止まらない変革
頻度がおかしい。異常に過ぎる。
まるでリンゼちゃんに相談したあの夜が何らかのトリガーにでもなっていたかのように、あの日を境にポンポコ世界が塗り変わってる。お絵描きを覚えたばかりの幼児だってこんな頻繁に家の壁紙を塗り替えたりはしないと思うよ。
しかも今回は私に近しい人の性格にまで影響が出てる。
はっきり言ってね、もう無理です。限界。のほほんへらっと無視できる範疇超えちゃいました。あまりにも辛すぎてゲボ吐きそう。
知ってる人の性格がある日突然変わるのってこんなにも心にダメージを受けるものなんだなって、知りたくもないことを知ってしまったソフィアちゃんなのでした。ちゃんちゃん。
「今日もリンゼちゃん連れて、唯ちゃんとちょっとお話してきますね」
「……大丈夫かい? なんだかあまり顔色が良くないように見えるのだけど」
「あんまり大丈夫ではないですけど、まあ休めばなんとかなりそうなので」
「そうか。……くれぐれも無理をしちゃダメだよ。今日はきちんと休むように」
「はい」
お兄様が気遣ってくれるのは嬉しい限りなんだけど、そのお兄様でさえも若干雰囲気が違うんだよなぁ……。
もう唯ちゃん以外の人達みんなが、実は昨夜のうちに宇宙人と入れ替わっているんじゃないかなんて突拍子のない妄想にでも囚われそうだ。いっそそっちの方が救いがありそう。なにせ本物を取り戻せばたちまち解決しちゃうんだもんね。
しかし現実に慈悲はなく、お兄様たちの異常な態度を解決する手段に一切の手掛かりがない。「元に戻れ〜」「一昨日の状態にまで戻れ〜」とどれだけ念じたところで世界は何の反応も示さない。
そのくせ諦めた頃になって唐突に願いの一部分だけを曲解して叶えるんだ。使い勝手が悪すぎて、こんなの呪いと言って差し支えない。呪われ聖女とか笑い話にもならんだろーよ。
「はあ……」
憂鬱な気分を隠すことも出来ずに唯ちゃんの部屋へ。
もうねー……もう、本当にこんなの、どうしたらいいんだろうね?
過去に戻ってやり直すというのも考えたのだけど、原因不明の出来事では過去に戻ったところで阻止もできない。まずは現実がこうも不安定なものになってしまった原因を割り出して……といきたいところなのだけど、リンゼちゃんが言うには、私には元々世界を自在に操れる素質が備わっていたとのことらしく。原因である私が過去に戻ったところで、移動先である過去から改変が始まるだけの結果に終わる可能性が高いのだそうだ。
つまりはね、私が消えれば万事解決。困った時のリンゼちゃん相談室の結論がそれ。私が自分でどうにかしない限り、決してこの異変は収まらない。
はあー……。もう、ほんとにね。はあー……って溜め息しか出ないよこんなの。いったい私が何したってゆーのさ。
これもお兄様との婚姻に至る為の愛の試練――とか思い込めたら良かったのだけど、いまいちそーゆー気分にもなれないんだよねぇ。わざわざ世界の方を変えなくたってお兄様とは相思相愛だったのだから、いずれは兄妹という試練を乗り越えくっつくことが確定してたわけで。むしろお兄様がちょっぴり変になってしまった分マイナスまである。
……んー、こうやって悩むばかりなのもよくないと分かってはいるんだけど、どうしてもなぁ。てゆーか今日のは中々に強烈だった。まさかカイルが私とミュラーに甘い言葉を向けるなんて……。
なんだろうねあれ。「美人は世界の宝」とか「男は女性を大切にすべし」みたいな変な常識が生まれたとか? でもそれって世界の変革というよりは常識の歪みというか、社会通念の変化というか……。
魔物が生まれなくなったこととは明らかに別系統の変化だよね?
世界から特定の存在が認識ごと消えたのに比べると、あまりにもしょぼすぎる気がするんだよなぁ……。
ああ、「世界から罵倒という概念が消えた」とかいう可能性もある……いや、それはないか。まだ朝だってのに、もう考えるのにも疲れてきたよ……。
「とん、とん、とん。こんにちは唯ちゃん、遊びに来たよー」
まあいいや。今日も今日とて唯ちゃんに癒してもらっちゃおっと。
我ながら情けないことではあるんだけど、今は少し心が弱ってる感じだからね。人の温もりは必須なんだ。それも私に優しい人の温もりがね?
無理言ってお兄様に甘えることも考えたのだけど、今のお兄様は……ほら、常識の変化によって思いもかけない言葉が飛び出してくるかもしれないからね。今はまだそこまでの覚悟が出来てないんで、確実に心休まる唯ちゃんに相手してもらうのが適当かなって。唯ちゃんは素直で可愛いからね。
「こんにちわ、ソフィアさん」
「やっほ。今日もよろしくねー。リンゼちゃんは後から来るって」
「そうですか」
ほら、聞いた? これがリンゼちゃんだったらこっちも見ないで「そう」の一言で済ませてたトコだよ。
やっぱり唯ちゃんは優しいわー。私の心のオアシスだわー。
今日もたっぷりと癒されちゃおっと。
そう心に決めただけでも、心が幾分か軽くなったような気がした。
ソフィアのサボり癖も留まるところを知らない。




