表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1363/1407

唯視点:世界の、悪者


 最近、誰もが忙しそうにしている。


 リンゼちゃんがお仕事で一緒に遊べないことが増えたのは、どうやら神殿に住んでいるみんなが、遠征……? に出ているからなんだって。その準備が結構大変なんだって言っていた。


 友達が困っていたら、お手伝いをしたいけど、私には料理も洗濯もできない……。


 結局おとなしくしてるのが一番助かるだろうなって思って、魔法の制御訓練をずっとしてるの。慌てたりして魔力が漏れると大変な事になるみたいだから、これでも結構がんばってるつもり。


 でもそうして、朝も昼も夜も、ずうっとひとりで過ごしていると、色んなことを考えちゃうんだ。……どうして私の魔力だけ特別なんだろうとか、ね。


 本当は分かってる。私はこの世界を作り上げた神様で、特別なのが当たり前。


 そのことを頭では理解してても、他の部分で納得ができていないんだと思う。私はなにも特別なんかじゃないのにって、心の奥から悲鳴のように、ずっと、ずっと、幼い私の叫び声が聞こえてくるみたい。


 泣いたってわめいたって、なんにも変わらないのに。私にはなんにも変えられないんだって、あの白だけが続く世界で思い知らされたはずなのにね。


 バカみたいに泣き叫ぶ心の声には聞こえないふりをした。


 そうすれば、私は……神様になったことを認めさえすれば、私はまだ、人の近くで生きられると思ったから。


「……ふう」


 ……ダメだなぁ。最近ひとりでいることが増えたせいか、なんだか落ち込んでることが増えた気がする。


 ソフィアさん達にはかわいい私が求められているんだから、暗い顔はしないようにしないといけないよね。


 集中するのをやめると、ゴムみたいに固くなってた魔力の外側で、魔力がサランラップみたいな皮に包まれているのをまた感じられるようになった。あの人の作ってくれた保護膜は私の作るものとは全然違う。どうやったら魔力をこんなにしっかりした形にできるんだろう……?


 不思議に思っているうちに、ふと気づいた。そういえばあの人だけは、この異世界でとても不思議な存在感がある。


 やっぱり魔法が凄いからそう感じるのかな?

 例えば、あの……《アイテムボックス》の魔法。ただ物を仕舞うだけ魔法を応用して移動手段にするだなんて、あんなの私じゃ思いつかなかった。


 もしも私にソフィアさんと同じくらいの発想力があれば、全てを諦める前に、あの白い牢獄から逃げ出すことができたのかな? そう思うと……なんだか少しだけ、希望が湧いてくるような気がした。私が閉じ込められてたのは、逃れられない運命なんかじゃなくって、ただ私が間抜けなだけだったんだって思えるから。


 ……でも、《アイテムボックス》って普通、生き物は入らないよね?


 それだけが疑問……というか。私の知識から生まれたこの世界で、私の理解を超える魔法があるのが、不思議というか……変? なんだか納得いかない感じがする。


 だって私の知ってるアイテムボックスって、格子状のマス目にアイテムが入ってたり、リスト化されたアイテムの一覧が、ズラズラーッて出てくるやつだよ?


 たとえ生き物がその一覧に入ったとしても、自分がその中に入って出てくるのは……やっぱり、どう考えてもおかしいと思う。


 これってどういうことなんだろう? お父さんはたしかに「お前が思った通りの世界が出来上がる!!」って言ってたと思うんだけど……もしかしてソフィアさんも、私と同じ、神様……だったりするのかなぁ?


 もしそうなら、嬉しいような、不思議なような……。


 そういえばリンゼちゃんが、ソフィアさんには悪意を生み出す不思議な力があるって言ってた気がする。それってどういうことなんだろう。もしかして、悪い神様……だったりして?


 ううん、そんなはずない。そんなことないとは思うんだけど……ソフィアさんは時々、ひどく冷たい顔をすることがある。それは特に大人の男の人に強く向けられていたように思う。


 ……それってやっぱり、お父さんのせい……だよね。ソフィアさん、私がお父さんの話をする時だけ、雰囲気がガラッと変わるもんね。


 ううん……私はどうすればいいんだろう。私になにができるんだろう。


 元の世界に帰りたいという想いは今でもある。

 けど、お父さんのいなくなった世界でどうやって生きていくのか……それを考えだすと、怖くて、悲しくて、縮こまって動けなくなる。すると「またこのまま動けなくなるんじゃないか」って不安になって飛び起きてしまう。……ソフィアさんが過保護に接してくるのも当然だと思う。


 私はお父さんの被害者だ。

 何度もそう言い聞かされているとだんだんその気になってくるけど、私は私こそがこの世界にとっての悪者だと思ってる。それこそ、閉じ込められるのが当たり前なくらいの悪い子なんだって。


 ソフィアさんは言っていた。私の魔力は危険なんだって。他の人の魔力を食べちゃう私の魔力は、下手したら世界を滅ぼす原因にもなっちゃうかもって。


 それなら、いっそ私なんかいない方がって思ってしまう。


 けど、やっぱり。もうひとりぼっちにはなりたくなくて……。


 どうすればいいんだろう。私は、どうしたらいいんだろう。



 誰も来ない部屋の中で、私はずっと、そんなことばかりを考えていた……。


唯ちゃん放置ルートへ分岐。

ロランドが創造神よりもソフィアを優先した世界線は、人知れずして世界の変革を早めました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ