征伐開始!!
お兄様から魔物討伐の話が持ちかけられた僅かに一時間後、我ら神殿騎士団一同は目的地周辺へと転移していた。
今回は魔物の討伐が目的の為、唯ちゃんとリンゼちゃん、それにお姉様の非戦闘組がお留守番となる。
その代わりにヒースクリフ王子と、何よりもお兄様が同行している。それはつまり、お兄様の実践シーンが生で見られることを意味していた。楽しみ過ぎてヨダレ出そう……!
「さて、ここからの作戦だけど――」
前回と同じように、皆で森を練り歩く――という形になるかと思ったのだけど、それでは時間が掛かりすぎる。日が沈む前に森の探索を終える為、部隊を二つに分けてぐるーっと、それぞれ反対方向から進むことになったのだった。
「はいっ! それなら私はお兄様と一緒に行きたいですっ!!」
誰に何を言われるより早く、力強く挙手をした。ここで主張しておかないとお兄様とは離されてしまう予感に襲われたからだ。
「それなら俺はカレンと一緒がいいな」
「わ、私もっ、その……っ!」
あーはいはい、リア充おつー。末永く爆発しろ?
てゆーかこの流れでそんな気の抜けた提案をされるとか私にとっては不都合の塊なんだが。お兄様が「この二人は別々にしておかないとまともに仕事をしない可能性があるな……」とか考えちゃったらどうすんの? そしたら絶対私もお兄様と離されちゃうじゃんそんなのヤダぁーー!!
危機的状況を感じ取った私の脳細胞がかつてないほどの働きを見せる。超高速で必要な思考を済ませた私は、自らにとって最良の未来を手繰り寄せる一手を放ったのだった。
「お兄様。今回の作戦は神殿騎士団の評価に直結する重要な任務であると愚考します。作戦の迅速な遂行は必須条件、その上で今後の活動を見越した将来的な経験値となりうる行動が求められるかと。であるならば、対外的に騎士団の長となっているヒースクリフ王子にはまずお兄様のやり方を勉強して頂くのが良いのではないでしょうか? そしてもう片方の部隊では、その補佐役となるミュラーが隊長の役割を経験することによって、より実践に則した意見を出せるようになる。ミュラーはカイル、カレンの両名と毎日共に訓練をしている仲ですから一個の隊としてみた時の運用に不安がありませんし、なにより私とミュラーは分けた方が戦力的な偏りが――」
「ソフィアは僕と一緒に行こうか」
「はいっ!!!」
流石はお兄様、よく分かってらっしゃるぅ!!
バカップルを同じ部隊に配置する危険性はあるが、そんなのどうせ分けたって別部隊にいる相方を気にして戦闘に集中出来ない危険性がある。それなら中庭訓練仲間を一纏めにして好きにさせた方が合理的だ。
ここの魔物も既に大部分は弱体化が済んでいるというし、それならミュラーさえいれば油断してたって楽勝で勝てる。同時に不意でも打たれなきゃカイルとカレンちゃんだって余裕で返り討ちにできるだろう。戦力的に見て不安なんてない。
で、こっちはこっちで文武最強のお兄様がいる。
王子様だってお兄様程ではないにしろ文武に優れているし、私に至っては化け物サイズの魔物を倒した実績さえある。たとえこの森でエンカウントする魔物が全て普通サイズだったとしても蹂躙出来る確信しかない。
つまり戦力的な心配なんて、どう転んだところで皆無だった。
お兄様の新妻の位置に転がり込んだミュラーが、カイル達のアホな言動に釣られて色気を出してしまうことだけが懸念材料だったが、幸いにもお兄様は私が提案した部隊編成案を採用してくれた。私はこれからしばらくの間、お兄様(とヒースクリフ王子)と共に森を散策し、魔物を退治しながら日没までの時を過ごせる。……想像しただけで感動からか涙出てきた。
最近お兄様に全然甘えられてなかったからなぁ……。今日はお兄様にたーっぷり甘えちゃおーっと。もちろん呆れられない程度には調整をしてね♪
森のお散歩デートに想いを馳せながら妄想を膨らませている間にもお兄様からの指示は続いている。
まるで声の精霊が森への来訪を言祝ぐかのようなその美声に聴き入っていると、瞬く間に時は過ぎ、気付けばミュラーたちが意気揚々と目の前に広がる森に突撃してゆく後ろ姿を見送っていた。
「さあ、それじゃあ僕達も行こうか」
「はい♪」
お兄様に促されるまま足を踏み出そうとする……が、その行動は何者かに阻害された。
私の邪魔をする小さな影。
フェレット似の可変謎生物エッテが、何故か私の足にまとわりついて森へ進もうとするのを邪魔していた。
「え? なに?」
「キューイ!」
「後を追っても意味が無いからね。僕達が進むのはあちらの方からだよ。ソフィア、転移を頼めるかい?」
「勿論ですとも!!」
言われるがままに指し示された位置に《転移》した。そういえばそれぞれ別方向から魔物を駆逐して歩くみたいなこと言ってたっけね。
お兄様に言われるがままに魔法を行使し、魔物の分布を報告する私の姿を、ヒースクリフ王子が呆れるような視線で見つめてたけど、今の私はそれどころではない。なんたって間もなく、お兄様が魔物と戦う姿を見られるのだ。
良い画が取れたら一生お世話になる可能性さえある。気合を入れて臨まないとね!!
魔物狩りに意欲的な人員が集中している特異な集団。
彼らが訪れたことにより!この近辺に発生した魔物たちの滅びの運命は確定した……。




