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新しい朝


 朝起きて、布団を捲るとちょっぴり肌寒かったので部屋の温度を調整して。盛大な欠伸をしながら光を生み出したところでようやく私は気がついた。


 ……昨夜、私は確かに「これからは魔法を使わない生活に慣れていかなきゃ」って思ったはずだったのに、起きてから数秒でもう魔法使いまくってるよね。まだベッドから出てすらないのに。


 いくら寝起きで頭が働いてなかったからってこれやばくない? 一緒に寝たのが唯ちゃんじゃなかったら……ってあれ、唯ちゃんいないじゃん。んー、昨日は一緒に寝たはずだよね?


 むんむんと記憶を思い返してみる。


 寝ちゃった唯ちゃんを浮かせたまま運んできて、軽く睡眠魔法掛けてベッドに寝かせてー……。うん、そのまま私も一緒に寝た。っていやいやまてまて、え? は!? 唯ちゃんが……寝た? え?? あれ……え、なんで!? いや睡眠魔法が……ってんなわけない、魔力タンクの唯ちゃんに魔法なんて効くわけないよね!?


 物理的に動かせる浮遊魔法ならともかく、身体の内側に影響を与える魔法は唯ちゃんには一切通じないはず。違う。問題はそこじゃない。魔力体に過ぎないはずの唯ちゃんが寝たという事実が……いや、あれは本当に寝ていたのか? 単なる寝たフリだった可能性は? だとしたら……それはいったい何の為に?


 そわ……と嫌な予感が背筋を震わせた。魔力どっぱーん。とりあえず家中に魔力を満たして現状の把握を……ああ、よかった。想定した最悪には至っていなかったみたい。冷静に考えてみれば、唯ちゃんがお母さんを害する必要なんかあるわけないよね。


 広げた魔力を回収しつつ、再びベッドに寝転んだ。あー、朝っぱらから変に緊張したー。この世界の空気にまだまだ慣れねー!


 ふよふよと浮かぶ明かりの向こうに消灯している電灯が見える。顔を動かせば、姿見鏡に本棚、扇風機に……。向こうの世界では見ることのなかった様々な家具や家電が目に入る。本当に私は、元の世界に帰ってきたんだ。


 ……んー、ダメだな。本来ならここでまた「感動しすぎて泣いちゃううわーん!」とかなりそうなものなんだけど、ここには居ない唯ちゃんとお母さんが気になりすぎる。居間で向かい合ってるから、一緒に話でもしてるんだろうけど……あの二人って共通項ある?? 二人だけで何話すのよ。


 まあ分かんないことは聞けばいいよね。私も朝ごはん食べにいこっと。


 《アイテムボックス》から取り出した服にいそいそと着替えつつ、《浄化》に諸々の美容魔法にと一通りの流れをいつもどおりに手際良くこなす。

 朝のルーティンをこなしているだけでつくづく実感するよね。もう私、魔法のない生活送れないわ。


 洗面所もトイレも省略して朝からカンペキ可愛いソフィアちゃんを作り上げたところで居間に参上。立ち上るコーヒーの香りを楽しみながら、既に朝食を済ませた二人に挨拶をした。


「おはよー唯ちゃん、お母さん。朝から二人で何話してたの?」


「あ……おはよう、ございます」


「おはよう、ハル。彼女とは……そうね。あなたにも関係のある、()()()についての話をしていたのよ」


 なんか変な空気だと思ったらそういうことか。そもそも唯ちゃんが関心示しそうなことって考えてみたらそれ以外にはありえないもんね。


 ん? 待てよ。お母さんまでもがその話を認めたってことは、今までは唯ちゃんから聞いただけの異母姉妹説に正式な裏付けが取れたってことかな?


 ほほう、唯ちゃんがマジで私の妹とな……。それはとっても素敵じゃないかな!


「そっかそっか〜。本当に唯ちゃんとは姉妹だったか〜。誘拐犯が父親ってのは複雑な気分だけど、唯ちゃんと一緒に暮らせるのは悪くないよね〜」


「待ちなさい。なんであなたがそれ知って……いえ、そういえば会った時から『姉妹』だと言っていたわね……。……もしかしてこの子には全部話してるの?」


「全部……はい。私が知っていることは全部話したと思います」


「なるほどね」


 なるほどと勝手に納得されても私がわからん。なに? もしかしてまだ大して話聞いてないの? まあ聞きたがりのお母さんと人見知りの唯ちゃんとではあまり相性が良くなさそうだから仕方ないかな。


 用意された牛乳と食パンをもぐもぐしつつ話を聞くに、やはりお母さんは唯ちゃんの心を解きほぐすのに大分苦心しているらしい。というか、唯ちゃんの父親の名前を聞いた段階で思わず激昂しちゃったせいで怯えさせて、全然詳しい話を聞くことが出来ていなかったみたい。なにやってんだか。


 名前を聞いただけで怒るってどんだけだよと思ったのだけど、どうやら私にとっても父にあたるその人物は……まあ、なんだ。一言で言えば、過去にも色々やらかしてたらしい。


 私が軽い気持ちで「あー、やっぱりそうなんだねー」と言っただけで、お母さんが「本当に……最低の男だったわ」と強い情念を見せたのがね。もうひたすらに怖かったですわ。


 唯ちゃんがやたらと慕っている様子を見せるものだから、もしかしたら私の認識の方が間違ってるのかなと思ったりもしたけどそんなことはなかったらしい。やはりクズはクズでしたと。分かりやすくて大変結構なことだと思う。


「でも唯ちゃんはそんなお父さんのことが好きなんだよね」


「えっ、そうなの!?」


 そうなのって……え? まさかそこすら理解してなかった感じ?


 そりゃあ怖がられるのも納得ですわ。お母さんってば人の機微を感じ取るの、昔はもっと上手かったような気がするんだけどな。


娘の誘拐犯を捕まえに行ったら何故か見知らぬ二人の少女を保護する羽目になって、かと思えば銀髪美幼女が自分の娘を名乗るわ魔法は使うわ、しかも朝になったら黒髪美幼女まで娘の姉妹だと発覚して……?

人の機微を気にしてる余裕なんて、あるわけない。

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