女に負ける男として名を馳せろ
カイルのせいで私の本性がカミングアウトされたのでいっそ開き直ることにした。
「カイルは後でおしおきね」
「嫌だよ、なんでだよ」
なんでだよじゃねーよ。
私の学院デビューを、今後に関わる最重要な初日を台無しにしといて自覚も無しか。反省しなさいよ。
「これがソフィアさんの本性か」
「顔に似合わず、苛烈ね。さっきよりよっぽどいいわ」
好き勝手言われてるけどもういい、諦めましたー。
実際、貴族の集まる学院っていうから気合い入れてパーティーの時と同じノリで来てみたら、なぜかみんな言葉崩してるし。ちょっと浮いてる気はしたんだ。
私だって本来の口調の方が楽だし。
でも一度崩すと際限なくなりそうで、それでなくともカイルといると口が悪くなる傾向あるから自重してたというか、止め時を見失ってたというか。
敬語下手な自覚あるよ、悪かったね。
「それで、三人はどういう関係なの?」
苛烈とか言われちゃうとちょぴっと傷ついちゃうから、追撃が来ないように話を振ってみた。
たとえ好意的な意見だろうと言われた側がどう思うかは別問題だからね。
本心から「小さい方がかわいいのに」といくら言われようと、自分の求める理想と違えば納得出来ないのと同じことだ。嫌なものは嫌なのだ。何がとは言わないけど。
私は知っている。
悪意無き純真さこそが真に心を抉るのだと。
「俺たちは軍閥仲間ってとこかな。親父の同僚繋がり」
「私の父上が騎士団長。ウォルフは青の十六番隊副長、カイルが白の二番隊隊長の息子ね」
剣仲間って想像は当たってたけど、詳しいこと言われても全然わかんないや。
「そ。だからパーティーではよく余興としてカイルと戦わされたものさ。ミュラーは剣舞が多かったけれどね」
「それで親しくなったのですね」
パーティーで戦うのか、すごいな。
私が参加するようなのだと子供を連れてくるのは顔合わせが目的っぽくて、何かさせられたりははしなかった。
親たちもずっと話してるだけだから、暇になった子供たちが集まって外に駆け出すのが当然だったね。
で、それに加わらず本を読んでた私やマーレが褒められる。
集まる大人、弾む会話。
本読んでる人の横で話し出す無神経さよ、なんてちらりとも考えていませんとも。本が読めなくなったら空気椅子の鍛錬に切り替えてたからね。
そのおかげもあって、話を聞き流しながら別のことを考えるのもだいぶ上手くなったと思う。
毎度毎度似たようなつまらない話をよくもまあ、なんて感想は心の奥だけで充分だ。
だって私が彼等と同じことをしなければならない立場になった時、その忍耐強さに感服せずにはいられない。心の底から尊敬出来る人達だ。
みんなちがって、みんなすごーい。これよ。
汝隣人を愛せよってやつ。
心の平穏、みんなの平穏。
らぶあんどぴーす。
怒るのって疲れるからね。
「――だから俺の目標は打倒カイル。いつかこてんぱんにしてやりたいねー」
「へっ、できるもんならしてみやがれ」
世界平和への道筋を見つけたところで現実に帰ってきた。
えーっと、パーティーでの負けが込んでるからウォルフくんはカイルに勝ちたいと。
大勢の前で負かされるのは恥ずかしいもんね。応援しちゃうよ。
あ、そうだ。それにしようかな、カイルへのおしおき。
いつも口だけだと舐められるからね。
「ウォルフくんの前に私がこてんぱんにしてあげるよ」
「は?」
男二人でいい感じに盛り上がってるところに横入りして悪いね。
ほら、恨み嫉みって溜め込むとよくないじゃん?
やられたらその場でやり返してスッキリするのがいいと思うんだよねー。
「ほら、腕相撲しよ。力比べ。前にやったことあるでしょ?」
肘を机について、ほらほら、と誘う。
ウォルフくんとミュラーさんはなんだ冗談かと笑ってるけど、カイルの顔は引き攣っていた。
そうとも、カイルくん。
まさか男の子が、女の子との力比べから逃げないよねぇぇ?
ヒール付きの靴での空気椅子、マジパない。