唯ちゃんと母が仲良くなった
そんな訳で、虚実入り混ぜた私達の設定を作ることにした。
――英国生まれのソフィアちゃん。日本生まれの唯ちゃん。二人は異母姉妹でありながら最近になるまでその事実を知ることはなく、この施設で初めて出会った。
え? この部屋に突然現れたのはどうやったかって?
ごめんなさい、何言ってるかわかんないです。大人の人達がよく「実験」とか言って、色々してきたことは覚えてるんですが……。
そんなことを話してるうちに「分かったわ、もう十分。辛いことを思い出させてごめんなさいね」と説明は途中で切り上げられた。唯ちゃんが若干不満そうな顔をしているけれど、意図的に無視。私は唯ちゃんに酷いことした人達のことを許すつもりはないんだからね。
そうして私まで不機嫌顔になったことでまたお母さんが勘違いをする。「ここにいた人達には然るべき裁きが下るわ。あなた達の悲しみはここで終わらせる。必ずね」とキメ顔で何やら語ってるけど、この状況で私が正体バラしたらどうなるだろうか。今後一生に渡ってニヨニヨできるネタになること間違いなしだね。
そんな妄想をしてたから、きっと頬が緩んでたんだろうね。私の顔を見たお母さんが「やっと笑ってくれたわね」とか言っちゃってくれてるんだけど……ごめんね、マジでごめん。お母さんが小さい女の子相手にはそんな優しい顔をするってこと、私全然知らなかった。今後口喧嘩になった時には「あーあ、お母さんは女の子の悲しみを終わらせてくれるヒーローだと思ったんだけどなぁー!」が私の必殺技になりそうだわ。
……まあ、現時点では寂しいことに、そんな未来が迎えられるかはまだ定まっていないんだけどね。
大泣き、冷静、不満、愉悦、そして最後に悲しみと、様々に表情を変化させた私を注視する一方、お母さんは言葉少なな唯ちゃんの方にも大分気をつかっているように感じられる。
その証拠とでもいうように、今度は唯ちゃん個人に向かって言葉が投げかけられた。
「そちらの黒髪の子は、唯ちゃんと言ったかしら。妹さんのことを守っているのよね。立派だわ。私達も、出来れば妹さんを守るのに協力させてもらいたいと思っているのだけど……どうかしら? 私達のことはまだ信用出来ないかな?」
待てーい。
待て待てーい。
妹さん? え? は?? 誰が誰の妹だって? その節穴の目ん玉かっぽじってよーく洗え? そんでもう一回はめ込んでからよく見さらせ?
唯ちゃんの方がまだ身長低いでしょ? 胸だって私の方が膨らんでるでしょ? 両方数センチ程度の差かもしれないけど、そこには確かな差異があるでしょ? そんな確認もせずに確信するほど私の妹度は高くないでしょ?
反射的にそんな思考に陥ったものの、私には至高のお兄様がいた期間が長かった為、私個人として見た場合には妹度はかなり高くなっている可能性があるのだと考え直した。反面、唯ちゃんの姉度は恐らくゼロ。誰もが認める基準点だ。
お兄様に日頃から甘えまくってたせいで圧倒的に高まった妹度を誇るこの私と、姉度ゼロ、妹度ひよっこの唯ちゃんを見比べれば、そりゃあ私の方が妹っぽく見えることだろうさ。その理解に至った瞬間、私は海よりも深く納得した。
……まあ私なんぞの納得なんて、誰も求めてないって知ってたけどね!
私以外に唯一、姉が私の方だと知る唯ちゃんなんて、お母さんの質問に答えるために真剣に頭を悩ませている。真摯に考え込むその姿は成程、確かに姉としての責任感を感じさせた。
「……あなたのことは、たぶん、信用できると思います。でもさっきの女の人達のことは……すみません。よく知らない人のことは、どう受け入れればいいのかわからないんです」
「そう。そうよね……。ううん、いいの。今はそれで十分。私の事だけでも信用してくれてありがとうね」
「いえ……」
そしてそのまま、二人の間には微妙に居心地の悪い沈黙が居座り始めた……。
えー……はい。これはあれかな。もう私の方が妹っていう誤解は解かない方向で確定しちゃった感じなのかな? うん、まあそうなる予感はしてたけどね?
別に断固抗議したい程に不服って訳ではないからいいんだけどね。どーせあと数年もすれば、唯ちゃんにだって余裕で身長追い越されるだろうし。今のうちに未来の面倒事を回避したと思えば、それはそれで……うん……別に何も構わないし……。
あっ、でもそうか。私の成長が止まってたのが魔力的な要因に拠るものなら、こっちの世界に戻ってきたことでまた成長を始めたりする? その可能性は高いんじゃないかなっ?
やっば、うはやばー。なんか急激に元気出てきた!
これから毎日朝起きたら身長測ろうかな。いやその前に良質な睡眠環境の確保が優先かな? おおう、やる気がもりもりと湧いてきたぞぉー!
とはいえ、ソフィアさんは見た目は子供でも中身は気遣える大人なので。このしんみりとした空気をぶち壊すような無作法をかますつもりはないんですのよ。
それにどうせ、私が何かしなくても間もなく空気は緩むからね。ほらほらきたきた、さん、に、いち……今。
「ただいまーっス。怖い女の人はちゃんと外に捨ててきたっスよー。もう安心して大丈夫っス」
「ご苦労様」
ナイスタイミング、テルさん。
それじゃあ改めてこの四人で、私達異世界子供組の未来についての話をしましょうかねー。
一方その頃、屋外へポイされたシャチョーさんはといえば。
「そうよね、ダメよね。いくら可愛くたってあれはダメよね。嫌われないで出来るだけ長くお話する為にも、欲望は表に出さないようにしないと……」
あんまり反省はしていないようだ。




