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冷や汗がとまりゃん


 このままこの場所にいたら気分が悪くなって吐く。あるいは気が触れて突然奇声とか上げ始める気がする。


 そう考えた私は、これがカイル達による悪質な悪ふざけだという一縷の望みにかけて、困った時のお助けリンゼちゃんを探すことにした。魔法で神殿中を調べてみれば、リンゼちゃんは中庭の片隅で一休みしている様子。時間が惜しいので転移で移動して早速声を掛けてみた。


「リンゼちゃんっ!!!」


「っ!?」


 わたわたわたっ、と白く細い腕が中空を彷徨い、もがくように振り回された。


 やがて、べちゃっ、と草の生い茂る地面へと倒れた上半身に従い、無力にも何を掴むことの出来なかった腕が身体の上に落ちた数秒後。私はリンゼちゃんの怒りの声を聞く羽目になったのだった。


「……私の無様な姿が見れて、満足した?」


「ごめん。誤解だから。驚かすつもりはなかったんだよ……?」


 いやマジでごめんて。そんな怒んないでよ、ちゃんと反省してるからさ。


 《アイテムボックス》からタオルを取り出して渡せば、リンゼちゃんは厳しい眼差しのままにそれを受け取った。いや本当にわざとじゃないんですってば。リンゼちゃんの珍しい表情見れてラッキーと思っちゃったりはしたけどもさ。


「それじゃあ、何の用? 朝食の準備でも手伝いに来たの?」


「そうじゃなくてさ。いや、私にもなんて言ったらいいか分からないんだけど……カイル達の様子が変なんだよ。さっき少し話したんだけど、まるで魔物の事を知らないみたいな様子でさ。これってまさか昨夜の影響!? なーんて思ったらすぐにでもリンゼちゃんに報告しなきゃいけない案件な気がして――」


 我ながらよくもまあ口が回る回る。


 思っていた以上の不安にでも襲われていたのか、一度口を開けば溢れるように言葉が次々と飛び出してきた。まるで何かしら話をしていないと、不安に追い付かれて恐怖に呑み込まれてしまうと本能が()っているかのような勢いだった。


「――私だってそんな馬鹿なことあるわけないって分かってるよ? でもほら、魔法ってその馬鹿みたいなことを実現しちゃったりも出来ちゃうじゃん。だからなんて言うかなー、真面目なリンゼちゃんならそんな馬鹿げた話を『バカじゃないの?』の一言で吹き飛ばしてくれるんじゃないかなーと期待してるっていうかね?」


「はあ……」


 吐き出されたのは大きな溜め息。


 いつもと変わらないその態度は、私の不安を幾分か和らげた。――が、続いて向けられたその瞳に、呆れの他に僅かな哀れみが込められているの察知して、私は再び嫌な予感に襲われた。


 そして大変困ったことに、その嫌な予感は的中するのだ。


()()()()()()()()()()()()()、蔑んで欲しいのならそうしてあげるわよ? ただ、私はソフィアと違って暇ではないの。手短に済ませて貰えると助かるわね」


 ――どこまでだ? リンゼちゃんはどこまで記憶している?


 浅くなった呼吸を無理やりに繰り返して、必死に頭を回転させた。


「……それじゃあ、二つだけ教えてくれる? リンゼちゃん、魔物って何か知ってるかな? それと……昨夜私と会話した記憶はある?」


 どれだけ呼吸を重ねても一向に身体が楽になる気配がない。


 死が間近に迫っているような緊張感の中で、リンゼちゃんの応えを聞いた。


「魔物というのは()()()()()()()()()()()。昨夜の会話については当然覚えているけど……まさかお菓子を食べるのに夢中で話を聞いていなかったとか言い出すんじゃないでしょうね? 人の話はちゃんと聞きなさいよね、まったく」


 ……これはもう、確定……かな。皆から魔物に関する記憶が抜け落ちている。


 原因にはもちろん心当たりがある。けど、本当にそれがこの不思議な現象が起こっている原因かと問われれば、力強く断言できないのが悲しいところだ。


 だって……ねえ? あんなことで?

 私がちょぴっと考えただけで、その考えが実現する? もしそれが事実だったとしたら、今日まで他に何事も起こってなかったのがおかしいでしょ。


 だからきっと原因は別にある。……昨夜のことが事由ではない。そのはずなんだ。


「んー、そっか。答えてくれてありがとう。邪魔して悪かったね、リンゼちゃん」


 考えろ、考えろ。ひたすらに頭を回して考えろ。


 リンゼちゃんのこの態度、これはもうタチの悪いイタズラの線は消してしまってもいいだろう。そうなるとどうなる? どうする? どうやったらこんなことが可能になる?? こんなの本当に神の力としか――いや記憶の一部を改変するくらいなら魔法でも不可能とは言い切れないか? しかしこんなことをして誰が得をするというのか。そもそも魔法だと仮定しても影響範囲が――。


「……? ソフィア? ねぇ、ちょっと貴方顔色が――」


 私にだけ影響が及んでいないのは何故だ? 魔法か? 私の行動に解決策があるのか?


 寝ている時に発動している魔法と反発したか、あるいは……《浄化》で身体を清めた時に、記憶を捻じ曲げる魔法の影響を無効化した可能性もある、か。となると犯人は精神魔法の使い手……ネムちゃんの師匠のクソ賢者の線が濃厚かな?


 ぐるぐると答えの出ない思考が巡る。


 気付いた時には、私は、無意識のままでお兄様の部屋の前まで歩いてきていたみたいだった。


不可解な謎の原因はとりあえず嫌いな人に押し付けておく。

これぞソフィア流、心の安寧の保ち方である。

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