ウォルフという道化
失礼な男を女の子は無条件で叩きのめしてもいい法律が欲しい。
あ、やっぱりビンタくらいでいいや。女の子らしくね。
「いやはや、やはり噂など当てにならない! 心無い噂を流す者達も、貴女の愛らしさを目の当たりにすれば口を閉ざすでしょうに!」
うるさいから大声で話すの止めてよね。
褒めるのはね、いいことだと思うよ。
初対面だし。いいとこ探し、素晴らしい心掛けかと存じます。
ただねえ。
なんかチャラいんだよなー。子供のくせに女の子泣かせてそうっていうか。
完全に好みで悪いんだけど、私軽そうな男嫌いだし。あと顔近い。
それとは別に、今は噂って単語に過剰反応しちゃうから聞きたくない諸事情もある。
悪い噂っぽいから聖女の件とは無関係だろうけど。
「守ってあげたくなるような容姿でありながら武に秀でるとは。正に現世に舞い降りた戦女神!」
うるせえ離れろ。
いや、いいや。私が離れる。
体全体で「私あなたのこと嫌いですよ」とアピールしてようやく、男は性急に迫りすぎたことに気付いたようだ。
いや違う。
身を引いたのは私に対する気遣いじゃなかった。
「照れる仕草もいいですね。実に良い」
引いてんだよ。
単に眺め回してるだけだった。
この変態、どうしてくれよう。
「怖がってるでしょ! やめなさいよっ!」
カイルを使って追いやる方法を考えてたら、気の強そうな女の子が助けに入ってくれた。
それはありがたいんだけど、私何もしてないのになんで騒がしい人達が集まってくるんだろうか。
静かに暮らしたいなんて儚い願いだったね。
「おやミュラーじゃないか。お互い無事、特別クラスになれて何よりだ」
「当然でしょ。ウォルフも試験に落ちてなくて安心したわ」
ふんっ! と傲岸な態度を見せるポニテ少女。
激しい動きにポニテが跳ねる。
つい目で追っちゃうよね、ポニーテール好きだし。
尻尾が揺れてるのかわいい。自分のでも他人のでもいくらでも弄っていられる自信があるよ、ポニーテール。もちろんツインテールも好きです。
「それで? そっちの子が戦女神とか聞こえたんだけど。強いの?」
ポニテを見てたら目が合ってしまった。
カイルと同じような勝ち気な目。好戦的な方なんですね、分かります。ちくせう。分かりたくなかった。
魅惑的なポニテちゃんは助けどころか変態男の味方だったんですって。おーまいがー。
「ああ、試験では中々の動きを見せていたよ。カイルが戦いたがっていたくらいだから強いと思うが、どうかな」
「へえ、カイルが? ……ふうん。まあ強いのなら仲良くしてあげてもいいわよ。このセリティス公爵家の剣姫、ミュラー様がね!」
二つ名流行ってるの? 今日だけで二つ目だよ。二つ名だけにね、なんちゃって。うぷぷ。
冗談はともかく、今のでこの二人の関係性分かっちゃった。
私に過剰に絡んできたくせにミュラーさんが来てからは一歩引いてるウォルフくん。
ミュラーさんを見るがまた、やさしーの。
仲良くしてあげる、って言った時に一瞬覗かせた緩んだ目元がお兄様と同じだった。
その意味は、「仕方ないなあ」だ。
多分、ミュラーさんと私を友達にする算段だったんじゃないかな。ウォルフくん良い奴じゃん。ミュラーさんの顔、ちょっと高圧的で怖いもんね。
「ありがとうございます、ミュラー様。私はソフィア・メルクリスと申します。同級の仲間としてこれからよろしくお願い致しますね。そちらのウォルフさんも、どうぞよろしく」
にっこりと挨拶。
お友達になろうとするには固すぎる話し方だけど、公爵家相手にいきなりタメ口は怖いからね。ウォルフくんの方も、武門の家は詳しくないから家格分かんないし。雑に話して格上の気分を損ねるミスはしないさ。
カイルの剣術仲間三人衆。
父親同士の仲がいいが、母親同士は更に仲良しらしい。




