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子供ですから!


「ほぇぇ……」


「ほぇぇ……」


 聞きました奥さん。様々な店舗がズラーっと並んでいる光景を見て、唯ちゃんが可愛いらしい声をあげていますよ。


 そんなラブリーな光景見てたら、思わず私も「ほぇぇ……」ってなっちゃう。むしろ口に出して言ってたまである。


 美少女二人が入ってすぐの場所でそんな声出して呆けているもんだから、周囲の人の視線がそこそこ集まっているのを感じる。見物料にそこのアイス屋で何か奢ってくれたりしないかしら。なんてことを考えている間に、入り口傍に設置された案内板を眺めていたテルさんが見て回るお店の選定を終えたようだ。


「まずは服飾関係っスね。それから収納、生活必需品……。うん、とりあえずは三階っスね。一着何処にでも来ていける服を見繕って、あとはユニシロで揃えるのが懐に優しいプランだと思うっスよ。とはいえ、それでも結構かかるんスけど……」


「それはもう仕方のないことだと諦めてるわ。ああ、そうそう。この子達の事だけどね、正式に私の養子として引き取ることにしたから。また色々と手伝ってね。期待してるわよ」


「はあ、それは……、……え? マジッスか? いやでも先輩、ハルちゃんのことはどうするんスか?」


「そっちも目処が付いたから。近いうちにまた改めて報告するわね」


「はあ……? まあ先輩がいいって言うなら構わないんスけど……」


 そんな会話が交わされている間も、唯ちゃんの視線はあっちへこっちへと行ったり来たりの大忙しだ。


 まあぶっちゃけた話、私も大分テンションぶち上がってるけどね。やっぱ異世界と比べちゃうと、あらゆる物のレベルがダンチだわ。


 店内の装飾ひとつを取っても目を引くし、滅茶苦茶に美味しそうなクレープの立て看板をでかでかと置いてるアイスクリーム屋さんとか、もうね。あんなん視覚の暴力ですよ。


 あっちの喫茶店では珈琲豆をよく見えるように展示していて、見てるだけでコーヒーの芳しい香りが漂ってくるような気分にさせられるし。タコ焼き屋の看板とか、なんなの? なんであの絵、鰹節だけが踊って見えるの? あんなの見てるだけで口の中に唾が溢れてくるに決まってるじゃん、飯テロかよ。


 服もデザインが豊富で選びごたえあるし、靴や鞄だって見ているだけで気分が自然と高揚してくる。あと忘れちゃいけないのが下着! 肌着な!! 目に見える範囲には流石に置いてあるのは見えないけど、絶対確実に異世界製のものより品質いいでしょ!! 最悪服よりそっちの方が大事まである!!!


 あっちの世界の女性用下着って、なんというか、こう……防御服! って感じなのよね。かわいくなくて着心地なんて二の次、男の欲情を刺激しないことに命かけてます! みたいな感じ?


 常に違和感が付きまとうあの微妙にチクチクするあの感触には《身体防護》の魔法をちょっぴり厚めに掛けることで今まで対処してきたんだけど、魔力が貴重なこの世界では節約出来る魔力はほんの少しでも節約しておきたいところだからね。体表面全てを覆う魔法を常時発動ってそれだけでも意外と魔力使うから。まあ不意の事故を防ぐ《身体防護》を切るつもりないから、本当に節約程度にしかならないんだけどね。


 それでも着ている服の手触りというのは大切なものだ。触り心地が良ければ気分があがる。


 しかもそれが可愛い上に着心地快適、その上軽かったりしたらもう言うことなんてなーんもない。

 そんな夢のような衣服がこの世界では当たり前に手に入るのだから文明の偉大さには感服する他ないというものだ。現代社会最高すぎるぅ。


「ほらほら、こんな所で立ち止まってたら他の人達の邪魔になっちゃうっスよー。きびきび歩くっス。あ、手とか繋いだ方がいいんスかね?」


「そうね、それがいいかもしれないわね。テルには唯ちゃんの方を任せてもいい? ソフィアちゃんとは私が手を繋いで歩くから」


「お任せあれっス!」


 テルさんの元気の良い返事からすぐに「じゃあ、はい」と軽く差し伸ばされた手を微妙な気分で握り締めた。お母さんと手を繋いで買い物とかいつぶりだろう……。


 考えてみれば、あっちの世界ではあまり誰かと手を繋いだっていう記憶が無いな。握手の代わりにカーテシー。貴族社会では初対面の相手だろうと礼で挨拶を済ませることが常識だった。


 ……やー、そう考えるとなんか、お母さんと手を繋いで歩く今の状況ってわりと小っ恥ずかしい気がしてきちゃったなー……。まるで童心に還った気分というか……。


 いやまあ、今は子供の姿ではあるんだけどね。


「…………」


 見れば唯ちゃんも、手を繋ぐという行為に何かしらの感情を抱いてる様子。遠慮と嬉しさが混同したような表情で俯いていた。


「およ? 唯ちゃんは恥ずかしがり屋さんなんスかね。大丈夫ッス、今日はお姉さんが完璧にエスコートするんで唯ちゃんは安心して着いてくるだけで構わないんスよー?」


 ほほう、完璧なエスコートとな? それはちょっと興味あるね。


 思わず繋いだ手をぷらぷらさせると「なに、本当に子供みたいね?」とお母さんから揶揄うように言われてしまう。その言葉に存外ショックを受けて思わずその場で固まってしまった。


 ……た、体験しないと分かんないだろうけどね。子供の身体で暮らしてると心まで自然と子供になってくものなんだよ! これは自然な反応なんですぅ!!


「先輩。子供ってこんなに可愛いもんなんスね」

「そうね。でも実際に育てるとなればそれだけでは足りないわ。責任と覚悟が必要になるわよ」

「……そっスか。ま、ウチには子供作る相手すらいないんスけどねい」

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