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女神を喚べる神殿


 お兄様ってば最近ずっと忙しそうだなー。いつまで忙しいままなんだろうなー。


 ――なんてことを考えながら過ごしていたある日。遂にお兄様の忙しさの原因が判明した。


「ソフィア。今度神殿で主要貴族と王族を招いての式典が行われることになったから。心の準備をよろしくね」


「やーん……」


 えー、なにそれ。よろしくしたくないよぅ……。


 そんな気持ちを前面に出してみたものの、お兄様は「ごめんね」という一言を残してお姉様の所へ向かってしまった。どうやら私のわがまま程度ではどうにもならない決定事項らしい。


 ふむん……主要貴族に、王族ねぇ。唯ちゃん(世界を創造した神様)の姿でも見に来るのかねぇ。


 この神殿が貴族達にとってどんな存在か。それが分からないと心の準備もしようがないように思うんだけどねぇ。


【聖女】をトップに据えた神殿の役割。

 理解出来るよーな、出来ないよーな……うーん。


 そもそも唯ちゃんの正体にしたってどの範囲にまで知らされているのかを私は全く把握していない。うちの家族を除けば唯一、国王陛下にのみその事実を伝えたとお母様から聞いたことがあるだけだ。


 んー、でも聖女(わたし)のお披露目は以前やったし?

 王族まで出張ってくるってことは、やっぱり神様関係だと思うんだよなぁ……。


 改めて考えると異常なことだけど、現在神殿には二柱の神がいると言っても過言ではない状況にある。リンゼちゃんを経由すれば、更に現役の神と女神、計四柱の神々を集めることだって不可能ではない。


 ……うん。これはなんか、改めて考えない方がいい気がしてきた。


 偉い人たちの思惑が何処にあろうが私には何ら関係ないし? 私はほら、お兄様に言われたことだけしてればいいよね、きっと。お母様も多分その方が助かるはずだよ!


 ということで、私は早々に思考を放棄することした。


 え? 心の準備?

 お兄様に身を任せる準備ならいつだって完璧に整っていますよ!!!



◇◇◇◇◇



 そんなこんなで迎えた当日。


 私はいつか着させられたハレンチ度高めの聖女服の上から端々にレース飾りの編まれた薄布を被せられ、自分の出番を今や遅しと壇上の一番目立つところで待っていた。傍らにお兄様がいなかったら、今頃は癇癪起こしていたかも分からんね。



 ――曰く、清らなる白の衣装に身を包んだ私は神の選定した【聖女】である。


 地上に遍く人々は、神の代行たる彼の者の声に耳を傾けるべし。さすれば救いは齎されるであろう。



 私の横で諳んじるお兄様の発言を要約すればそういうことになる。要は「ソフィアの言う事を神様の言葉だと思ってよく聞いてねー、素直に言うこと聞くなら助けてあげるよー」みたいな。聞きようによっては脅しだよねぇ。


 まぁ脅しだろうが騙りだろうが私にとってはどうだっていい。


 私にとって今一番大切なことは、さっさとこのダルい儀式を終わらせることのみ。さっさと着替えて茶ぁしばきたいってさっきからずーっと考えている。つーか成人女性にこの服着せるのセクハラじゃないんか?


 見た目が幼い私だからこそ一見許されてるように見えるだけで、いくら大事なところが隠されているとはいえこんなにスケスケで体型が丸見えの服、お姉様が着たら淫靡な寝巻きにしか見えねーだろってなもんですよ。歴代の聖女変態すぎんか? 露出趣味は公的な場所以外でお願いしたいよ……。


 三百年以上も前の聖女の正装とか踏襲する必要なくないかなぁ!? とふざけた歴史にもう何度になるかも分からない憎悪の念を向けたところでお兄様からの合図が来た。ようやく待ちに待ったフィナーレだ!!


「さあ、皆の者、顔を上げよ。我らが【聖女】がその御力を持ちて、この場に女神を降臨される。巫女の少女はここへ!」


 お兄様に促された唯ちゃんが目を閉じて両手を組んだままの私の前へと導かれる。


 さっさとこの茶番を終わらせて衆人環視から逃れたかった私は、唯ちゃんが目の前に来て早々に魔法を発動。背後の壁面に彫られた女神像の顔の高さにまで唯ちゃんを魔法で浮かび上がらせ、更なる魔法を多重起動した。


 天から降り注ぐ光は唯ちゃんを祝福するかのような温かさに満ち溢れ、どこからともなく舞い上がった羽根は天使のそれを思わせる。


 神殿の窓や出入口は全て封鎖されているにも関わらず、突如吹き始めた風は神の顕現に伴う威圧感の演出に。唯ちゃんの周囲には微小の霧を発生させて輝きをアップ。更には観覧者の精神状態さえ魔法で操作した。


 そして極めつけには、唯ちゃんの姿と重なるように女神(ヨル)の姿を濃淡織り交ぜて投影してみたりして。


 全ては「神殿は女神の加護を受けている」と広く誤解させる為の策略である。発案はもちろんお兄様。


 そんで仕上げに、ピカーッ! っと光らせたところで私の仕事は無事終了。


 演出効果の切れた唯ちゃんは私と同じく疲労困憊。……という体で、カイル達に連れられそそくさと撤退。全ては当初の予定通り、無事に居住区画にまで逃げ込むことに成功したのだった。


「はー、めっっちゃ気疲れした……」


「お疲れ様」


「おつかれー」


「お疲れ様です。とはいえ、私は大したことはしてませんけど……」


 まあ唯ちゃんは浮いてただけだからね。


 とはいえそれを言うならお兄様以外の誰もが大したことはしてないとも言える。私なんて出番待ってる間、半分眠ってたよーなものだからねー。


「それを言ったらカイルなんて軽い私達を運んだだけだよ?」


「確かに唯は想像以上に軽かったな」


 あー、はいはい。今は喧嘩する元気すら残ってないわ、好きにしてー。



 ――お兄様が持ち込んだ神殿での式典は、こうして無事に終わりを迎えた。


 しかしただただ面倒だったこの一連の茶番劇がその後、お兄様の目論見通りに、劇的な変化を私達の日常に齎したのだった。


神殿で暮らしていると割と見かける浮遊魔法であっても、神殿外の人間にとってそれは奇跡にも等しい御業である。

浮いて光っただけで神認定してくれるちょろ甘貴族ばっかりなんです。

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