美少女二人、引き取り手を募集しています
タイプの違う美少女が二人。双方共に家なき子。
順当な手順を踏むなら恐らく、警察のお世話になるのだろうけど……。私としては二人まとめてお母さんの元で暮らすのが望ましかった。
だからね、シャチョーさんが戻ってきて早々「話は聞いたわ。住む場所がないならうちの事務所に来ればいいじゃない」と微量の熱量を篭もった発言をして、それに聞いたテルさんが「流石はシャチョーっスね! 可愛い子の為なら自分の城さえ開け渡せるなんて器がメチャ広でカンドーっス! あ、もちろん事務所の合鍵と権利書は全部置いてってくれるんスよね? この子達の面倒はウチと先輩で責任持って見ますんで、元シャチョーはどーぞ橋の下で余生をお楽しみ下さいっス」なんて無理筋な冗談を繰り出したりして二人でぎゃいぎゃいとやり合ってる間に、こっそり唯ちゃんに耳打ちしたんだ。「血縁のこと明かしてお母さんのとこで一緒に暮らさない?」って。
そしたらなんとね、私の言葉に驚愕の反応を示した人が二人もいたんだ。びっくりだよね。
「あの人、ソフィアさんのお母さんだったの?」とまず唯ちゃんが驚いて。続いて明らかにその言葉に反応した様子で「え、私達の中にあの子の母親がいるの!?」とばかりに口争いを続ける二人を信じられない顔で眺め呆けるお母さん。相変わらずとんでもない地獄耳だねぇ……。
わざわざ大声に紛れるタイミングを狙って内緒話を仕掛けたのに、どう見たって筒抜けだ。魔力なんてケチらず《遮音》した方が良かったかもしれない。今更だけどね。
「うん、そうだよ。てっきりもう察してるものかと思ってたんだけど……逆にどんな関係だと思ってたの?」
「仲の良かった顔見知りとか、知り合いとか……? そういう人なのかなって思ってました」
ふーむ……? 知り合いレベルで顔みた途端に泣くってのは……ああいや、でも最初にそういう人に会ってたら確かに、そういう流れにはなってたかもしれない。
「私、本当に戻ってきたんだ……!」って感動はある一定以上の思い出がある相手なら成立するしね。まあこの面子の中じゃ、お母さん以外には感極まることはなさそうだけどね。
「そっか。それで、どうかな? 唯ちゃんってこっちに頼れる人とかいないんだよね?」
「……そう、ですね。私はもう、ソフィアさん以外に頼れる人はいませんから。ソフィアさんにすべてお任せします」
「ん、了解」
お任せされちゃったら頑張らない訳にはいかないよねぇ。
実際問題、現時点では私にだって頼れる人なんていないんだけど、それでも誰が頼りになるのかって知識とその人と取引出来る交渉材料なら所持している。
個人的な感情を抜きにしても、まずはこの世界での足場を築くことが肝要だ。そう考えればこちらに来て早々お母さんと出会えたのは幸先が良い。この人なら本気で縋りつけばまず間違いなく助けてくれると断言出来る。
……善意を利用するみたいで若干気が引けるけど、これも自分で育てた娘のわがままってことで。
問題はどうやってそこまで話を持っていくかなんだけど……まあ他二名をうまく誘導すればどうにかなるでしょ。
「あの……少し、いいですか?」
唯ちゃんとの内緒話を切り上げて、未だにギャーギャー言い合ってる二人にも聞こえるか聞こえないか程度の声を出す。
話しかけたお母さんが真っ先に反応したけど、それを契機にずっと聞こえていた喧しい声はピタッと止まった。あるいは賑やかしい言い争いも私達への配慮の一環だったのかもしれないと思った。
「うん、いいわよ。なにかしら」
「私達は先ほどもお話したとおり、行く宛てがないので……我がままを言える立場でないのは、分かってるんですけど。それでも出来れば、そちらのお姉さんのお世話になる訳にはいかないでしょうか……?」
「……!?」
唯一私達の内緒話を聞いていたお母さんが目を見開いて驚きを示した。いや驚きだけならその後ろで「なっ!?」って過剰に反応してる人がいるんだけど、そこはスルーで。
「だから言ったじゃないスか。シャチョーには色々と足らないんスよ。甲斐性とかお金とか落ち着きとか〜」と容赦なく追撃するテルさんの言は全く的を得てはいないんだけど、この際そういうことにしておくべきだろうか。他に私の正体を明かさないままにお母さんを選ぶ順当な理由が思いつかない。
ただ、合理性のある説明がなくとも私の要求はなんとか受け入れられたらしい。お母さんは渋々といった感情を隠しながらも、表面的には笑顔のままに快諾した。
「そう、ね。この中では私が一番向いてるでしょうね。分かったわ、安心しなさい。子供二人の面倒を見るくらい――」
「ちょっと待ったあぁーー!!」
このままスムーズに話が決まるかと思われたその時、突然の大声で言葉を遮ったのは誰あろうシャチョーさんである。
「二人を誰が預かるかについてはもう少し考えてからでもいいんじゃない? ほら、色々と話も聞かなきゃだし? ……ね!?」
わあー、必死だー。そんなに私達とお近付きになりたいのかな? まあ私達、その手の人にはかなりウケそうな顔面してるからね。
ただ呆れ果てたようなテルさんとは違って、お母さんが苦笑ひとつでその提案を受け入れてたのが妙に印象的で……。
もしかして今のもわざと邪魔したのかな?
欲望のままに動いているように見えて、実はなにか隠された意図があって……ということもあるのかもしれない。三人の様子を見ていて、ふとそんなふうに思ったのだった。
「あっちの表情がコロコロ変わるキレイな子見てると、なぁんか誰かを思い出すんスよねぇ……」




