ、私のこのぬいぐるみもさあー! 低反発ってゆーの? もにゅんもにゅんで触り心地が最高なのよね!! にゅるっと滑って腕から逃げてく感じがもう、なんとも言えずサイコーなのだわ! これは海洋生物の体表面を模してるのかしらん。
ふとましく魅力的なペンギンさんのお腹をもにゅんっと折れるほどに抱き締めてるだけで満足感が半端ない。
唯ちゃんの抱いてる某うさぎのキャラクターも、可愛いとは思うんだけどねー。ウサギとかクマとか、そーゆーのは……私はちょっと、いいかなって。……うん。
――思わず蘇りそうになった記憶に蓋をする。
思い出も記憶も、全ては異世界に置いてきた。
大切な人からの贈り物や……ましてや、動いて喋るぬいぐるみだなんて。
そんなファンタジーはフィクションの中にしか存在しない。
ここはもう、――のいない世界なんだ。
――パチリと意識が切り替わる。
私はソフィア――ではなく、可憐な外国人の身体に乗り移っただけの、ただの低俗な高校生に過ぎない。
魔法が使えるのは、あれだね。あまりに可哀想な境遇に神様が同情してくれたから……とか?
日本には八百万の神様がいるらしいし、私程度の不幸にでも慈悲をくれちゃう情け深い神様がいたんじゃないかな。うん、そーゆーことにでもしておいたら良いと思うなっ。
……深呼吸を、ひとつ、ふたつ。ペンギンの影に隠れて繰り返す。
嫌な動悸は幸い、後を引くことなく治まってくれた。
「ふはぁん……。デパート超好き……結婚したい……」
「馬鹿なこと言ってないで帰るわよ」
ほら、と引かれた手に歩くスピードが下がっていたことに気付く。どうやら自分で思っていた以上に心の安定に気を取られていたみたいだった。
ボケれば即座にツッコミが入る環境っていいよね。これぞ信頼に裏打ちされた関係だと思う。
あとはまあ……人の体温を感じる事も今の私には重要なのかもしれない、なんて思ったりして。今までの私ってほら、結構な頻度でお兄様に引っ付いてた訳だからね。その習慣が急になくなっちゃうと寂しさがパないのですよ。
手の平から伝わる温もりが、まるで消え行こうとする心の灯火に燃料を追加している感じとでも言えばいいかな。燃料の追加を怠ったらふとした瞬間に灯が消えてるような予感がして怖いのよねー。
……あー、ダメダメ。こんな後ろ暗い気持ちでいたら何のために向こうの世界を逃げ出して来たのか分からなくなっちゃう。
絶望で押し潰されないために、悲しみに呑み込まれないように、私はこの世界へと逃亡という名の帰還を果たしたのだ。せめてこっちの世界では楽しい未来を描かなければならない。
そのために必要なのは……まずはこの世界の楽しみをじっくりたっぷり思い出す! そして「もう大満足じゃあ〜!」って幸せのまま気絶しちゃうような幸福を思う存分味わって、嫌なこととかぜーんぶ忘れちゃおうね!
具体的には美味しい食べ物を好きなだけ食べるのが最善だと思いますね。
むふふ、私ってお手軽な女だわ。でもそこが魅力でもあるのだよね!
「お母様……じゃなかった、お母さん。あの、今度はあの食べ物が気になっているのですけど」
「嘘でしょ、まだ食べるの!? 大体アイスは最初に食べたじゃないの!?」
本気で驚いた様子のお母さんが口角泡を飛ばしながら振り返った。私としても、その反応にはわりと本気で疑問しかない。
「? アイスの入ったクレープとただのアイスは別物ですよ?」
「そうっスよ先輩。それに先輩だって、学生の時はパフェを何個も頼――」
「テル? ――黙れ」
「ハイっ! 黙るっス!!」
うむうむ、これよ。とても楽しい雰囲気になってきたね!
黙っているとどうしても後ろ向きな考えばっかりしちゃうからね。馬鹿な話で盛り上がってるくらいが私にはちょうど良いと思うのだよね〜。
洋服や雑貨などを見て回る合間に食べたソフィアのおやつの内訳は以下。
バニラ&チョコアイスの入ったクレープ→タピオカミルクティー→ソフトクリーム+ドーナツ→和風パスタ&ミルフィーユ&カフェオレ(昼食)→カスタード入りメロンパン→百均で売ってたグミとチョコ。
これにアイス(三段重ね)が加わります。「まだ食べるの!?」も納得の量ですよね。




