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守るべき者


 お母さんに無事正体をバラしたことで、私の心はひとまずの平穏を得た。


 あとはこのままお母さんに寄生――じゃなかった。保護者としての義務を果たしてもらうことで、私はこちらの世界でも心穏やかに暮らすことが……できるといいなぁ……、なんてことを考えていたら、もうひとつ差し迫った問題があることに気付かされた。


「それじゃあご飯食べたらさっさと外行く準備しなさい」


「え? どっか行くの?」


「どっかって……あのね。いい? この家は元々あんたと私二人で暮らす為に借りたでしょ? だから唯ちゃん用の部屋がないし家具もない。生活用品もなければ服も無い。これでどうやって暮らせって……ああ、あんたには魔法があるんだっけ。それ使えば一人暮らしも楽々出来たりするのかしら? 魔法って便利ねー」


「即刻唯ちゃんの生活環境を整える必要があるんだね。了解しましたっ」


 そうねそうだね、唯ちゃんの生活基盤を整えるのは何に置いても最優先だよね。その考えには同意するよ? でもそれはそれとして、ナチュラルに追い出そうとするの酷くないかな。


 まあ私がお母さんの立場だったとして、私と唯ちゃんどちらの美少女と一緒に暮らしたいかと問われれば間違いなく唯ちゃんを選んでいただろうから、そこに関しては文句は言えないと思えなくもない。


 静かでお淑やかな美少女とかどう考えても娘としての理想系だもの、既存の娘をポーイしてその部屋に住まわせる妄想くらい秒でするよね。そしたら私の素敵極まる外見とは乖離した内面の酷さが浮き彫りになって、思わず「娘なんて一人いれば充分かも」なんて思考になっても仕方ないよね。うんうん、その気持ちわかるわかるぅー。


 ……なんて、お母さんはそんなこと考えないよね。……考えてない、よね? 頼むよホントに。


 アホな妄想したせいでほんのちょっぴりだけ不安になってしまったけれど、未だ不安定な精神の安寧の為に、ここは考えてないってことで結論づけとこう。大丈夫、魔法を使えるようになった私の利便性は異世界に渡る以前の私とは比べ物にならない。買い出しの荷物だって全部持てるよ!


「そういえば唯ちゃんの服は持ってきてなかったもんねー。どうせなら可愛い私服を――ってそうだ。その前に唯ちゃん、昨日普通に寝てたよね? 寝たふりしてた訳じゃないんだよね? もしかして朝食の時にも食欲あったりしたんじゃない?」


「あ、はい。そうです、そうなんです! 実はそれ、私も聞こうと思ってたんです」


「?? ちょっと、待ちなさい。二人だけで分かり合ってないで私にも分かるように話してくれない?」


 というお母さんの要望にお答えして、異世界で唯ちゃんがどーゆー存在だったのかを伝えてみた。


 魔力の概念がない人に「身体が魔力だけで構成されててね」とか言っても全然伝わる気がしなかったので、「要は唯ちゃんパパに異世界を構築する要として人柱にされた弊害でね、向こうの世界で暮らしてる時には唯ちゃん、寿命と睡眠欲と食欲が無かったのよ」と簡潔に説明したら、ビックリするほど簡単に私の怒りまでもが伝わった。冷笑を浮かべたお母さんが「本当に、この手で裁きを下せないのが残念でならないわ」って殺気を振りまいて唯ちゃんに微妙な顔させちゃってるけど、愛情って本当に厄介な呪縛だと思う。唯ちゃんが人間失格なゴミカスの為に悲しむ必要なんてこれっぽっちもないんだからね。


 ……あー、あーあー。なんか唯ちゃん見てたら私まで怒りが再燃してきた。


 死んで詫びろって言葉が世の中にはあるけどさ。死んで当然の人間がただ当たり前に死んだだけで詫びになるわけがないんだよねえ。


 とはいえ恐らく死亡しているだろう相手にいつまでも怒り続けるのも不毛に過ぎる。

 ここはやはり、唯ちゃんとお買い物に行って一緒に服見たりして楽しい気分になるのが健全かつ建設的で良いと思うな。


「まあ、なんだ。寝るのも食べるのも生き物として当然の行いだからね。唯ちゃんが普通に戻れたみたいで良かったよー」


「はい……!」


 うーん、相変わらずたまに見せる笑顔が眩しすぎるね。


 怒りなんていう醜い感情に染まってた私が浄化されちゃう。心がキレイキレイされちゃったソフィアちゃんとか、それもうソフィアちゃんじゃないでしょ。キレイなソフィアちゃんっていう別人でしょう。


 私も唯ちゃんみたいに人を恨まずに生きられたなら、もっと自分を好きになれたのかしら……なんて思考すると同時に、悪意の一切が排除されたあの異世界では「自分大好き! だからこんなに完璧な私は他の人だって大好きに決まってるハズッ!!」な変態(ナルシスト)共がそこそこいたことを思い出した。


 自己愛の終着点がアレだとしたら……流石にちょっとアレにはなりたくないかなぁ。私みたいに今の自分の正しさに疑問を持ってる方がまだまともでいられるのかもしれない。


 ただ、それでも……ひとつだけ確かなことがあるとすれば、それは……――。


「ねぇ、お母さん。唯ちゃんめっちゃ可愛いっしょ」


「そうね。こんなに純真な子が、今の時代にもいたなんてね……」


 ――唯ちゃんは創造神じゃなくなっても可愛いってこと。


 お母さんの気持ち分かるわー、感動するよね。唯ちゃんめっちゃいい子なんだもん。


 これからはお母さんと二人でこのピュアっピュアな唯ちゃんを守っていこう。世間の荒波なんて跳ね返してやるぁぁ!!


「かわいい」

「かわいい」

「かわいくないです……。ソフィアさんの方がかわいいです、きっと……」

遠慮する姿すらかわいいの塊。

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