秀でた才の使い方
「お菓子うまー♪」
「うん、うん……とっても美味しい……♪」
「ソフィアの近くにいると美味しいお菓子にありつけるのが魅力的よね」
「ああ、それあるよな〜。お陰で俺、家で菓子に文句つけると家族に贅沢呼ばわりされたりするんだぜ? 全部ソフィアのせいなのにな〜」
飽きもせず訓練に精を出してたミュラーたちがやって来たことで、一気に人口が増えた食堂はまるでおやつパーティーが開催されてるみたいになってしまった。
アイテムボックスに保存するはずだったお菓子がみるみる減っていくのは気になるけど、代わりにお菓子の種類は増えそうだし良しとしよう。
それに何より、みんなで食べるお菓子はとても美味しい。
私は今、ヘレナさんが神殿へと来てくれたことにとても深く感謝をしている。
これも元を正せば私がちびっ子だったお陰だな! はっはっはっは! ……はぁ。
なおミュラーたちが合流した時点で唯ちゃんも当然誘い出している。
迷わず私達とは別のテーブルに着いたのは残念だけど、リンゼちゃんと一緒にお菓子を頬張っている姿は嬉しそうに見える。薄幸の美少女唯ちゃんを瞬く間に笑顔に変えたシャルマさんのお菓子は、やはり偉大だったと言わざるを得まい。
故に、私の口から羨望の言葉が零れるのもまた、必然だったと言えるだろうね。
「ヘレナさんはいいですよねぇ、毎日シャルマさんの作るお菓子が食べられて。その幸福にきちんと感謝しないといけませんよ?」
もむもむとお菓子を咀嚼する合間に、その幸福が如何に貴重なものなのかを自覚するよう忠告すると、ヘレナさんはのへへんとした顔で信じられないことを言い始めた。
「シャルマには助けられてるとは思うけど、私はソフィアちゃんとは違って毎日お菓子を食べる習慣がないのよね。だからそんなに……」
「はあああ!?!」
シャルマさんが常に傍にいるのに、毎日お菓子を作って貰っていないだとう!!? そんなことがありえるのか!?
そういえばヘレナさんって生活面でもだらしない印象あるし、もしかしてそっちの方でお世話になってて調理の時間が取れないとか……? なんというリソースの無駄遣いだ!!
「折角シャルマさんという最高のお菓子職人がいるのに、ヘレナさん!! それは才能の無駄遣いというものですよ!!!」
「またまた〜」
「またまた〜、じゃなくて!!」
私は本気で言ってるの!! この味を口にしていながらなんでそんな平然としていられるの!?
もしかしてこの人、シャルマさんの凄さを理解してない? 作った料理が全てシャルマさん基準になってるのか?
世界の平均値を知らないからこそ自分がどれだけ恵まれた環境にいるのか理解していないのではなかろうか。シャルマさんの甘さを考えたらその可能性も十分に有り得る。人のことをとやかく言える立場じゃないけど、この人も相当な箱入りじゃないかな。
「シャルマさんのお菓子作りの腕は実際相当なものですよ。この王都でお菓子の店を出したって必ず成功すると断言できます。それをヘレナさんはきちんと理解して――」
なおも強く言い募ろうとする私の腕が、ちょいちょいと愛らしく引かれている。この感触はカレンちゃんだな。
今結構大事なこと言おうとしてたんだけどなんじゃらほい、と言葉を止めて振り向いてみれば、そこにはカレンちゃんからバトンタッチされたカイルがいた。なんだこの罠、美人局かな?
「なに? カレンの伝言?」
「まあそんなとこだ。『才能の無駄遣い』って言葉が聞き逃せなかったみたいでな?」
そうなの? とカイルの後ろに隠れているカレンち ゃんに確認すると、何故だか怯えながら頷かれた。
え、なんで私こんなに怖がられてんの? ひょっとしなくてもカイルのせいかな??
「ソフィアって色んな魔法が使えて凄いよなー。それって凄い才能だよなー。これで性格も最高だったら良かったのになー」
「うるさいよ」
唐突になにディスってんだコイツ。
普通にイラッとはしたんだけど、明らかに棒読みで、何かを伝えようとする意図を感じたからもう少しの間だけ話を聞いてみることにした。単なる悪口だったら後で殴ろう。
「魔物だって難なく消滅させられるし、その技術を俺らにだって教えてくれる。凄いことだよ、【聖女】を戴くのに相応しい功績だし、確かに才能がなくちゃ出来ないことだって誰だって思うだろうな。でもソフィアってやつはそうじゃないだろ。俺らにとってのソフィアは魔物を殲滅できる人材じゃなくて、無駄に元気で、明るくて、小さいくせに生意気で、呆れるほどに食い意地が張ってて、鬱陶しくなるくらいの兄バカで、それから――」
「いくらなんでも言い過ぎじゃあないかなぁぁ……?」
もっと言い方ってもんがあるでしょうよ。意図は伝わったけど調子乗り過ぎ。罰として後でカレンちゃんにカイルの弱点を伝えておこうね。
要はあれだ、才能の無駄遣いだろうとなんだろうと、ヘレナさんにとってのシャルマさんは大事な人ってことには変わりないんだから部外者は口出すなってことでしょ。はいはいりょーかい。
食べかけのお菓子もそのままに、席を立った私はヘレナさんとシャルマさんに向き直ると、ズバッと勢いよく頭を下げた。
「失礼なことを言ってしまい、大変申し訳ありませんでしたッ! 『才能の無駄遣い』という先程の言葉は取り消します。シャルマさんのその技術は、きっとヘレナさんの為に磨かれたもの……ですもんね?」
まぁ、そーゆーことよね。
美味しい物を食べるとつい調子に乗っちゃうの、私の悪い癖なんだよね。直したいとは思ってるんだけど、幸せになると気をつけようと思ったことすら忘れちゃうから困ってるんだ。どうしたものやら……。
カレンには「有り余る才能」によって自身を責めていた過去があるので、他人よりも「才能」という言葉に敏感です。
そのせいで才能を有効活用できる人には憧憬にも近い感情を抱いているので、ソフィアは友人というより崇拝対象に近い存在だったり……?




