食べた分だけ働いてね?
小動物が食事する光景って癒されるよね。見てるだけで心がふわっと温かくなる。それは認める。
でもね、フェルとエッテはただの小動物じゃないんだよね。
熊よりもでかいナニカに可変可能な謎生物で、普段の手乗りサイズは多分仮初の姿なんだと思う。でなければこの食事量に説明がつかない。
……まあ、なんだ。つまり私が何を言いたいのかって言うとだね?
――自分の身体よりもデカいお菓子完食しておいて不満そうにしてるんじゃねぇぞコノヤロウってことなんですよお!!? てか食べるのが早すぎるんだよコンチクショううぅう!!!!
フェルとエッテの参戦により、ラスイチ程度は残るかと思われていたコンビニのお菓子は物の見事に底をついた。もはやチョコのひと粒すら残っていない、正真正銘の残弾ゼロだ。
私はこの事実に対して遺憾の意を表明したい。食べ物の恨みはマジやばだと知れ。
「フェルぅ〜……! エッテぇ〜……!」
「キュッ?」
「キュイッ!」
未練たらしく恨みがましい声で怒りの程を表現してみたものの、肝心の相手にはあまり伝わってはいないご様子。それどころかフェルに至っては「キュッキューウ!」と追撃までされてしまった。
そりゃあ美味しかったでしょうよ、美味しくて当たり前なんだよ、あちらの世界で売ってるお菓子って物は!! だからこそ大事な時のために取っておこうと思ってたのにィ!!
しかし、その希少なお菓子を提供することを決めたのは私である。まさかその小さな身体で各々一人分以上の分量を呑み込むとは思わなかったが、迂闊にもパーティー開けをしてしまったのは私である。今は深く反省している。
次からは絶対に餌用のお菓子は取り皿で分ける。そう心に刻んだ私だった。
「それにしても、すごいですよね。この小さな身体にあの量のお菓子が消えていったなんて……とても不思議です」
物理法則を無視した不思議現象に唯ちゃんも頻りに感心している。お腹を凝視されたエッテが「キュイ?」なんてあざとい声を出して、ぐーんと伸びをかましているけど……いやいや、めっちゃ伸びるじゃん。
食べたお菓子の行先も疑問だけども背骨とかもどうなってんの? 君たちホントに物理の理に縛られた生き物だよね??
思わず伸びきった胴体を鷲掴んだら「キュッ!?」と悲鳴をあげて逃げられてしまった。にゅるりんと手のひらから逃れた時の感触が気持ち良くて病みつきになりそう。ていうか本当にお腹とか欠片も膨らんでないよねどうなってんだ。
「キュウ。キュッ、キューウ」
「キュイッ! キュゥーイィー!」
「考えるだけ無駄だよ」とばかりに私の手へとフェルの小さなお手手が置かれ、首を振られた。一方のエッテは私の行いを非難するように甲高い声をあげ続けている。……唯ちゃんの手にその半身を隠しながら。
うーん、そんな行動もいちいち可愛らしくはあるんだけど、やっぱり滅茶苦茶あざといんだよなぁ。この子らはマジで自分の魅力が分かってるからタチ悪い。私が可愛くしてれば手を出せないと知ってるんだよなぁ。
しかも今日に至っては黒髪美少女唯ちゃんとのコラボまでしてる。
大人し系美少女の唯ちゃんがぽわぽわ笑顔になって小動物を構ってる姿とか、そんなん目に焼きつけるしかないじゃん? それがエッテたちの狙いだと分かっていても見逃すしかないんだよなぁ……!
「あー、もー……。可愛いって本当に強くて参っちゃうよ……」
「そうですね。……ふふっ」
私の言う「可愛い」に自分が含まれていることを気付いてなさそうな顔で唯ちゃんが笑う。
ちなみに私はフェルと戯れてる私がハチャメチャに可愛いことを自覚してます。
唯ちゃんに微笑ましい目で見つめられるまでもなく、美少女と小動物の親和性はバツグンだからね。鏡まで使ってポーズの練習とかもしてたし、自分がどんな表情をすれば可愛く見えるかは心得ている。
試しに私イチオシのポーズ、頭の上にフェルを乗っけて一緒に小首を傾げる「それなぁに?」のポーズを披露すると、唯ちゃんは目を見開いて見るからに瞳を輝かせていた。続けて頭の上にいるフェルとハイタッチを交わして見せれば、「わぁ……!」と感嘆の声まで漏れ出る始末。
っていうか、あれ? 唯ちゃんにはこーゆーの、やって見せたことってなかったっけ?
思ったよりも反応が良くて嬉しくなっちゃう。これは更なる芸を披露するしかない場面だな。
「エッテ、かもーん」
「キュー……」
不服そうにしつつも素直に従うエッテちゃん。
指で机をテンポ良く叩けば、私の頭から降り立ったフェルがエッテの横にスっと並んだ。
「それじゃあ、挨拶から一通りね」
「キュッ」
「キューイ」
返事と共に後ろ足で立ち上がり、まずは揃って綺麗なお辞儀。その後はちょこちょこと踊ってみたり、ぴょんこぴょんこと跳ねてみたり。
最近させてなかったけどちゃんと覚えてるの偉いよねー。久しぶりに見るとやっぱとんでもなく可愛らしいわ。
唯ちゃんも大満足してるみたいだし、お菓子の件はこの功績に免じて許してあげよう。これからも唯ちゃんの心のケアにはこの子達に頼るのがいいかもしれんね。
実は指の拍子で合図すれば盆踊りだって踊れるらしい。
一時はアイドルっぽい振り付けなんかも練習させてたみたいですよ。




