ラブコメは感染しない。させない
固い挨拶は「私は立場の違いを弁えた人間ですよ」と示す行為だ。
実際、友達になってくれるなら嬉しく思う。なんかいい人っぽいし。
でもウォルフくんと違ってミュラーさんには良い印象は与えられなかったみたいだ。
「……ええ、よろしく」
「こちらこそよろしく、ソフィアさん。でもその堅苦しい話し方ではこちらが気疲れしてしまうよ。是非カイルと同じように扱って欲しいな。そう、カイルと話す時のように親密にね」
ニヤリと意味ありげに言われた。
聞かれてたか。
「そうですね、失礼しました。ではカイルと同じように、親しくさせていただきますね」
「……!」
「それは嬉しいね」
「……なっ!」
たったこれだけのやり取りで色んな攻防が起こるのだから、貴族風の会話は疲れるね。
今の会話をわかり易く言えば「カイルと恋人なの? 仲良さそうだね」「貴方と同じ、ただのお友達です」だろうか。
もっとも、カイルとミュラーさんは含みのある会話に着いてこれていないみたいだけど。
それどころか、「親密に」の部分だけ拾ったミュラーさんが私の返事を言葉通りに受け取ってるぽいよね。
彼女の中では、私が「カイルと同じように遊んであげましょうか?」と誘ったのに対してウォルフくんが喜んで承諾した、なんて図には……流石にそこまで悪者にはなってないと思うけど、近い感じにはなってそう。
幸いウォルフくんが今の会話の解説をしてくれたみたいで、ミュラーさんの誤解は解かれた。
その間に私は二人のことをカイルに聞いてたんだけど、これはもう確定だね。
ミュラーさんはウォルフくんが好き。
まあ見たまんまだ。これだけ典型的なツンデレ、現実だと付き合うの大変そうだけど、幸いウォルフくんもまんざらでもなさそうだし。どうぞお幸せに~。
「……なに? 急にニヤニヤして」
「気に触ったならごめんなさい。お二人がお似合いだなと思って」
「……! は、はぁ!? そんなことないから!」
「はは、振られちゃった。でもソフィアさんこそ、カイルとお似合いに見えるよ」
うん、ミュラーさんは素直でかわいいな。扱いやすそうだし。
それに比べて、ウォルフくんは軽い第一印象に反して、なんか闇が深そう。人生経験が豊富そうなんだよね。女遊びで慣れたとか言われたら困るけど。
そして私とカイルをくっつけようとするな。何が目的だ。
「そうですか? 気の所為だと思いますよ」
ははは、ふふふと笑い合う。どっかでもしたな、こんなこと。
せっかく誤解が解けたミュラーさんがまた訝しそうな顔してるから突っつくの止めて欲しい。
カイルも即刻否定しなさいよ、私たちが初対面だと知りながら間にも入らず、女の子にばっかり話させて。ほらなんか言え。
「二人とも、騙されちゃダメだぞ。こいつの本性もっと凄いからな。話し方ももう一段階砕けるぞ」
ピシリと、自分の笑顔が固まったのが分かる。
カイルくん。私から君に二つ名を送ろうか。今日から君は【空気読めない王】だ。二度と喋るな。
二人からの視線が痛い。
どうしようこれ。トイレとか言って逃げようかな。
教室の喧騒の中、途方に暮れる私だった。
カイルが空気読まなくなったの、ソフィアのせいなんですけどね。昔散々からかった報いである。




