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母の友人テル&ワッキー


「ねぇちょっと、どういうことなの? なんで子供が迷い込んでるのよ。ここって封鎖してたんじゃないの?」


「してたわよ。今もしてる、確認取った。あたしなんてドアのすぐ隣りでずっと作業してたのよ? 誰かが出入りしたなら間違いなく気付くわ。祥子が大事にしてる赤ワイン賭けてもいいわよ、そのくらい絶対の自信があるもの」


「ちょおーっ! なんでウチの秘蔵っ子勝手に賭けてるんスか!? 先輩なんてやっすい缶で満足出来るんだからそれ飲ませときゃいいじゃないスか! こちとら手取り十万にも届かないんスよ!?」


「テル、うるさい。減給するわよ」


「理不尽っスー!!」


 うわー……。うわー、超懐かしい。お母さんの友達のテル(寺井祥子)さんだ。相変わらずハチャメチャ元気いいね。


 もう一人の方も見覚えがある。こちらもお母さんの古くからの友人で、名前は確か……中脇……いや、門脇……?


 愛称が「ワッキー」だということは覚えているのだけど、それ以外はいまいち思い出せない。ていうか家に来てた時のダラケた姿との格差がえげつないな。これぞ大人の女性って感じが物凄くするよね。



 世界を渡った直後にまさかの実母と不意の遭遇を果たした私達は、そのまま「進入禁止の建物に入り込んだ近所の子供」として保護されていた。それというのも、再会直後に突如大泣きし始めた私の行動が大いに関係している。不本意ながらあの行動が「保護すべき子供」としての認識を確固たるものにしたらしいのだ。


 まあね、お母さん達の気持ちは分かるよ。


 見た目小さい子供が二人でいて、その片方が大人を見るなり泣き出して。もう片方の子が慰める傍ら警戒したような様子を見せれば「怖くないよ〜、私達はいいお姉さんだよ〜」という態度を取りたくなるその心情については理解出来る。


 お姉さんって歳じゃないだろというのは当然のツッコミは一旦保留しておくにしても、私の知るお母さんなら泣いてる子供を放置なんてまあしないよね。それも助ける対象が見た目完璧な美少女であれば助ける確率に大幅なバフが掛かるのは確定だ。そっちの方は他二名の嗜好だけどね。


「じゃあ最初からこの部屋に隠れてたってこと? ……っかしいなぁ、一応全部見回ったつもりだったんだけど……」


「子供は時に、大人には想像もつかない行動をすることがあるものね。……とはいえ確かに、この部屋に子供二人が隠れらそうな場所は見当たらないわね。……まさかあいつらが作り出した幽霊ってわけでもないでしょうし」


「ちょっとシャチョー、いくらこの子らが好みにドンピシャだからって人権無視しちゃダメっスよー? お持ち帰りしたいんならちゃんと親御さんの許可を取るっス。シャチョーが捕まったらウチの住む場所もなくなるんスからね」


「それは勿論……ってちょっと、人聞きの悪いこと言わないでくれる!? お持ち帰りじゃなくて保護よ、保・護! 危険の無い場所で少し預かるだけだから!」

 

「やっぱり連れ帰る気満々じゃないスか……」


 うはー、この空気感なつかしー。やっと収まってきた涙がまた滲んできちゃうよ、キリがないねー。


 私としては遠い過去の記憶にあるような懐かしいやり取りが目の前で再現されて「ああ、本当に帰ってきたんだなぁ」って思わずうるっとしただけなんだけど、同じやり取りを見ていた唯ちゃんは当然といえば当然、ほっこりした気持ちにはならなかったらしい。私の頭を抱き込んだまま、警戒感から身体に力が篭められたのを感じる。誘拐されるとでも思ったのかな?


 警戒する必要のない相手だと伝えてあげたいところなんだけど、困ったことに私の母は地獄耳と呼ばれる人種なのだ。この距離でのひそひそ話は盗み聞かれる可能性がある。唯ちゃん相手じゃ念話も出来ないし、どうしたものかな。


「あ、ほらー! シャチョーが欲望ダダ漏れにしてるから! 可哀想に、この子達すっかり怖がっちゃってるじゃないっスか! 大丈夫っスよー。このおばさん、ヒステリックで情緒不安定気味だけど仕事は割と出来るっス。ちゃんとキミタチを両親の元まで帰すっスよ」


「ええ、その点に関しては保証するわ。必要な諸経費も全てテルの給料から天引きするから帰るまでに好きなだけ贅沢をしたっていいのよ。お寿司とか好き?」


「ちょおーっ! なんでウチの給料から出そうとするんスか!? シャチョーのそーゆーとこが男にモテない原因なんスよ! 器がちぃーさいんスよ! 給料ももっと増やして下さいっス!」


「どさくさに紛れたって増やすわけないでしょ。そもそもあんたこそ雇われのクセに、毎回あたしの仕事増やしてるだけじゃないの。文句言う前にちゃんと仕事こなしなさいよね」


「それはシャチョーが経費ケチってるせいじゃないっスか!? 昨日機械が壊れたのだって――」


 わーわーぎゃーぎゃーと言い合う二人。


 そんな二人の様子を見て、呆れた溜め息を吐いたお母さんが私たちの傍に寄り、目線の高さを合わせるためにしゃがみこんだ。


「うるさくしてごめんなさいね。二人のことは私が責任持って家に帰してあげるから安心してね?」


 その言葉に、揃ってピクリと反応した。


 ……安心させようと思って出た言葉だって分かってはいるんだけど、お母さんにしては迂闊だったね。


 私たち、もう帰る家なんてないんだよねー。あははは……はぁ。


「可愛い子がいたわ」

「やたらめったら可愛い子がいるわね」

「和洋の美少女が揃い踏みっスね!シャチョー、職権利用して盗撮したらダメっスからね!」

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