神の力
う〜ん…………。
なんか長いこと色々と説明されたけど、よーするに私の人外判定は「そうとしか考えられない」という結論から帰納的に導き出された判定らしい。どうやら元女神様でも断定はできない問題みたい。
私としては正直「ソフィアの正体は実は魔王だったのよ」とか言われる可能性まで考慮してたから、単に「ソフィアが唯と同等の能力を持ってる」とか言われても……まあ、なんていうかね。実感が薄いというか、それで私の生活がどう変わるの? って感じ。ピンと来ないと言うのが適当なのかな。
――願えば叶う。願った通りに、世界を好き勝手に改変することが出来る。
それが神の力なのだとリンゼちゃんは言うけど、私に言わせればそれは魔法の力である。魔法が神様の生み出した力だと言うなら、それは確かに神の力ではあるのだろうね。
でもなーー。願った通りに世界が変わるんだとしたら、どぉーして私は未だにお兄様と結婚できてないんだろうなーー。お母様は私に厳しいままなんだろうなーー。おかしくないかな?
リンゼちゃんの言う事を疑うわけではないんだけど、そもそも私が神ってのも無理がありすぎる。
この恵まれた愛らしい容姿で偶像の神くらいにならなれそうだけど、リンゼちゃんの言う神様ってもっと世界に直接の影響力を及ぼせるやつだよね。具体的には魔物とか作っちゃう系のやつ。私にもそれが出来るっていうの?
リンゼちゃん曰く、その疑問への解答は「可能性はあると思うわ」。
つまり試したら出来るかもしんない。
そう言われると試したくなるけど、他人様に迷惑を掛けかねない実験とかそう易々と実行には移せないよね。
「結局のところ、私が神様だーってのはリンゼちゃんの想像に過ぎないんじゃないの? だって私、唯ちゃんとは違って夜は眠くなるし食事は必須だし、それにそもそもお母様から産まれてきて赤ちゃんから今まで成長だってしてきてるんだよ? リンゼちゃんの妄想以外に神様要素全然ないじゃん」
まあ《アイテムボックス》や時止め魔法が異常だって意見には同意するけど、科学の世界でだって発明家の意図していない利用方法を別の人が見つけ出すなんてことは往々にして起こり得ることだ。魔法に関してだけそれが起こらないと考えるのはおかしくないかな。
リンゼちゃんは元神様だけあって世界の原理にだって詳しいし、普段から私へは正論ばっかり。言うことは大体が正しいことではあるんだけど、いかんせん性格が素直すぎるところがあるんだよね。
今回の件だって「唯の作った世界に唯の知らない常識があるのはおかしい」というのが私を疑うキッカケだったみたいだけど、私から言わせれば私より先に疑うべき相手がいると思う。
「唯ちゃんの考えた異世界」というその大前提を提示した人物。
即ち唯ちゃんの父親が唯ちゃんに真実を伝えていない可能性。そこを真っ先に疑うべきだと思うのだ。
「私はね、リンゼちゃんのことも唯ちゃんのことも信じてるんだ。でもだからこそ疑うこともある。二人は本当に正しい情報を元にして仮説を立てられていたのかなって」
悪人は善人の振りをして近付いてくる。
騙されたと気付くのは、大抵が取り返しがつかなくなった後のことだ。
前の世界での私の母は特に悪人という訳ではなかったけれど、それでも私を騙そうとする時には優しげな笑顔で甘言を弄していた記憶がある。
欲を刺激し、誘惑に負ける様を鑑賞し、最後には騙されたと気付き呆然とした私を見て実に愉しげに嗤うのだ。あの愉悦に染まりきった大爆笑はとてもではないが忘れられない。私が人の善意を疑ってかかるようになったのはあの経験があったからだ。
今にして思えば、あれはあまりにも純粋で無防備だった幼い私に警戒心を芽生えさせる為の母なりの愛情だったのだろうと理解はできる。が、同時に母の娯楽でもあったことを確信できる。
じゃなきゃ騙された私の映像を全部録画して保存とかしてないでしょ普通。いくらなんでも鬼畜が過ぎるわ、母親の皮を被った畜生かよ。お陰で騙されることの危険さは嫌という程思い知ったけどな!!!
そんな訳で、私としては「もしかして私って神様なのかも?」なんて突拍子もない話よりもまず先に、唯ちゃんの知識に齟齬がないかの確認がしたい。信じるにしろ疑うにしろ、まずはそこから始めるべきだと思うのだ。
「この世界しか見てきてないリンゼちゃんには分からないかもしれないけど、あっちの世界には信じられないくらいの悪人がわんさかといたからねぇ……。私的には唯ちゃんの父親もその一人なんだよ。なにせ一緒に暮らしてきた娘を実験の生贄に使ったり、私の事だって実験に強制参加させるために夜道で襲わせたりするような外道でしょ? 大事な情報は絶対隠してたと思うんだよね」
私の感情バイアスがたっぷりと掛かった憶測に、リンゼちゃんは「確かにね」と同意するような反応を見せた。その上で「それでも私は、ソフィアは唯と同等の存在だと思うわ」と改めて主張した。その心は?
「だってソフィアって、身長が低いことを嘆いてるフリして実は結構気に入ってるでしょ? それもソフィアがそう望んでいるからその姿に固定されていると考えれば辻褄が合うのよ」
「私がいつチビでいることを望んだと!?」
とんだ誤解だ! と叫んだものの、続く言葉に私の勢いは完全に殺がれてしまった。
「望んでるじゃない。違和感なく甘えられる今の姿はソフィアの考える理想の妹の姿なのでしょう? もしもソフィアがアリシア様のような体型に成長していれば、ロランド様だって今とは違う接し方になっていたでしょうね」
リンゼちゃんさんは元神様という経歴のせいか、人の感情にはちょっぴり疎いのです。
お兄様に死ぬほど甘えたいという心情が暴露されたソフィアさんは、果たしてこの羞恥責めに耐え切ることが出来るのでしょうか。




