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大人ですもん……!世間的には!


 そろそろお兄様が不在の神殿にも慣れ始めた頃。今日は珍しく、私を訪ねて神殿にお客さんがやって来た。


 誰あろうヘレナさんだった。

 もちろんシャルマさんも一緒だった。


 ……そしてその手に提げられた籠からは、隠しきれない程に濃厚な甘い芳香が漂っていた!!


 久しぶりのシャルマさんのお菓子だわーーい!! と浮かれた気分で応接室までお通しすると、リンゼちゃんが手馴れた様子で持て成しの用意を整えてくれた。私は準備が整うその時を、今や遅しと待ち受ける。降って湧いたおやつタイムさいこー過ぎるよ!


「食べ始める前に、ソフィアちゃんに言いたいことがあるんだけど」


「はぁい。なんですか?」


 普段とは違ったヘレナさんの様子に、おや、と少し不審に思う。


 なんだかちょっと不機嫌な感じ?

 さては愛らしいソフィアちゃんがいなくなって癒し成分が足りていないな? そんな時こそお菓子ですよ! ゆっくりとお茶を楽しむ心のゆとりこそが大切なんだよ! なんてね。


 ヘレナさんも割とネガティブ思考な人だから、またなんか面倒事にでも巻き込まれたのかなーとか思ってたんだけど、飛び出してきた話題は意外にも私がいなくなったことに関する話だった。


「いきなり卒業なんてどうしたの? 急にいなくなってびっくりしたじゃない。こういうことはちゃんと教えておいてくれないと!」


「……?? え、私なんで叱られてるんです……?」


 報告……卒業するのにヘレナさんへの報告がいるの……?

 待って待って、え、これちょっと何の話? 私の卒業のことで合ってるんだよね??


 混乱しつつも、優先すべきは現状の把握だ。私はシャルマさんに事情の説明を求めることにした。


「すみません。なんで怒られてるのか分からないので、シャルマさんに説明して頂ければと思うんですけど……」


「かしこまりました。まず、話の発端として――」


 ヘレナさんの事ならなんでも知ってるシャルマさんによると、どうやらヘレナさんは私が卒業して学院からいなくなっていることに全然気付いていなかったらしい。嘘でしょって思うけど、本当に全然気付いてなくて、学院には来てるけど何らかの理由があって研究室に行くのを控えてるんだと思ってたらしい。


 しかし今日、ついに「最近ソフィアちゃん来ないわね」「……先日卒業されたじゃないですか」という会話を交わしたことによって、ようやく私がそもそも学院にすら来ていないことに気付いたんだとか。卒業したんだから当たり前だよねぇ。


 そしたらヘレナさんが急遽「……ソフィアちゃんのところに行くわよ」との決定を下した。


 急いで手土産を用意したシャルマさんは、今は神殿で生活している私の元へとヘレナさんを連れてやってきたというわけだね。


 ……いや、えー、うん? これなんで私のとこに来たんだ? 本気でわからん。


 何故私の元に来ようと思ったのか、何故私が叱られる羽目になったのかは分からないけど、今の話の中でひとつ不自然な部分があった。まずはそこから解消しよう。


 私は据え膳にされたお菓子を名残惜しく一目見て、ヘレナさんとの会話の方に注力した。


「話はなんとなぁく分かりましたけど……でも、それはおかしくないですか? だって前に私が『もう来れないと思うと寂しくなりますね』って言った時、ヘレナさんは『来たくなったら来ればいいじゃない』って言ってたじゃないですか。あれはなんだったんですか?」


 そんな一幕があった。確かにあった。だから私は卒業した今もシャルマさんにそれほど執着してはいないんだよね。


 食べたくなったらまたヘレナさんのとこに行けば好きなだけ食べさせてくれるんでしょ? でなきゃ泣き付いてでもアイテムボックスに保存しとく用のお菓子を頼み込んだよ、当たり前じゃん。


 あの会話を忘れてるのかと思ったヘレナさんも、その時のことは普通に覚えているらしい。


 良かった、若くして惚けたんじゃないかと実はちょっと心配してたんだよね。ヘレナさんがまだボケてなくてほんとに良かったー。


 しかしヘレナさんはその代わりに、ある意味天然のボケ技能を習得しているみたいだった。


「言葉の通りよ。言葉通り、新学期が始まるまでの休みの期間中、シャルマの作るお菓子が食べられなくなるのを残念がってるんだと思ってたのよ」


「ええー……?」


 そんなこと言われても……ええー?


 そりゃその状況なら残念に思うこと間違いなしだけど、タイミング的に……、…………ん? タイミング、的、に?


 ふと思考に引っかかるものがあった。



 ――卒業。タイミング。勘違い。学院生。



 ……これって、もしかしなくてももしかするのか?


「あの」


 確認したくないなぁと思いつつ、今辿り着いたひとつの可能性について、確認の言葉を口にした。


「もしやヘレナさんは、私が未だ()()()()()()()()()だと誤認してたってことですか?」


「ああ……」


 納得の言葉はシャルマさんから出た。

 問うたヘレナさんから、否定の言葉は出てこない。


 ……どおぉーせ私は未だに学院の新入生よりも背が低いままですよー、ッだ!! ふんっ!!


「あの子頭良すぎるから特例で異動させられたのかしら……。私に相談してもらえれば少しは力になれたのに、私ってそんなに頼りないと……――」とか考え始めたらいてもたってもいられなくなったヘレナさん。

勘違いに気付いた後でも「これで成人してるって無理があるでしょ」と思っています。

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