魔物狩りの日々
魔物討伐を終えた三日後には別の場所での討伐任務。その更に二日後にはまたまた別の場所での討伐任務。
そうして私達は魔力を回復させる度に魔物討伐に駆り出されるような生活を繰り返していた。気分はもはや軍隊である。
魔物の倒すのはねー、別にいいのよ。私にとっちゃ虫を殺すのと大して労力も変わらないし。
ただ日がな一日、鬱蒼とした森の中で過ごすばかりなのがね? 花の乙女としてどうなのかなって思うわけなんですよ。
休憩中に食べるお菓子だって森の中じゃ若干不衛生な感じだしね。美味しくおやつを食べるために一旦神殿に戻ろうと提案したら、皆に「いやそれはないでしょ」って思いっきり反対されたし。
なにより初日以外お兄様が不参加ってのがありえなさすぎるの!!
一切の楽しみを奪われた状態で見るからにジメジメとした薄暗ぁい森の中を何時間も歩き通しとかありえなくない?
いくら神殿にいる私が暇そうにしてたからってこんなのは【聖女】の仕事じゃないと思うんだよね。もっと楽な職務を希望いたす。
そんな感じのことを、朝食時のお兄様を捕まえて猫撫で声にて陳情したら、お兄様は困った時の笑顔を浮かべてこう答えた。
「うーん、そうか。それは困ったねぇ……。ソフィアが出てくれると騎士団の手が空いて、その分他の警備に回れるんだけど……。今月またいくつかの果物が入手困難になりそうだって話は聞いたことないかな? 騎士団がしっかり街周辺の警備に力を入れられるようになれば、そういった食物の流通問題も少しは改善される予定なんだけど……もう少しだけ頑張れないかな?」
「それなら仕方ないですね」
そうか。最近の焼き菓子がプレーンばかりだったのはそういう理由か。そうかそうか。
食料問題を盾にされてしまってはしょうがない。依頼された魔物は全て確実に滅殺しようと心に決めた。そして世界に平和な食卓を取り戻すのだ!
相変わらず私の煽り方が神がかってるお兄様によって、やる気だけはぐんぐーんと急上昇したのだけども、それでも正直そろそろ森の探索は飽きたんだよねい。もっと陽の当たる所を伸び伸びと散策したいでごわす。
フェルとエッテは元の大きさに戻ってビュンビュン駆け回ってて楽しそうではあるんだけどね。私としてはもっと、こう……風光明媚とまでは言わないまでも、せめて周りの風景に変化がある場所っていうか? 長時間居続けても飽きない場所を歩きたいんだよね。
そりゃ地域によって森にも多少の違いはあるんだけどさ。本当に誤差レベルなんだもん。動物や花なんかもぜーんぜん、数える程しか見つからなくてつまらないのよねー。
魔物が出てるせいなのか知らないけど、森の中の道にも木の枝ニョキニョキで刈りながら歩くのも地味に面倒だし。
あとあれ。木の根っこ。デコボコした地面を歩くのはもう嫌なんだよう。
……うむぅ。思い出したら嫌な気分がいや増してきた。
やっぱり我慢しないで要求しとこ。お兄様ならきっと何とかしてくれるハズ!
私達に継続的に魔物狩りをさせたいのならモチベーションは大事だもんね。故に、これは正当な要求なのです! そう自己弁護しながら口を開いた。
「ただ、可能ならば討伐先に変化が欲しいと思います。毎日のように森を歩き回るのも疲れちゃうので、偶には陽の当たる場所で魔物狩りをしたいというか……。平野とか海沿い、渓谷なんかの依頼もあるんじゃないですか?」
魔物狩りの専門家って山賊以外にも海賊とか空賊とかいるもんね。
つまりそれらの場所には元々魔物が生まれやすいってことだと思う。よく知らないけど、そーなんじゃないかな!?
個人的には海がいいなー。魔物狩り終わったら近場の町でお魚買えるし……とか欲望を垂れ流しながら返事を待っていると、沈思黙考から脱したお兄様が「ふむ」と一言。思ったよりも固い雰囲気で保留にされた。
「そっちは危険が大きい割には被害の範囲が小さいから、後回しにしようと思ってたんだけど……。ソフィアがそう言うなら少し考えてみるよ」
ふむん? 危険、被害、優先順位ね……。
まあ普通、「飽きたから別の場所の魔物狩りたいです」って言ったところで「いや魔物が出て困ってる場所を処理して来てよ」と思うだろう。事件は現場で起きているのだ、私らが森を倦厭したら森の魔物は悠々とその侵食範囲を広げ、結果被害が大きくなってからまた私達の元へと依頼が舞い込む。そんな想像が容易に浮かんだ。
私達って対魔物の戦力として見ても異常だけど、一番の利点は一瞬で遠方に移動できる機動力なのよね。
普通の騎士団だと、森を制圧するのに必要な部隊を馬車で運んで……そこそこの人数と往復の時間が……魔力の総量と回復量から鑑みての必要日数がとんでもない事になりそう。というか実際にそうなってるから私達のところへ依頼が来るんだろうなぁ。
「まあ、お仕事ですから? 森にだって行きますけど。あんまり続くとやる気が減っていくのだけは理解していてくださいね」
不満な様子も隠さずに伝えると、お兄様は苦笑しながら腕を開いた。
「それは困ったな。分かった。何かご褒美を用意しておくことにするよ」
「そうしてください」
むすっとしたまま返事をして、差し出されたお兄様の腕の中に収まった。
すうぅー、はあぁぁー……。
……いや本当に。私は魔物狩りを生業にする為に【聖女】になったんじゃないですからね?
連日の魔物狩りに不満は募りつつも、仕事終わりにはちょっぴり優しさ成分が増したリンゼちゃんに満足感を覚えていたり。
新生活はそれなりに順調のようです。




