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宿泊先けってーい


「そもそもの疑問なんスけど、二人は今までは何処に住んでたんスか? 両親がいなかったんなら親戚の家とかっスか?」


「いえ、私達は神殿に住んでいました。神殿騎士の方々やメイドと一緒に仲良く暮らしていたんですよ」


「はい?? 騎士? メイド?? ……冗談、ってわけでもないみたいね? え、待って。じゃああいつら、海外の良いとこの子供も(さら)ってたわけ!? はああ〜、ほんっとに最低なヤツらね! 壊滅させて正解じゃないの!!」


「その神殿の名前は分かる? 住んでた国は? 国名が分かればなんとか連絡が付けられるかもしれないわ」


「いえ、その……。……もう、ないんです。私達の帰るべき場所は、もう、どこにも」


 はっきり言っていいでしょうか。雑に作った設定で場を乗り切るのには無理があった。嘘に嘘を重ねたところで全くもって追いついていない。


 こんな事から最初から「私達、実は異世界からやって来たんです!」と真実を語っていた方がまだ話に一貫性があった気がする。最終的には頭がおかしいと思われたって、そっちの方がまだ信頼は確保出来たのではないだろうか。


 今はまだ、辛うじて無理は生じていない。怪しまれてる雰囲気もなくはないけど、確証にまでは未だ至っていないってところなのかな。


 ともあれ、このまま尋問が続けばすぐにボロが出るのは目に見えている。


 ここはひとまず話の主導権を取り戻すのが良策だろう。ちょうど二つ目のチョコレートパフェも食べ終わったところだしね。


「あの、こちらからも質問をしていいですか? 先程からそちらの方が、『あいつら』とか『ヤツら』と言っているのは、もしかしてあの建物の……?」


「そ、引き篭って怪しげな事をしてた連中があそこにはいたのよ。元々は――あー、これって私から話したらダメなやつよね? どうするのミト? 彼女たちにももちろん話を聞くつもりなんでしょ?」


「それはそうだけど……いいの? もしも有力な情報が得られたら、私はこの子達の問題に関われる余裕を無くすわよ?」


「それを自分で言っちゃうのが先輩っスよねぇ」


 そうだね。お母さんはそういう人だ。


 自分の状態を常に正確に把握していて、無理無茶無謀のリスクは極力回避するのが私の知ってるお母さんだ。その回避の仕方が「いいの? 本当にいいのね? 今の私に任せると、今晩のメニューがカップ麺になるわよ!」という謎な脅し方なのがなんとも懐かしい。


 疲れたら休む。嫌なことからはとりあえず逃げる。チャンスに出会えたら突っ込んで、目的の為には超がんばる。


 私はそれらを、この母の後ろ姿を見て学んだのだ。わざわざ宣言したからには、この人は絶対にやる。「有力な情報」とやらを手にした途端、私達の問題をほっぽり出して自分の目的のために猛進するだろうことは想像に容易い。


 ……まあ、お母さんがそれほど執着しそうな「目的」って、多分私のことだとは思うんだけどね。


「……あの、もしかしたらなんですけど。私達に聞きたいことって、拐われた女の子のことじゃ「やっぱりなにか知っているのねッ!?」


 うわっほぃ。かぶりついてきたぁ。勢い良すぎてちょっとビビったぁー……。


 まああれだけのヒントを出されれば想像はつくよね。

 もしかしたら私の事なんかスッパリ忘れて、もうとっくに一人暮らしを謳歌してる……なんて可能性もほんのちょびっとは考えていたけど、この反応を見る限り一人娘の行方にはそれなりに憂慮してくれてたみたいだ。普通に嬉しい。


 そっかー、あのお母さんが私をねー。保護した子供に我を忘れて詰め寄るほどに心配してくれてたんだねー、そっかそっかー。


 あー……、やばいなぁ。ここは驚く場面だって頭ではちゃんと分かってるのに、どうしても頬っぺがゆるっと下がってきちゃう。


 つい半日程前に、長年掛けて積み上げてきた好感度が一瞬にして反故にされる希少な体験をしてしまったからね。お母さんから変わらずに愛されてるって実感がなんか、こう……胸に染み渡ってまた涙腺が……およよ。


「南戸さんの娘さんのことなら、何も心配することはないはずですよ。その話もあって、出来れば貴女に泊めてもらえればと思っていたので――」


「今日は助かったわ、蘭。そういうことだから、この二人は私が預かる。問題は無いわね?」


「無いこともないけど……。ま、そっちは適当になんとかしとくわ。テルもいいわね?」


「えーっ!? ここで反対したら私だけ悪者じゃないスか! 先輩が預かるのには賛成っスけど、シャチョーは絶対ウチのこと扱き使うつもりっスよね!? 流れで仕事させようったってそうは問屋が卸さないっスよ!?」


「あのね、テル。仕事しない従業員を養う余裕はうちには無いのよ?」


「理不尽っスー!!」


「どこがよ!! 給料分くらいは働きなさいつってんのよこのどアホ!!」


 ぎゃーすかやり始めた二人を尻目に、さっさと席を立ったお母さんが何事も無かったように「さ、行くわよ」と私達を促した。


 えっと、これ……。え? この状況を放置してくの? え、ほんとに?


 レジさえも素通りするお母さんの後をついて歩きながら、面倒事を放置していくせめてものお詫びにと、私は感謝の念を店員さんへ送った。


 久しぶりのファミレスパフェはとても美味しかったです。どうもありがとうございました、と――。


他二名の友人より「子が付かない可愛い名前なんて絶対呼ばない!!」と謎の嫉妬を向けられ、南戸→ミトと呼ばれるようになったのだとか。

初めの頃は「ミート」と呼ばれていたが、そちらは本人の許可が降りなかったようだ。

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