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ファミレスやばたん


「とはいえ、そろそろ子供は寝る時間なのよねぇ……。……え? まだ眠くない? 本当に? よしっ! それならファミレス行きましょう!」


 というシャチョーさんにぐいぐい押されて、私達一行は近場のファミレスへと場所を移した。


 建物を出る際、警察ともまた違う大人の人達とすれ違ったり、敷地を囲む「立ち入り禁止」のテープを潜ったりもしたけど、それらについては「ここにいた悪い人達をお姉さんが捕まえたのよ」というどう解釈していいのか分からない一言で済まされていた。……お母さんが否定しないってことは、全部が全部冗談ってわけでもなさそうだよね?



 ともあれ、そのような流れで友好的な尋問の場をファミレスへと移された私達は、懐かしすぎて涙無しには見れないような人工色が眩しいクリームソーダや、透過率の高いグラスにたっぷりのクリームが詰まったハチャメチャに美味しそうなパフェを餌にされて、快く対話の席へと着いたのだった。


「それじゃあ改めて自己紹介するわね。私は南戸(みなと)(こずえ)。こっちの二人とは友人関係で、あの建物には娘を探す手掛かりを求めて調べ物に行っていたの」


「次は私ね。私立探偵をしている門脇(かどわき)蘭子(らんこ)よ。探偵って分かるかしら? 悪い人を捕まえるお仕事をしてる正義の味方よ!」


「はいはいはーい。ウチはこのええかっこしいのトコで助手をしてるテルちゃんこと、寺井(てらい)祥子(しょうこ)ちゃんっスよ。寺井の井って漢字がTEL番のマークに似てるってことでみんなからは『テル』って呼ばれてるっス。仲良くしてくれると嬉しいっスよ」


「助けて頂いたのに、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。(わたくし)はソフィア・メルクリスと申します。こちらの雛形(ひながた)(ゆい)ちゃんとは異母の姉妹関係でして……同父である父の雛形(はじめ)を頼ってあの建物に辿り着いた所までは覚えているのですが、その後の事については、記憶が混乱していまして……。唯ちゃんもそんな感じなんだよね?」


「はい、そんな感じです。……あの、本当に何から何までお世話になって……」


「いいのよ子供はそんなこと気にしないで! ほら、唯ちゃんも好きな物好きなだけ頼みなさい! そっちのソフィアちゃんを見習って、ね!」


 シャチョーさんこと門脇(ワッキー)さんが、そう言ってメニューを唯ちゃんの目の前へと差し出してくる。開いたページにはアイスやケーキ等美味しそうなデザート類が写真付きで目移りするほどに並んでいた。


 ……う、うーむ。一応頑張って済ました感じで自己紹介返しをしてみたのだが、どうやら来店直後のメニューを眺める様子があからさまに子供っぽすぎて舐められてる予感。私の貴族モードがこれほど意味を成さないのはちょっとばかし想定外だ。


 これならいっそ、子供っぽさを全面に押し出した方が得策かな?


 いやいや実年齢を伝えた時に騙していたと思われてしまっては都合が悪い。ここはやはり、当初想定していた通りに唯ちゃんの頼れる姉という認識を強める方向で――


「お待たせしましたー。ストロベリーパフェをご注文のお客様ー」


「!」


 ――と思ったのだけど、別にどっちが姉に見られるかとかどうでもいいよね。


 世の中には妹よりも落ち着きのない姉だっている。妹よりも空気の読めない姉だっている。


 目の前にやってきた約十五年振りとなるザ・パフェの芸術品に勝るとも劣らない威容を前にして少しばかり羽目を外してしまったところで誰にそれが責められようか。私は自尊心を満たす見栄よりも幸福感を満たす食欲を優先したい。唯ちゃんが私の妹という事実は変わりようがないのだからそれで満足すればいいじゃないか。美味しいものは美味しく頂くのが礼儀ってそれ百万年前からの変わらない常識っ、はあぁ〜ん! キンッキンに冷えたパフェうんっまあ!! 超うんまあ!! 幸福汁がドバドバ溢れて止まんないよおぉおお!!


「おー、美味そっスね。夜中に甘いものとは、ソフィアちゃんも中々のワルっスねぇ」


「うま……うんまぁ……っ、はあ……おいしぃいぃ……」


 やばいってこれ。エグいってこれぇ……!


 異世界で食べてたパフェと何が違うんだろ。ひんやりアイスが乗っかってること? それとも生クリームの滑らかさかな?


 いや〜〜、もう何が違うとかどうでもいいや。このパフェは美味い。それで充分。他の感想は蛇足ですわ。


「……とんでもない顔して食べる子ね」


「スタバ連れてったらこの子昇天しちゃうんじゃない?」


「こんなに幸せそうに食べて貰えるなら、お店の人もきっと大満足してるっスね」


 あー……そういえば私って嫌なことあった時にはヤケ食いするタイプだったわ。食べてたら不意に思い出した。


 そうだよねー、ろくに心構えもしないまま異世界から逃げ出す羽目になったんだもんねー。美味しいものをヤケ食いでもしないとやってらんないよねーあははのはー。


 いつの間にか近くに置かれてたクリームソーダもちゅーっと一杯。


 んほぅ、この甘さと炭酸の感触が溜まりませんなぁ!


「はあー……。しあわせ……」


 どうしよ、まるで炭酸の泡に理性がぷつぷつと溶かされてるみたい。


 やっぱり子供って最高だわー。美少女って最強だわー。

 望めば望むだけ美味しいものを貢がれるなんて、こんなのまともな生活送れなくなっちゃう。


 てゆーかもうこのままファミレスに住めないかなぁ……。


 店長がロリコンだったらわりと現実的な気がするんだけど、唯ちゃんのことを考えるとやっぱり無しかな。それでも……って、ああもういいや! 面倒なことは全部食べ終えてから考えよっと!


「美少女に熱をあげるシャチョーの気持ちが不本意ながら理解できてしまったっス」

「テルもようやく理解した?あの笑顔を守る為ならなんだってしてやろうって気持ちになっちゃうでしょ?私だけが異常な訳じゃないのよ」

「いやこれは明らかに特殊なケースでしょうよ……」

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