表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1360/1407

ズンズン進むよ


 小一時間ほど軽く森の中を突き進んだだけで既に倒した魔物の数は二十にも及んでいた。人里離れた場所ならいざ知らず、町の付近でこの数は異常な事だ。


「……この数って、多いですよね?」


「うーん……。例の薬で時間を稼ぐと、魔物の数が増えやすい傾向にあるからね。それでもこれはちょっと多すぎるかな」


「ですよね」


 うん、そうよね。やっぱりちょっと多かったらしい。


 何処ぞの賊の方が開発した「例の薬」は今やあらゆる手の足りていない場所で使われていて、魔物を弱体化するというその唯一無二の効果で人的被害の軽減に著しい貢献をしたのだけれど、弱った魔物をそのまま放置しておくと折角弱体化した魔物が成長して、単に増殖するペースを増やしただけになりかねないという危険を孕んでいることが最近判明したらしい。それを聞いた私は、なんとも間抜けな話だと思ったものだ。


 現状の騎士の強さじゃ魔物を相手にするのが辛いから、じゃあいっそ魔物の方を弱くしちゃおう。強いの一体より半分の強さの魔物二体を相手にする方がきっと楽だよね? と考えそれを現実に落とし込んだ実行力は賞賛に値するが、賊の方々が想定していたより平騎士はもうちょっとだけ弱かったらしい。それまでの業務に魔物退治は入ってなかったんだから仕方ないね。


 そもそも普通は一体を相手にするより二体を相手にする方が注意力が分散するだけキツいと思う。


 複数体の魔物が特に連携をしないことや、魔物の強さを分割した際、魔物が発する威圧感までもが軽減されていなければ、むしろ危険性が増していただけかもしれない割りと行き当たりばったりの作戦だったよーな気がしてならないのだけど、現状上手くいっているのだから文句は言うまい。たとえそのせいで魔物が増えていたんだとしてもね。


 どれだけ魔物の力を削ったとしても、魔物は魔法でなければ倒すことが出来ない。


 例外は魔物退治を生業とする賊の一族のみ。

 彼ら以外が魔物を退治しようとすれば、それにはどうしたって魔法の力が――貴族の力が必要となる。


 とはいえそれまで魔物を追っ払うようなことしかしてなかった人達が森に入って魔物狩りって、相当な無理があるよねぇ。騎士団は正直、かなり頑張って踏ん張っていると思うよ。カイルのお父さんも全然家に帰ってないみたいだしね。


 ただそんな無茶がいつまでも続くわけもないので、お兄様が臨界ぎりぎりの地域を救うべくこうして神殿騎士団を動員してきたわけだね。


 ……改めて考えると、お兄様ってやっぱりマジで聖人すぎない? 他人の為にそこまで出来ちゃうのすんごいって思うわ。


 まあ私としても、地方の特産フルーツが収穫出来なくなったり流通が途絶えたりして美味しいおやつが食べられなくなっても困るから、雑魚魔物の退治くらいならいつでもウェルカムって感じではあるんだけどね。


「ソフィア。魔物の様子はどうかな? 僕達が移動してきた方向に回り込んでたりはしない?」


「今のところその様子はないですね。エッテが上手く処理してくれてるみたいです」


 てゆーか、なんだったらエッテとフェルに任せとくだけでも魔物くらい簡単に駆逐出来そうだしね。可能ってだけで、やってくれるかどうかはまた別の話ではあるんだけどさ。


 現にこちら側のグループが索敵と取りこぼしの処理を私とエッテで分担しているのに対して、ミュラーの方はその全てをフェルの能力のみに依存している。その負担の対価を前もって要求されるくらいには、あの子らは欲深いというか……報酬を要求すべきタイミングを心得ているんだ。困ったことにね。


 しかしあんなに可愛い見た目でも能力は確かに一級品だからね〜。


 騎士団が三人ほどで固まってちまちま魔物退治してるのに対して、フェルとエッテは見敵必殺。広大な森をまるで庭のように駆け回って移動のついでに魔物を消し飛ばす勢いで駆逐していく。《探査》で森の状況を常に把握している身としては、その殲滅スピードは「これ私達がいなくても夕方までに終わるんじゃない?」と確信を抱くほどだ。移動が異次元に早いんだよなぁ。


 私たちの移動速度と比較したら……五十倍? くらいの速度は出てるのかな?


 その速度で森をぎゅんぎゅん走り回って、片っ端から魔物の反応を消していく白い獣。


 知らない人が見たら新種の脅威と誤解しそうな存在だよね。実際には騎士数十人分の仕事を一人でこなしちゃう、スーパーローコストな我が家のペットなんだけどね。


「ミュラーたちの方も……順調に進んでるみたいです。特に問題はなさそうですね」


 ついでにフェルの方の状況も確認してお兄様に伝えれば、柔らかく微笑んだお兄様が私の頭をぽふぽふ、なでなでとご褒美をくれた。


「そうか、報告ありがとう。ソフィアがいてくれるおかげで助かってるよ。……僕もソフィアにいい所を見せられるように頑張らないとね」


「はい♪」


 はあぁあ〜、しあわしぇしゅぎるぅぅ〜……♪ こんなに幸せ感じちゃっていいのかしら……? 頭パーになって爆発しない?


 森の中ってシチュエーションがまた秘密のデートみたいでクッッソ滾る。ここなら誰も見てないからどんな事だってし放題だもんね♪


 ……って、ハッ!? もしかしてこれ、さっさと終わらせたらミュラーたちが合流するまでお兄様とイチャイチャできるのでは!?


 うおおおどうしよ、めっちゃやる気が湧いてきたぞぉああああ!!!


ヒースクリフ王子「……ここにいると、まるで自分の存在が他者から認識出来なくなってるんじゃないかと不安になるな。そうか、これが無視されるって感覚なのか……興味深いな……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ