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あざとかわいい闖入者


「やっほー唯ちゃん、遊びに来たよ!」


「え? あっ、ソフィアさん……!?」


 リンゼちゃんにフラれたので今夜は唯ちゃんと過ごそうとお邪魔したら、なんだか歓迎されてない雰囲気だった。そんな顔されたらソフィアさん、そのベッドで寝込んじゃうぞ?


 お兄様に甘えられないならせめて唯ちゃんと遊んで癒されよーと思って来たのにこの仕打ち。


 意図的に無神経を貫ける私でも今のはちょっと耐えらんなかった。ソフィアちゃんにも静かに落ち込みたい気分の時くらいあるんだよね。


「ごめん……、迷惑だった?」


 ちょっぴり意地悪するだけのつもりが、我ながらメチャクチャ寂しそうな声が出てしまった。


 唯ちゃん相手にこれはズルいなーと思いつつも、この言い方なら断れないだろうと打算的なことを考えている自分もいたりして。


 ……うーむ、今日は本当に退散した方がいいかもしれない。なんか情緒不安定になってる自覚があるよね。なんでだろ?


「そ、そんなことないよ!」


 しかも追い討ちをかけるように放たれた唯ちゃんの返事は取り繕った感が半端なくて、こんなの私じゃなくても「本当は迷惑だけど、こう言うしかないよね……」という副音声が聞こえると思う。おおう、マジで心へのダメージが重症化しそう……。


 うわぁ、なにこれ。なんだこれ。もしかして今日は私の厄日だろうか。唯ちゃんに疎まれると流石に凹む。精神にベコっと大きな凹みが生まれた気がした。


 とりあえず、これ以上ネガティブが進行する前に退散――するよりもっと前に、一応《平静》の魔法だけかけておこうと思い付いた。ぺいっと自分の頭に魔法を掛ければあら不思議。落ち込み放題だった気分が漂白洗浄されたシーツの如く真っ白に! この驚きの白さがたった一秒で叶うのだから魔法のある生活はやめらんねぇや! でへへ、危険薬物より効果覿面ん!! 危険薬物使ったことなんてないけどねん! きゃはっ!


 無駄に落ち込みまくっていた反動か過剰にハイテンションになってる自覚はあるけど、こっちの方がまあ私らしくはあるんじゃないかな。さっきまでのネガネガソフィアちゃんはなんだったんだろ? いつかみたいにネムちゃんの精神魔法を掛けられたりしたんでないとしたら……?


 ……ふむ。まあ色んな不安が積み重なってたとか、そんなこともあるのかな? その可能性がないとは言い切れないよねー。


 とにかく、私らしくもなく弱気なんか見せたせいで唯ちゃんがすんごい自分を責めてるのが伝わってくる。今はこちらをどうにかするのが先決だ。


 私の方は既に精神を持ち直したからもう問題はないんだけど、良い子な唯ちゃんには相手を傷付けたっていう罪悪感が重く圧しかかっているのが見て取れる。もうこれ堪んないよね、早いとこなんとかしないと居た堪れなさでまた私の精神がへにょってなっちゃう。お願いだから元気だしてー、唯ちゃん!


 唯ちゃんの元気を取り戻すにはどうするのが正解だろうか。


 私の導き出した答えはいつも通り、お菓子に頼る作戦だった。


「そう? それなら今夜も一緒に過ごそっか! 折角の神殿引越し記念だし、残り僅かなコンビニのお菓子も出しちゃうよー!」


 軽い口調で言ってるけど、これマジでもう全然残ってないからね。希少さやばいよ? 唯ちゃん相手じゃなかったら絶対出してないから、そこのとこをよくよく理解して大事に食べて欲しいなって……いやもちろん美味しく食べてくれるのが一番だけどね?


 ここで出すのは早まったかなぁ、もっと大事にとっといた方が良かったかなぁ。でももう宣言しちゃったし……とかうじうじと考えていると、突然なんの前触れもなく、もこもこっと私のお腹が蠢き始めた。


 ……まさかお腹が、お菓子を求めるあまり暴走を始めた!? なんてことを思ったりもしたけど、これは違うね。これは私のお腹が欲望のあまり変質を起こしたのではない。服の裏側に隠してある《通行用アイテムボックス》からフェルとエッテが湧いて出たのだ!


「キュッ!」


「キュキューイ!」


 呼んでもないのに飛び出してきて、シュタッ! っとポーズまで決めちゃう小動物が二匹。この子らお菓子に対する反応が良すぎじゃないかな。


「あ……!」


 でもまぁ、今日に限ってはその行いもグッジョブと言わざるを得ない。


 フェルとエッテの登場により唯ちゃんは年相応の可愛らしい笑顔へと変わったのだから、これは褒美を取らすのに相応しいファインプレーである……んだけど、よりにもよってコンビニのお菓子を出したタイミングで来るのか……。


 ぐぬぬ、この子ら最近お兄様の方にくっついてて、私が呼んでも来ないことあるんだよなぁ。それなのにお菓子出すと呼ばなくても来るとか……ここで甘やかすとますます付け上がる気しかしない。でも良い働きには相応の見返りが……うぬぬぅ。


 迷っている私の様子を確認した二匹の愛玩動物は即座に次の行動を起こした。フェルが私の、エッテが唯ちゃんの手へと擦り寄り、その小さな頭を擦り付けながら「キュー、キュー♪」と愛らしく鳴き声を上げ始めたのだ。なんてあざとい!!


 流石は私のペットだ、目的の為に果たすべき手段を心得ている。


 ペットに操られるのは不本意だけど、今日のところは唯ちゃんの笑顔に免じて共にお菓子を食す権利をあげよう。感謝したまえ!


 私が同席の許可を出すと、歓喜の鳴き声が二つ、響き渡った。やっぱり可愛さは最大の武器なんだよなぁ。


なおソフィアは把握していませんが、フェルとエッテはメルクリス家に加えロランドの仕事先をも徘徊することにより、平均的な貴族令嬢以上のお菓子を日常的に確保しています。

その為、舌がとんでもなく肥えているのです……。

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