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惚れた者こそ敗者であると


「本当に、ソフィアも知らなかったんだね……」


「まあ俺たちだって直前まで知らなかったんだけどな。ミュラーも案外やるよなぁ」


「それよりも、あの、カイル? 助けてくれない……? ……ソフィアって本当に、ロランドさんの事になると性格が変わるわよね」


「あぁん? 『ロランドさん』だぁ……?」


「どこからそんなに低い声が出るのよ……?」


 卒業式? パーティー? 家族が何処かで私達を見てる? そんな事など知ったことか。


 私が今すべきことは、ミュラーを問い詰め、追い詰め、お兄様との関係を全て(つまび)らかにさせることだ。全貌を余さず開示させることだ。


 私の知らないところでお兄様を誘惑していた罪……万死でさえも贖えるものではないとその骨身に刻み込んでやるァア!!


「ねぇ、ミュラー? いつからお兄様をそんな目で見てたの? いつから私の事を騙してたの? 私の目を盗んでお兄様と密会するのはさぞかし心が踊ったでしょうねぇ。……もう人生は充分に楽しんだよね?」


 指先に魔力を篭めると、ミュラーがギョッとして目を見開いた。私の本気さを今更ながらに感じ取ったらしい。


 安心してよ、いくら怒ってたって友達を殺したりなんかしないからさ。


 ただちょっと生まれてきたことを後悔して、心の底から反省して、二度とお兄様の隣りを歩こうだなんて思わなくなるような卑小で卑屈な存在に作り替えて上げるだけだよ。害虫を駆除しない私って優しいでしょ? 害虫にだって大切な家族くらいはいるものだもんね?


「ちょっとカイル! カイル!? この子どうにかしなさいよ!? 目が本気なんだけれど!!?」


「いやそうなったらもう無理だって。あの人に頼む他に方法なんかねぇよ」


 ギャーギャーと騒いだところで私の優位は変わらない。


 流石のミュラーでもこの場に剣は持ち込めなかったみたいだね?

 まあ仮にそんなものを持ってたところで、やる気になった私を止められるとも思えないけどね。


 私が一歩足を進めると、ミュラーも一歩分だけ後ずさる。歩幅の差だけ距離が開くが構うことは無い。ミュラーの足元の空間ごと固定してしまえば……ほら、もうどうやったって動けない。


「え? えっ、ちょ、ええっ!? なにこれ!? う、うそっ!? 動けないんだけど!?」


「動く必要なくない?」


 だってこれから私に処されるだけだもんね?


 にっこり笑顔で問い掛けると、ミュラーはこの期に及んで無駄な抵抗を試し始めた。


 それは呼吸を整え、無手を用いての応戦の構え。


 ……私もまぁ随分と舐められたものだ。


「――《無駄だよ》?」


「え? ……うそ、腕まで? くっ……このっ、……! なんで、なんでどこも動かせないのよ……ッ!?」


 なんでって、魔力の練りが甘過ぎるからだよ。


 ミュラーの周囲の空間は全て私の魔力で固めている。せめて一点の魔力密度を百倍程度には高めないと身動ぎすらも出来ないだろうね。


「さあミュラー、覚悟はいーい? ……お兄様とのこと、全部洗いざらい吐いてもらうよ?」


 ゆっくりと近付いて首筋に手を添えると、ミュラーが見るからに怯んだのが分かる。


 そうだよね。ミュラー程の技量があれば、これだけの隙を晒す機会なんて無かっただろうね? 今結構本気で怖がってるよね? でもそれも仕方のない事だよね? だってこうして生殺与奪を他人の手に委ねられる羽目になったのも、元を正せば全部ミュラーが悪いんだもんね?


 無防備に晒されたミュラーの首を撫でながら考える。さてここからはどうしようかと。


 強さを至上とするミュラーを屈服させる方法は、やはりその強さを支配すること――


「それくらいで許してあげてくれるかな。今回のことは僕から黙っていて欲しいと頼んだからね」


 ――と思ったんだけど、お兄様がそういうのなら許す他あるまい。


 まったくまったくお兄様ってば! 他所の女の子にも甘いんだからぁ!


 でもそんなところも好き! 大好き!! 私ももっと甘やかしてぇ!


「お兄様っ! なんでお兄様がミュラーと一緒に出て来たんですかっ!? そんな話は私まったく聞いてなかったんですけどっ!?」


 ぷんぷくぷんと怒りながら詰め寄ると、お兄様は愛おしい者を見つめる眼差しに全てを赦す優しい笑顔まで加えて私を見た。


 そ、そんな顔されたらなんでも許したくなっちゃうじゃないですか!


 でも私、今回ばかりは怒ってますから! 納得いく理由の説明がなければいくらお兄様でも許しませんからね!?


 さあこの愛する妹の怒りを鎮められるものなら鎮めてみなさいっ! とばかりにお兄様と対峙すると――お兄様は、困ったように苦笑してこう答えた。


「なんでって……。もちろん、ソフィアの驚く顔が見たかったからだよ? ソフィアは驚くと本当に良い顔をしてくれるよね。僕はその顔を見るのが大好きなんだ」



 大好きなんだ。大好きなんだ。大好きなんだ―――



 その言葉だけが頭の中で反響する。


 お兄様が私の事を愛しているのは知っている。大好きなのも知っている。


 だがしかし、この「大好きなんだ」はいつも家で聞いてる「好きだよ?」とは感情の色が違うというか、込められてる感情の総量が違うというかぁああ、あうあうー!


「ソフィア? どうかしたかい?」


「……わ、私だって大好きですぅー!」


「うん、知ってる。ありがとうね」


「ううぅー!!」


 だあー、もう! ああー、もう!


 このっ、……お兄様のイケメン! 女たらし! 現代最強の女殺しめ!!


 にっこにこの笑顔を向けられてるだけで怒りの感情が持続できない。全ての感情が羞恥心に置き換わっていく。


 ああああもー! そんなに見ないで! 怒りでブサイクになってた私を見ないでェェ!!



 もうっ! もうもう、これだから私のお兄様は!!


 ほんと好き!!!!


「あの人、マジでソフィアの兄って感じだよな」

「そ、そうだね……。なんか、色々とすごい、よね……?」

「それよりちょっと二人とも!?呑気に話してる暇があるなら、これ!動けるようにしてくれないかしら!?」

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