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お留守番になる運命なの


「ソフィアもたまには一緒に訓練しない?」


「ごめんねー。私、お姉様の仕事を手伝わなきゃいけないから」


 お姉様の手伝いを初めて何が良かったかって、ミュラーからのこの誘いをスマートに断れることが一番の恩恵だったかもしれない。


 てゆーか私もそろそろ気付いたんだけどさ。


 私がお姉様のお手伝いをしたことで助かってるのって、お兄様じゃなくて主にリンゼちゃんなんだよね。それはそれで良いことではあるんだけどね。


 具体的には、リンゼちゃんから冷たい視線を浴びせられる機会が減った気がする。


 空気のように扱われるとそれはそれで寂しい気もするけど……そんなことを思って構いに行くから邪魔者認定されて好感度が下がるんだよね。分かってはいるけど可愛い可愛いリンゼちゃんに放置されるだなんて私には耐えられないのだ。仕事の邪魔? それ以上のお手伝いをしてるから問題ナッシン!



 まあそんなこんなで体良くお姉様に利用されてることに確信を持ったので、今日も何処かへと出かけようとしているお兄様をとっ捕まえてそろっと本人に相談しました。


「お兄様の助けになりたいと思って最近お姉様のお手伝いを始めたのですが、わたし役に立ってますか?」


「ソフィアはどう思う?」


 質問を質問で返されちゃった。


 用事があるだろうに私との会話を厭わず、楽しもうとしてくれるとこ。こーゆーところも好きなんだよねぇ。


「お兄様のお役には、あまり立てていないと思います……」


 しゅん、と落ち込む様子を身体全体で表現する。


 どんより、ではなく、あくまでも、しゅんと……。


 この微妙なさじ加減が演技派女優ソフィアちゃんの腕の見せどころである。とはいえお兄様には私の精神状態なんてお見通しだから、あんまり通用しないんだけどね?


「そう思うよね。でも実は、意外と役に立ってるんだよ」


「そうなんですか?」


 お兄様にすら意外と思われる立場から手助けできてた。私って自分で思ってるよりすごいのかも?


「ソフィアのお陰で姉上の機嫌がとても良いからね」


「なるほど」


 言われて納得。


 それはある意味、当初の想定通りの形だった。


 お兄様がお姉様に預けた仕事を私が手伝う、というつもりでお姉様の補佐についたのだけど、お姉様はあの通りの性格だからね。やれば早いんだけど中々やらないタイプというか。そんなだから作業効率にも気分が強く反映されるんだよね。


 言わば私はお姉様用の餌。常に最高出力を担保するブースターってところかな?


 直接お兄様の助けになれないのは残念だけど、役に立ってるのなら良かったという安堵が心に広がる。私の努力は報われたのだ。


「お兄様は人をのせるのが上手いですね。私、なんだかすっかりやる気が出ちゃいました」


 えい、えい、むん! と心のギアにスイッチが入った。


 今なら直接お兄様のお手伝いだって出来そうな気がする!!


「あはは、ありがとう」と会話を切り上げに入る様子を見せたお兄様に、すかさず「でもそれはそれとして、お兄様のお仕事を私に手伝わせてもらえませんか?」と申し出た。お兄様の為なら私、たとえ裏のお仕事だって頑張っちゃうよ!!


 しかし私が前のめりにお手伝いに立候補した途端、お兄様は一瞬、痛いところを突かれたように顔を顰めた。


 笑顔が常のお兄様がそんな表情をするなんて……。


 唖然としている間にお兄様の表情は困ったようなものに入れ替わっていたが、私の目には先程のお兄様の表情が焼き付いていて離れない。あの表情の真意はなんだったのか。


「ソフィアの申し出はありがたいんだけど、今日はちょっと間が悪いかな」


「……そうですか」


 超気になる。でも必要な事ならお兄様は隠さず言ってくれるだろうし……!


 うにゃあああ!! と一人で悶々としていると、見かねたお兄様が私の同行を断る理由を教えてくれた。


「実は、今日会う予定の人は神殿騎士団の認可に際してお世話になった人の一人なんだけどね」


「はい」


 なんだ私にとっても恩人じゃん。


 それならなおさら《聖女》たる私が御礼に行く分には構わないのでは? なんて思ったのだけど、話には続きがあるらしい。


「その人は顔が広くて、人柄も朗らかで友好的。人として付き合う分には何も問題はない方なんだけど」


 ……?? 益々断られる理由が分からない。なにこれ、私なぞなぞでも仕掛けられてる……?


「人よりも食への興味が強い人でね。ソフィアとも話は合うと思う。ただ、そのせいで見た目に少し圧迫感があるというか……いや、誤魔化していても意味は無いね。うん、一言で言うと、とても太っている方なんだよ」


「とても太っている方」


 わざわざ言い直したということは、少しではなくかなりの圧迫感がある人なんだろう。……え、お兄様が私に会わせるのを渋るレベルで? それってどんだけ??


 逆に好奇心が刺激されたが、更に続けられた「どこから聞き付けたのか、ソフィアの作るお菓子にも興味を持っていたようだから、会わせた時にどんな反応をされるか分からなくてね……。突然抱きつかれたら困るでしょ?」という言葉でやはりお兄様の判断は何よりも正しいのだと私は悟った。太っちょに抱きつかれるとかそれなんて罰ゲームですかね。


 神殿で暮らし始めて改めて再認識してるけど、争い事の極めて少ないこの世界にも明確な美醜の差というものは存在する。


 美人さんや美幼女に抱きつかれるのなら構わないけど、太っちょのおじさん? おばさん? に抱きつかれるのは、ちょーっと御勘弁願いたいかな……?


お兄様はソフィアが心安らかに過ごせるよう頑張っています。

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