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美少女メイドはかく語りき


 自室でひとり、触手ちゃんをうごうごと蠢かせて遊んでいると、ようやく待ちに待ってたリンゼちゃんが来た。ちゃんと飲み物の用意もしてくるあたりがメイドの鑑ね。控えめに言って最高だと思う。


 ただ内心密かに期待していたお菓子が見当たらないのだけは残念かなー。


 仕方ない。そっちは自分で用意しよっと。


 粛々と紅茶を淹れてる隣りでせっせとお菓子を取り出していると、その様子を見たリンゼちゃんから呆れた視線を頂戴してしまった。それどころか、豪勢にもこれみよがしな溜め息のサービスまで。


 そんなに蔑まれたらソフィアさん、イケナイ扉を開いてしまうよ?


「……さっき夕食を食べたばかりなのに、まだそんなに食べるつもりなの? あなたに健康の概念はないの?」


 心底呆れ返った声音は中々心に響くものがある。


 だが残念。私には心強い魔法の言葉がついているのだ。そんな上辺だけの心配じゃ私の食欲は止められないよ!


「リンゼちゃんは知らないの? 世の中には『甘いものは別腹』って言葉があるんだよ」


 なのでお菓子はどれだけ食べても無罪なのです!!


 渾身のドヤ顔を披露すると、リンゼちゃんは諦めたように「そう」と一言だけ返事をして黙ってしまった。


 うーむ、この処置無しと判断されたかのような塩対応。ゾクゾクしちゃうね!


「リンゼちゃんが『ソフィアの身体が心配なの……。お願い、お菓子は少し控えてくれない?』と可愛らしく言ってくれたら止めてもいいよ!」


「…………」


 あっあっ、無視するんですかそーですか、流石に私の対処法をよく存じてらっしゃいますね。


 コトッと音を立てて紅茶の注がれたカップが目の前に置かれた。チラ見したリンゼちゃんの瞳はまるで感情を凍らせたかのように冷え冷えとしていた。ひえ〜っ。


 ……さて、と。冗談はこの辺りにしておこうかな。今日のリンゼちゃんはちょぴっと怖いし。


 姿勢を正して真面目成分を掻き集めると、リンゼちゃんの纏う雰囲気がほんの少しだけ緩和された。……ような気がした。


 まだちょこっとだけオコの波動を感じたので、席を立ってリンゼちゃんの為に椅子を引く。

 ジト目のリンゼちゃんはチラリと私を一瞥すると、無言のまま着席した。この子大人になったらお母様みたいになりそうだよねー……。


「それで? ソフィアの人間疑惑について話せばいいのかしら?」


「あ、はい」


 人間疑惑て。


 言葉にすればその通りなんだけど、もう少しこう、私に配慮した言い回しとか無かったものかね。


 あ、そんなもの気にするだけ無駄ですか。はいはいそーですかそーですねー。


 ……相手がカイルだったら無言で腹パンしてるからなこれぇ!!


 私も大人しく着席し、リンゼちゃんの淹れてくれた紅茶で気分を落ち着ける。


 クッキーとスコーンを少々手元の皿へと移したところで、リンゼちゃんがおもむろに語りだした。


「……そもそも、ソフィアにはおかしいところが多かったのよね。いくら別世界から来た人間とはいえ、他の人達とそうは変わらない魔力量で明らかに異常な魔法を易々と生み出していて……。今にして思えば、当初からソフィアの特異性は突き抜けていたわ。なまじ人と同じ見た目をしていたから誤解したのね」


「へー」


 シャルマさんお手製のスコーンをもぐむしゃ、同じくシャルマさんお手製のクッキーもばりもぐむしゃりしながら話を聞く。どうやらリンゼちゃん的には、以前から私が人ならざる者という兆候はあったみたいだ。


「唯がどのようにしてこの世界を創造したのか、話を聞いたことがあるでしょう? この世界は彼女の知識だけを元にして作られた『唯が想像する異世界』なの。そのはずなのに……おかしいわね。この世界には唯の知らない概念がある。ソフィアの扱うアイテムボックスの魔法がその最たるものよ」


「ふーん?」


 アイテムボックスの知識くらい、もはや日本人としての常識じゃないか?


 そう思いはしたものの、とりあえず話を最後まで聞くことにした。


 小学生女子である唯ちゃんがゲームなどをやったことが無い可能性だって十分にある。私の同級生でもスマホ買って貰えたのは中学、高校からって人たちも多かったからね。


「唯が作った世界で、唯の知らない常識がある。その理由は何? 何故そんなことが起きているの? そう考えた時、原因となるものはひとつしか見当たらなかった。それがソフィア、あなたの存在よ」


「えー?」


 いやいや、その結論はちょーっと性急すぎるんじゃないかな?


 それっぽい理由が見つからないからってとりあえず人のせいにしちゃうのってどうかと思うなー。そんな問題起きたらとりあえず私のせいにするお母様みたいな考え方やめよ? 冤罪はんたーい。


 クッキー山を地道にクッキー丘へと縮小しながら話を聞いていると、朗々と語っていたリンゼちゃんの声が不意に止まった。どうしたのかと思って顔を向ければ、ものっそいジト目が私の顔面にぶっ刺さってた。


 え、もしかしてクッキー食べる音がうるさかった?


 ごめんごめん、次から口内に消音魔法展開するから許しておくれよ〜。


「……真面目に聞く気がないのなら、もう部屋に戻っても構わないかしら」


 違った。どうやら相槌がおざなりなのが気に触ったらしい。リンゼちゃんって意外とそーゆーとこ繊細なのよね。


「ちょー真面目に聞いてるけど?」


 ただほら、あれよ。お菓子がね? シャルマさんのお菓子が美味しかったから仕方ないよね。


 このままだと続きを話してもらえそうにないので、だらけつつあった姿勢を正してピシッと話を聞く体勢を整えてみた。


 お菓子は……まあ少しの間くらい我慢するか。


 さあ、これで満足かな? お話の続きを、どうぞ聞かせて?


真面目な顔して真面目な話をすることに耐えられない子なんです、許してやってつかぁさい。

単に食い意地が張っているだけというのも事実ではあるんですがね。

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