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年月が重ねた感動の総量


「なら逆に考えてみよう。お母さん、ある日目が覚めたら自分が別の姿に変わっていて、それがどちゃクソ好みの美形かつ運動神経抜群で頭も良いスーパー超人だったらどう思う? しかもその身体を使うことにも慣れきった頃に久しぶりに元の身体を見たらどう思うと思う? 正直『私ってこんなにスペック低かったっけ……』ってかなりのショックを受けると思うよ」


「私はまさに今、あんたの言葉にわりとショックを受けてるけどね?」


 如何にこの身体(ソフィアボディ)が高水準か。

 熱く訥々と語った私に対して、お母さんは半眼で呆れながらそう言った。申し訳ないと思わなくもないが、平凡な一般的日本人女性である私にとって白色人種系の透明感はビジュアル三割増に見える補正効果がある。その上での美少女、勝てるわけない。


 つまりこれはお母さんの遺伝子が悪いというよりソフィアちゃんが可愛すぎるのが問題なわけだ。やはり可愛さは罪だったのだ……。


「でもでも正直なところ、お母さんだって嬉しいんじゃない? これからは私の事を『どーようちの娘は可愛いでしょう!!』って自慢できるんだよ? どこに出しても恥ずかしくない美少女っぷりだよ?」


「まあ黙っていればかわいいことは否定しないわ」


「喋ってても可愛いですけど。ねっ、おかーさん♪」


「…………」


 ほらほら、ほらほらぁ!! 今絶対「確かに可愛い」って思ったでしょ!? 呆れた感じを装ってても娘の目を誤魔化すことはできないんだからねっ!


 やー、困っちゃうなー! こんなに可愛かったらまた誘拐されちゃうかもしれないなー! あーどうしよ、可愛すぎてごめんなさいねー!?


 はー楽しい。可愛いの暴力でお母さんぶちのめすのちょー楽しい。クセになりそう。


 でもやりすぎると慣れた頃に反撃されそうなのが怖いのよなー。逆に言えば、慣れてない今だからこそ楽しめる遊びとも言えるんだけどね。


「あー満足した。やっぱりこーして気兼ねなく話せる相手がいないと人生に張り合いがないんだよねー」


「十数年しか生きてない小娘が何言ってんの」


「あっ、そうそうそれそれ! ねぇ、私ってどれくらい行方不明になってたの? 異世界って時間の流れが違うみたいでさ、流石に十五年経ってたりはしないんだよね?」


「十五年って……はぁ。もう私にはあんたが冗談言ってるのか本気で言ってるのか分かんないわ。あんたが急に姿を消してから、今日で……八十五日。あんたは三ヶ月近くも私に心配を掛けてたのよ。そのことについて言うことは無いの?」


「は……」


 八……え? 三ヶ月……?


 ものすんごい恨みがましい視線を向けられたけど、ちょっと今はそれどころじゃない。


 ……三ヶ月。三ヶ月か。その長さは、ある日突然音信不通になった娘を心配するには充分すぎる期間だろう。でも心配が問題なく持続する期間とも言える。


 私は……十五年。十五年間、ずっと独りで生きてきた。


 元の世界に繋がる手掛かりなんて全くなくて、お母さんとは二度と会えない覚悟だってしてた。あの異世界の地で骨を埋めることになるのかもって、何回も考えて、その度に不安になって、悲しくなって……。でもお母さんとは別の暖かな家族の為にって感情を心の奥底に隠す技術を磨いた。そのまま常に明るく振る舞う癖が身について、このまま一生、誰にも本心を打ち明けられないままに大人になる自分の姿を想像だってしてた。


 だからこそ、……だからこそ、こちらの世界に逃げ帰ってきたあの時あの場所で、お母さんに会えた時は奇跡だと思えた。


 絶対に、何があっても忘れないようにと何度も繰り返し思い出していたその顔で、忘却の海に還り始めていたその声で、私の前に現れてくれた奇跡に心が震えた。


 もしかしたら、私が縋っていた記憶はもはや記憶の中にしか残っていないのかもしれないと寂しく思っていたところに、記憶のままのお母さんが現れて……。私がどれだけ嬉しかったか、お母さんをお母さんと認識できるその喜びがどれほどのものだったか。お母さんにはきっと想像できないんだろうな、なんて考えていたのに、お母さんにとってそれは精々三ヶ月程度のことだったなんて……。いや三ヶ月だってそこそこあるけど……でも三ヶ月……。


 はあぁあああ〜〜……。…………マジかぁ。


 なんか一気にドッと疲れた。再会の感動を共有していたと思ったのに、これじゃまるで私の片想いみたいじゃんかあ。


「はああぁ〜」


「……なによその溜め息は」


「いやぁ、心配かけて悪かったなーとは思ってるよ? 思ってるんだけど……。行方不明の期間、私の体感だと十五年近くあったの。だからその差にちょっと、打ちひしがれてると言うか、そんな感じで……」


「……それも、冗談で言ってるわけじゃないのよね?」


「マジだよ、大マジ。たった三ヶ月ぽっちであそこまでボロ泣きするわけないでしょ」


「いやしなさいよ」


「いやー、持って精々一分じゃない?」


 くだらない会話も楽しいんだけど……どうしよ。気が抜けたらなんだか眠くなってきたよ。


 まあ逆にこっちで五十年とか過ぎてなくて喜ぶとこかな?


 お母さんと再会できたって点だけは手放しに喜べるし、結果オーライといえばその通りではあるんだけど……折角の感動が急激に薄れた感は否めないよね。なんだかなぁ……。


「感極まってたの、もしかしたら私だけかもしんない」


そんな想いに囚われて、ソフィアちゃんの羞恥心は絶賛急上昇中なのであります。早く眠ってリセットしたいねー?

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