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「仮に、もし仮に、あなたが本当のことを言っているとしましょうか。そうなると……、……整形? いえ、脳の移植とか? あ、分かった。あの子にそう言うようにお願いされたんでしょ。怒らないから、今あの子がどうしているのか教えてくれない? 大丈夫、私が無理矢理聞き出した事にするから何も問題ないわ。あなたが責任を感じる必要なんて全くないのよ?」


 うん、あらかじめこーなるかなーって分かっていた事とはいえ、まるで信用されてないよね。信用できない気持ちも分かるんだけどね。


 逆の立場になって考えてみよう。ある日突然姿を消したお母さんを探していたら、後日ひょんなことから知り合った美人さんが家に泊めて欲しそうな顔でこちらを見ている。何やら母に関する情報を持っていそうなので怪しみつつも招き入れると、家に入るなり豹変。アホなポーズで「実は私があなたの母でーっす! 美魔女になって帰ってきましたー! どうだ、どうよー驚いた!? びっくりしたでしょ、羨ましかろ?」とか言い出したらどう思うか。とりあえず「コイツ殴りてぇ」と思うのは確定じゃないかな。


 なるほどね、今更ながらにこんな美少女を捕まえて「殴ってもいい?」と聞かれた理由がよく分かった。

 ついでに今はそこから進んで「普通に帰ったら突然いなくなったことを確実に猛烈に怒られるから、ここは偶然知り合えた美人を先に会わせて少しでもご機嫌を取っておかなきゃ」という思考にでもなったんだろうね。あー、それで最後の方は玄関まで届くように声を張り上げたのか。凄く納得。


 だが残念ながら私達は仕込みの美少女ではなく、あなたの娘は玄関前で聞き耳を立てたまま震えてたりもしない。目の前で内心びびってるこの可愛らしいソフィアちゃんこそが正真正銘、今の私の肉体なのだ。


 ……ふむ。となると、これはどうするのが正解なのかな。


 二人しか知らないはずの思い出話でもすれば信用を得られると軽く考えていたんだけど、仕込みを疑われてる現状じゃ「あの子そんな話まであなたにしたの!?」で終わっちゃう気がする。


 ……まあそれ繰り返せば問題ないかな?

 伝えられる情報には限度があるもんね。こっちから伝えるんじゃなくて向こうから質問してもらって、その全てに正解すれば、私が怒りの緩和の為に送り込まれた人間じゃなくてあなたの探している人物そのものですよと証明出来る。


 ……出来なかったら、それはその時にでも考えるとしよう。


 よし、この方針で決定ってことで。


「信じられないのも無理はないけどそれが事実なんだからしょうがないよねー。色々疑問に思うのは分かるんだけど、今はとりあえず『なんかよく分からないけど結果的にそうなったみたい』ってことで納得してくんない? 本人確認の為の質問ならなんだって受け付けるからさ?」


「……………………」


 口調を以前のものに戻した途端、ものすんごく疑わしげな視線が隠すこともなく突き刺さってきたけど、まあこのくらいは甘んじて受け入れよう。特に気にすることなくへらっと流す。


 本当に他人だったらあまりにも失礼なそんな態度に思うところでもあったのだろうか。唐突にどデカ溜め息を吐いたお母さんは「全く信じてはいないけど、一応話には乗ってあげる」という態度バリバリで部屋の片隅を指さした。


「あそこに隠してあるエロ本の名前」


「エロ本じゃなくて同人誌な!?!? 別に隠してた訳じゃないし、しかもアレ学校(ガッコ)の友達に半ば無理やり押し付けられたやつだしぃ!? 正直私の趣味じゃないから!!」


 唯ちゃんの前で何言い出すの!?

 あっ、ほらぁ!! 唯ちゃんが「えっ、ソフィアさんってそーゆーの読むんですか……?」みたいな顔になっちゃってるじゃん!! マジでもうほんとにやめてよねもうう!!


「初めてのキスはレモン味だった?」


「んぎっ……ぐぅぅ……ッ!? ……ぱ、パン食べたんだからパンの味に決まってるでしょ……!」


 だあああ、やめろォぉおおお!! 私の黒歴史をほじくんなよォオオ!!


 大体それ、お母さんのせいじゃん!! 幼稚園でキスの話を聞いてきた私に「キス、してみる?」とか言ってキャラ物のパン渡してきたお母さんのせいじゃんん!!


 しかもその後!! 「これで幼稚園のみんなに自慢できるわね〜」って親の所業じゃねぇよ、悪魔かよ!! 本当に自慢しちゃったせいで小学校の時とか、友達どころか友達の親御さんにまでそれネタにしてからかわれたんだからな!!?


「ふぅん……。本当に本人みたいな反応するわね」


「本人だからね……!!」


 つーか実はもうほとんど納得してるでしょこれ。


 相変わらず娘を玩具と混同してる最悪な母親だわー。私は親の娯楽道具じゃないってーの!!


「じゃあ次は……はい、こっち来て」


「はいはい……」


 今度はなんだ、肩もみでもさせるつもりか? それとも腹肉でも摘むつもりか?


 別にこの身体で駄肉をバカにされてもそれ程ダメージは……いやちょっとはあるかも……なんてことを考えながら傍に寄ったら、(おもむ)ろにむぎゅっと抱き締められた。


「……本当に、(はるか)なのね?」


「そー。頭悪くないのに迂闊で天然なハルちゃんですよー」


「……そう。……そうなの」


 耳元で囁かれたと思ったら、抱き締める力が一層増した。



 ……心配かけてごめんね。やっと帰って来られたんだよ――。


なおエロ本(同人誌)のタイトルは「汗ばむ季節〜俺の瞳にロックオン〜」。

押し付けてきた友人が文化祭用に製作した部誌の一つだったが、内容が実在の男性教諭と弓道部ホープに酷似していた為に販売停止&自宅からも全処分させられて幻となった一冊らしい(友人談)。

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