忘れられない卒業の日
時が経てば自然と落ち着くと思っていたカイル&カレンちゃんのカップルは、落ち着くどころかむしろ日増しに夫婦感を増していってた。なんなんだあの二人のイチャイチャっぷりは。違和感しかねぇ〜!
――なんてことを日々感じながら戸惑っている間にも、時は変わりなく流れ続けて。
気付けば今日は卒業式の当日。
多くの卒業生にとって記念すべき日が、あっという間にやってきていたのだった。
「まさかこんなに穏やかな気持ちでソフィアの卒業を迎えることができるなんてな……。ソフィアを《聖女》に推挙した過去の俺を褒めてやりたい!!」
「それでも家は出ていくんですよ? まさか神殿に行くことが決まっていると忘れた訳では無いでしょうね?」
「余所の男に取られることに比べたらその程度! ロランド!! 分かってるな!? ソフィアに変な虫を絶対に付けるんじゃないぞ! 頼んだからな!」
「はは、父さん。――勿論だよ」
我が家では当人である私よりもお父様の方がよほど楽しみにしているみたいだけど、私だってそれなりに楽しみではあるんだよね。
パーティーにも極力出ないようにしてる私はお兄様にエスコートされる機会が極めて少ない。
正式な場でお兄様に手を引かれて歩けるってだけで、もう……期待に身体が震えちゃうよねぇ。えへへえへへぃ。
「ソフィアはあまり緊張してはいないようですね」
「そうですね……。全体の流れはお姉様やお兄様の時に把握してますから、そのせいでしょうか? 人並みに緊張しているとは思いますよ?」
まあその緊張は卒業式に対するものというより、お母様の監視の目に対するもののような気がしないでもないけど。
対外的にはちゃんと礼儀正しくしてると思うんだけど、偶に社交の場に出ると人と話してる間お母様の視線めっちゃ感じるからね。あれ私じゃなかったら萎縮してむしろ失敗の原因になってると思うよ? お母様は人を監視する前に褒めて伸ばすことを覚えた方がいいと思う。
……なんてことを、毎度毎度思ってるのに一向に改善されないんだよね。
そーゆー時にこそお得意の読心術でこちらの心情を読み取って欲しいのに、お母様はその異能を私を叱ることにばっかり使っててさー。お母様にはよく「無駄に能力が高くて困ってる」的なこと言われるけど、お母様こそちゃんと能力を有効活用してよねって感じ。ホント私達って似た者母娘だよねぇ。いいんだか悪いんだか……はあ。
まあ能力が低いよりは高い方が良いに決まってるか。そうでなければ、こうしてお兄様に素直に甘える時間も取れなかっただろうし。
兄が優秀過ぎると妹としても大変だよね。……でもそこが好きぃ!!
「お兄様はいつも落ち着いていますよね。……今日は頼ってしまっても良いですか?」
慎ましく腕を引きながら上目遣いで尋ねると、お兄様はにっこりと笑顔で微笑んだ。そして麗しいその唇から、快諾する言葉が――
「おっ、なんだ? ソフィアは緊張してるのか? なんなら父さんに抱き着いて気を鎮めても構わないぞ!」
――お父様。あの、ものすごく邪魔です。お願いしますからどうか私たちの目の前から消えて下さいませんか?
そんな言葉が喉元まで出かかったけど、なんとか気合いで抑え込んだ。
え? 殺気だか怒気だかが漏れ出ていた? 可愛いソフィアちゃんからそんなもの出るわけないじゃないですか。きっと気の所為ですよ、だから黙って?
気分を落ち着けてTake2。
お父様の存在を完全に無視して愛らしく小首を傾げ媚びを売った。「今日はお兄様と一緒に居たい」。そんな気持ちを瞳に込めて。
「もちろんいいよ。ソフィアに頼られるのは嬉しいからね」
「やったあ♪」
わーいわーい、お兄様好きー。お兄様大好きー。卒業式終わったら結婚式しよー。
そんな幸せな気分のまま家族揃って学院へ行き、卒業生は別行動へ。
待望だったお兄様のエスコートによる入場も無事に済ませ、ニコニコ笑顔で他の卒業生の入場を見守っていた私は――そこでありえないものを見た。
カレンちゃんとカイルの同級生カップルの入場に、周囲が祝福の拍手を送る姿……ではない。私の目を捕らえて離さないのはその後ろ。
相手が誰なのか最後まで明かされなかったミュラーの隣りに並んでいるのは――さっきまで私をエスコートしていたお兄様ではありませんか!??
ええいや待って!!? なんでお兄様がそこに居るの!?!?
まってまって、本気で待って。意味分かんない。
だってその位置に立てるのは……家族以外だと恋人か婚約者しか……え、実はミュラーとお兄様は縁戚関係にあるとか……? ……はああああ!??
おいいいミュラああぁあ!!? 後で納得いく説明してもらうから覚悟しろよ!?!?
「ソフィア、すごく怒ってるね……」
「だから言ったろ?こんなんソフィアが知ったら絶対面白いことになるって。あの笑顔からの急変、最高だったな!」
「カイルくん……。……もう、こんな日にまでソフィアの話ばっかりだね?」
「ああ、悪い悪い。でも、ほら。今こうして隣りで手を繋いでるのはカレンだろ?」
「……うん♪」




