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明確な異様


 結局朝を迎えるまでに例の感覚が発生する条件を突き止めることは出来なかった。それどころか、新たに一回の追加が発生したのが怖すぎる。今度はどんな常識がどんな風に変わったのやら――。


 そんなことを考えながらも今日も今日とて朝食へ赴いた私達は、そこで図らずしも変革が齎した新たな変化を実感することとなったのだった。


「やあ、おはよう。ソフィアは今日もかわいいね」


「本当にそうよね! ソフィアもミュラーもかわいすぎて困っちゃうわ!」


「ああ、まったくアリシアさんの言う通りだな。二人の顔を見るだけで今日の活力が湧いてくるってもんだよな〜」


 …………んんんー??? なんぞこれ。これは何が起きてるのかなー??


 お兄様は良い。機嫌が良い時はこんな風に唐突に褒めてくれることだって偶にはある。


 だがお姉様が私と同列にミュラーを並べる?? カイルに至っては、もはや気が狂ってるとしか思えない発言なんだが??


 カレンちゃんを隣に侍らせた状態で私らを褒めるとか、自殺したいなら目の届かない所でやってくれよとしか思えないような状況であるにもかかわらず、これまた訳の分からないことに堂々と浮気発言をしたカイルなんか気にも留めずにカレンちゃんはニッコニコ笑顔だ。なんかもう恐ろしすぎて鳥肌すら立たない。


 なんだこれ……なんなんだこれぇ?? 一体何が起こってるんだ??


「私が超絶可愛いのは常識」なんて世界に変わったのならまだしも、なんで特別視されてるのが私とミュラーの二人なんだ? ミュラーと私の共通点ってなに? 人間離れした戦闘力とか??


「どうしたのソフィア? ほら、はやくこっちに座りなさいよ」


 しかも何気に席まで変わっているらしい。


 何が嬉しくてミュラーの隣になんぞ座らなければならないのか。私の座る場所はお兄様の膝の上と産まれる前から決まってるんですが?


「えっと……私、今日はお兄様の近くで食べたいなぁ、なんて……」


 言った瞬間、ぶわっ! と質量すら感じさせる殺気がお姉様からお兄様へと向いた。


 真横から殺意を浴びせられたお兄様は突如隣席に般若が登場したことなんて気にもとめず、にへっとした笑顔で……、んんんッ!? お兄様がにへって、にへへって笑ってるうぅうう!!? 何その激レア表情かわいすぎて心臓破裂しそうなんですけども!!?!


「ロランド〜? 弟ならとーぜん、分かってるわよねぇ?」


「悪いね、姉さん。ソフィアは僕をご所望のようだよ」


 んあああっっ! かんっわいいぃいッ!! ドヤ顔かますお兄様がどちゃくそかわいい!!! 朝ごはん食べる前から私のお腹が満腹になっちゃう!!


 どーしよ、興奮しすぎて胸が苦しくなってきた。あ、ほらやっぱり、胸を抑えた手から鼓動がやばいくらい脈打ってるのが伝わってきた。食堂に私の心臓音が木霊してるんじゃないかと心配になるくらいドキドキしてんね。


 こんな状態でお兄様と密着したら間違いなく緊張してるのが伝わっちゃうなー、なんて思っていたら、剣呑な目付きをしたお姉様がブスっとした顔で爆弾を落とした。


「ふん、仕方ないわね。ソフィアはロランドに預けてあげる。今日はミュラーを愛でることにするわ」


「それが賢明だね」


 ドッコンドッコンと(うるさ)かった心臓が、今度は別の重低音を響かせ始めたような気がした。高揚してた気分がサーっと引いたよ、人体って不思議だよねぇ。


 ――……ナンデ、オネーサマがミュラーをメデルノ?


 もうね、わけわかんなすぎて怖いんすわ。実はお姉様の皮を被っただけの別人の仕業とか言われてもうっかり納得しちゃいそうになるくらい怖いんすわ。お兄様も普段とはなにかが違うんすわ。


 私を見る目が優しい。愛情を感じる。でもそれと近しい何らかの感情がミュラーの方へと向いてる気がする。お兄様が、私以外の女の子を特別な感情を込めた視線で見つめている。


 ……おおー、そっか。そうなるのか。やばいなこれ、()()()()()()()()()()()と私はこんな感情を抱くようになるのか。……これが叶っちゃったらいよいよやばいなー。


 私は心のどこかで、まだこの異世界を舐めてたのかもしれない。ここは私に都合の良い世界だと、ここでなら人生楽勝モードで悠々自適な生活できると甘く考えていたのかもしれない。


「かもしれない」どころじゃなく確定確実にそう思ってたとしても、それはまあいい。問題は「このままだと確実に私にとって都合の悪い事態が起こる」と私が強く思っちゃったことだ。


 ……これ以上なんてそうそうないでしょと思う気持ちも確かにある。だがそれ以上に、私は「私の想定する最悪なんて実は全然最悪なんかじゃないんじゃないか」という可能性に気づいてしまった。その「最悪以上」が現実に起こりうるものだと認識してしまった。


 今はまだ、なんとかこのくらいの混乱で済んでいるが……近い将来、確実に私の手にも負えない事態が巻き起こるだろう。


 その時、私は……果たして()()()()()()()()



 ……とりあえず今は、お兄様のぬくもりを感じさせてもらおーかなって。


 いつも通り、怖ーいことは全部まるっと後回しにして、私は快楽を享受する用意を始めた。


 何はなくとも、何があろうとも、お兄様とのスキンシップが何にも優先されることは至極当然の理である。脳のリソースは全部お兄様を感じる為に回しましょーねー。


世界に「妹は当然かわいいもの」という常識が加わりました。

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