神殿では魔物駆除を推進しています
お兄様から国のお偉いさん達を招いて詐欺めいた神様降臨会を開催したその目的を聞いた。どうやら神殿が本物の女神様と繋がっていると示すことで、世界に蔓延する魔物への対処を神殿騎士団主導の仕組みへと変えたかったらしい。
ものすごーく雑な言い方をすれば、「国に任せておいても全然進まないから、これから魔物は神殿が責任もって対処をするよ。女神様も認めてるんだから異論はないよね?」……みたいな? そーゆー流れを作る為に必要な手順だったらしい。
理由はよく分からないけど、お兄様としては魔物をちゃっちゃか駆除したいらしい。
私としてもお兄様がそう望むのなら協力するのにやぶさかではないけど……まあミュラーたちも訓練してるだけでは飽きるだろうしね? 近頃は私を見る目が獲物を見るそれになってきてたから、丁度いいと言えばそのとおり、良いタイミングではあったかもしれない。
通常の騎士団ではひとつの隊で弱体化した魔物一体を数分かけて駆除するが、私のとこの人材は色々と異常に過ぎる。カイルの躍進により神殿騎士団内で最弱となってしまったヒースクリフ王子でさえ、五分もあれば単独で弱体魔物一体くらいは倒せるだろう。私やミュラーだったら普通の魔物だって十秒もあれば余裕で狩れる。
対魔物戦力として間違いなくトップクラスに位置するそんな私達が、魔物が増殖中の我が国でのんびり出来ていることこそが本来であれば異常なのだ。
とはいえ魔物を防ぐのも滅ぼすのも、元々は賊にのみ許された役割である。騎士団が魔物に対処している現状こそがイレギュラーであり、更なる例外を容認すれば極論、魔物を倒せるのならば一般人ですら戦闘に駆り出すのかという話にすら発展しかねない。
神殿騎士団が騎士団とは名ばかりの新設の組織であることや、団員が全て若者で構成されているという特異性も事態を煩雑にしている要因だろう。実際に魔物の討伐に赴いたりもしたが、恐らくそれだけでは実績と呼ぶには足りなかった。それで今回の神様バリューに頼った作戦が実行に移されたんだと推察できる。
お兄様の目的は単純にして明快だ。全ての行動は私の幸福へと繋がっていると断言出来る。
頭の悪い私には、何故世界から魔物を減らす行為が私の幸せに繋がるのかは分からないけれど、少なくとも魔物狩りという行為が私を危険から遠ざける役割を果たすことだけは断言出来る。具体的にはミュラーの興味が私から遠のく。それだけで魔物には感謝したい気分。
……困ったことに、人って得た力を試したがる生き物なのよね。
ミュラーも《加護》に魔力を上乗せするコツを完璧に習得してしまったようだし、カイルやカレンちゃんも《身体強化》が上手くなった。毎日の修練でその技術は絶え間なく進歩している。
しかし、自分と同じく進歩している人と比べても、その変化は実感しづらいだろう。
訓練して、その能力を試して実感を得るには、相対的な変化を感じられる対象がいる。訓練に参加し能力が伸びておらず、成長する前との差異を比較しやすい対戦相手……まあ、要は私だ。私はカイルたちに、身近にいて実力を測るのにちょうど良い相手と認識されている自覚があった。
でもほら、強さの実感を得たいだけなら実はもっと良い相手がいるんだよね。
ミュラーはともかく、カイルなんかはどれだけ上達しようとまだまだ私の強さには届かないだろう。それまで三秒でやられていたのが五秒粘れるようになったらそれは間違いなく成長だが、人は調子に乗った時の方が成長しやすい。五秒で倒していたものが三秒で倒せるようになったと自覚した時の方が、やる気の上がり幅が段違いに大きいのだ。
――というわけで、ソフィアさん的には魔物狩りに行くのとか大賛成です。いつ行きましょうか? 明日? 明後日?
出来ればミュラーから「実践前の腕慣らしに」とか言って誘われる暇もないくらいに早いと助かるかなぁ。そんなことを思っていると、完璧超人なお兄様から実に素敵なオーダーが入った。曰く「地図のここからここの範囲内なら今から行っても構わないらしいよ」。まさかの地方を包括する魔物駆除依頼だった。
「これって町も対象に入ってるんですか?」
「町中には一応騎士団が派遣されてるからね。僕達は基本、外の魔物を一匹残らずって感じかな。出来るよね?」
「もちろんです」
それをお兄様が望むのなら!! と心の中で強く付け足しておいたが、お兄様には正確に伝わったようだ。「頼りにしてるよ」と頭をぽふぽふされてしまった。はにゃぁ〜〜ん!
しかし女神の神託を騙ったとはいえ、今までちょびっとしか参加させてもらえなかった魔物退治に新米が参加するのってどうなのかな? 他の騎士団の面子とか……まあ、そーゆー諸々が解決したからお兄様がその話を持って来たんだろうけどさ。
争いのない平和な世界でも権力闘争はあるのかもねぇ。はー、やだやだ。面倒事ってやーねー。
完全に部外者の気持ちで心穏やかに過ごせることを、私は女神よりも上位の最高神、絶対唯一神お兄神様に感謝し深く頭を下げたのだった。
神殿とは名ばかりで、所属メンバーは魔物退治と聞いて喜ぶ人員が多数を占める武闘派揃い。少なくとも精神は聖人ではない。
魔物さんたち早く逃げてぇ。




