時間を空けると話しづらくなるやつ
気まずい。
先生の話を聞きながら、この失態をどう取り戻そうかと頭を働かせる。
隣に座っているヴァレリーちゃんは、私と同じように気まずさを持て余しているように見える。
そりゃあそうだろう。
一度会っただけの人が声を掛けてきて。
なんだろうと顔を上げたら、「実は――」と話し始めた、まさにその時。先生が教室に入ってきて休み時間は終了。話が中断されるとは。
見計らったようなタイミングで参っちゃうよ。
いやホントごめん。
「実は――」なんて台詞、後に続く言葉が気になるよね。
私だったら気になり過ぎて、良いパターンと悪いパターン、そこから派生する今後の学院生活までもを何通りも考えて一喜一憂、一人百面相してればいくらでも時間潰せる自信あるよ。
もっとさらっと言うつもりだったのに、あんな意味深な切り方しちゃったせいでこっちも戸惑ってるんだ。
ただ友達になろう、って言うだけのつもりだったのに。
これだけの間を開けたらなんか、そんな短い用件で本当にいいのか私も自信なくなってきた。ああいうのは勢いが大事だから。
冷静になると、ほら。恥ずかしい台詞かなあとか、色々ね。考えちゃって。
チラリと横目でヴァレリーちゃんを窺うとこちらを見つめていた瞳と目が合った。ぴゃっと逸らすのかわいい。いやそうではなく。
どうしようかと思案しながら見つめ続けていると、また、そっと視線を向けてきて、再度目が合う。肩がビックゥと震えて、口がアワアワと動いて、今度はゆっくりと俯いた。耳が真っ赤だ。かわいい。かわいすぎる。
どうしよう、この子見てると飽きない。いつまででも見てられそう。
やっぱり友達になるのは確定で、なんならお姉様とか呼ばれるのもアリかもしれない。
あの幼い声で「おねぇさま」なんて呼ばれた日にはそりゃあもう、ぅおっと、よだれ出てないよね。
今なら私を可愛がるお姉様の気持ちも分かるわ。
同い年でもそこはそれ。これは真剣に検討する必要があるかもしれない。
そんな妄想を垂れ流していたら冷え切った声がかけられた。
「メルクリスとヴァレリー。話を聞いていたか」
横向いてるのと俯いてるの。
明らかに聞いてないよね。せんせーごめん。
「失礼致しました。先に行われた入学試験の結果を発表するのですよね。私も自分の順位や優秀な方は気になりますから、とても楽しみです」
一瞬で表情を取り繕って対応した。
よだれが出てたらこうはいかなかったね、あぶないあぶない。
特にお咎めはなく、先生は一つ頷くと生徒達に向き直った。
「そうか。成績優秀な者を覚えておくのはいい事だな。皆も、上位の者はなぜ上位であるのか。学び方が違うのか。学ぶ姿勢が違うのか。己との違いを見極め、模倣し、力と為せ。このクラスの者は皆優秀だ。全員が己の教師足りうると認識して過ごすことで、密度の濃い時間を過ごせるだろう」
どうでもいいけどこの先生友達いるのかな。
自分磨きは結構なことだけど、クラスメイト全員を教師と思って過ごすとか、嫌だよ。
学べる部分も尊敬出来る部分もあるだろうけど、一方的に与えられる「教師」としてではなく、お互いに影響し合える「友達」の方が良いと思うんだけどな。
ま、価値観は人それぞれかね。
「では成績を発表する。成績下位の者から――」
先生の視線が外れたのを確認して、そっと隣を窺う。
ヴァレリーちゃんはキチンと前を向いていた。かわいい。いやそれはおかしい。彼女は真面目に先生の方を向いているだけだ。なのにかわいい。違う、おかしくない。ヴァレリーちゃんがかわいすぎるだけだ。
というか私の頭がおかしい。ヴァレリーちゃんは確かに超絶かわいいけどここまで視線が釘漬けにされる程ではなかった。なぜだ。魅了の魔法でもかけられたか。いかん、冷静にならねば。
軽く瞑想をして心身を落ち着けていたら、俄に教室がざわめいた。
なにかと思って耳をすませば、王子が筆記の試験で次席だったのが意外らしい。
ヒース王子は優秀であられるから当然首席だと誰もが思っていたと。ふーん、そりゃすごいね。
ん? あれ、ってことは首席が別にいる? それってヤバくない?
いや、私はざわめきが起きる前に名前を呼ばれた……ような気がする。多分。めいびー。
順位は後で貼り出すって言ってたから聞く必要ないと思って油断してた。いや聞いてても結果変わらないんだけど、ヤバい、混乱してる。まさかあれで首席とか。王子様なら満点取れよ。
こんなことなら腕相撲とかして注目集めるんじゃなかった!
内心で大慌ての私を置き去りに、先生が淡々と首席の名を読み上げた。
完全無欠の体内(脳内)時計があっても有効活用できない人。いとおかし。