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友人がバカップルになってしまった……


 カイルは五日ほどで学院に復帰した。


 そうするとどうなるか。学院で現在話題沸騰中の出来たてほやほやカップルがようやく二人揃ったのである。周囲を歩く人達の耳目がいつもの五割増で研ぎ澄まされているのを肌で感じる。


 無論、学院内の恋の動向を肉食獣よりも鋭敏な嗅覚で嗅ぎつける訓練された淑女の皆様方も既に所定の位置にスタンバってる。


 後はいつ獲物にかぶりつく(インタビューする)か……。


 教室内は異様な空気に包まれていた。



 ――が、そんな空気をものともしないのがバカップルのバカップル足る所以である。


「えへ、えへへ……」


「……そんなに楽しいか? 俺の腕なんか触ってて楽しいもんでもないだろ?」


「ううん、そんなことないよ? 固くて、どっしりしてて……男の子なんだなって感じがして、私は好き……だよ?」


「……そ、そうか」


「う、うん。……そうなの」


 ……誰かあの甘すぎる空間ぶち壊してくれない? 見てるだけで胸焼けしそう。


 カレンちゃんが幸せそうなのは良い事だよね。カイルの照れ顔も見てて面白いから悪くは無いかな。


 でもね、物事には限度があるだろっていうかね? いくら好物だって朝昼晩と毎食食べてたら三日目くらいには「違う物も食べたーい」ってなるじゃない? それと同じで、過ぎたるは及ばざるが如しなんだよ。見てるだけなのに幸せの余波で溺れそうになっちゃうんだよ。なんだこの気分。


 ……もしかして私は、あの二人を見て羨ましいなんてことを思ってるんだろうか?


 私は自分で思っている以上にカイルのことを気に入っていて、それで、カレンちゃんの今の立場を羨ましいと……否、それはないな。絶対ない。あのカレンちゃんの位置に私がいて、カイルからあんな甘々蕩けた視線を向けられたらと想像しただけで……うおおぉ、全身から怖気が走るうぅ!! 私にベタ惚れのカイルとか想像するだに恐ろしい!!


 ならば逆に、カイルの方か? カレンちゃんにあれだけ愛されてるカイルの方を羨ましいと無意識に感じているんだろうか?


 確かにまぁ、あの私の好みドンピシャの超絶美少女がカイルなんぞにデレデレになってふにゃふにゃの笑顔を惜しげも無く晒している姿は、見ているだけで胸の辺りがもやもやするけど……でもこれもそーゆーのとは違う気がするんだよね。


 てかもしもそうだったとしたら、私ってばあの人でも呪い殺せそうな目でカイルを睨んでる男共と同類ってことになっちゃうじゃん。そんなのいくらなんでもイヤすぎる。私はあの男共とは違って女の子にも結構モテるんだからね。


「……なんだか凄いことになってるわね」


「そーね」


 他人事みたいに言ってるけど、その凄いところに朝の挨拶に突っ込んで行ったミュラーも大概お凄いですよ。その胆力には素直に感心してるんだからね?


 私なんて後ろにくっついていって「お、おはよ……?」くらいしか言えなかったもん。あの二人の周囲にはバカップル耐性のない人類を軒並み行動不能にする特殊フィールドが展開されてるに違いないと思う。明らかに空気が異常だったもん。


 そもそもの話、あの二人って本当に私の知ってるカイルとカレンちゃんなんだよね? なんだか全くの別人みたいに見えるというか……あんなの見ちゃうと恋愛が恐ろしいものだってことを改めて実感するよね。


 私もお兄様とイチャイチャしてる時はあれくらい周りが見えなくなってるんだろうか……? だとしたらイチャつく場所はちょっと考えた方がいいかもしれんね。もちろん無駄に躊躇して折角のチャンスを逃したりするつもりは無いけれどね。


「あ、見て。凄いわよ。覗きに来た人達が何もしてないのに帰っていく……!」


「まあ一目見ただけでどんな状況かなんて丸わかりだもんね。噂を確かめに来ただけならすぐ帰るでしょ。カイルとカレンがダメだと分かったら、次の相手を狙いに行かなくちゃいけないからね……」


 そう、卒業式はもう間近にまで迫っているのだ。他所のクラスにまで相手を探しに来ている人が既にパートナーの決まってる人に気長に粉を掛けてる余裕なんて普通はないはず。


 相手が決まっていない場合は家族と一緒に入場することになるんだけど、そんな人は毎年ひと握り程度しかいない。


 大抵は恋人や婚約者、あるいは既に結ばれた相手と一緒に晴れの舞台へと歩を進めるのだ。


「一応聞くけど、ソフィアって卒業式の相手は……」


「もちろんお兄様だけど?」


「そうよね」


 呆れたようにミュラーが苦笑する。けど、私の場合は仕方がないのだ。だってほら、《聖女》としての立場もあるわけだしね?


 無論そんなものが無かったところでお兄様以外と歩くことなんて考えられないけどね。


 人生に一度きりの卒業イベント、それも「数多くの仲睦まじい夫婦が生まれた」実績を持つ卒業式のパートナーだよ? お兄様と歩く事が許されないなら私は独り(ソロ)で歩く覚悟さえある。


 もちろんお兄様は私がお願いしたら即快諾してくれたから、そんな覚悟は無用な心配なんだけどねっ♪

 ああっ、今から卒業式が楽しみすぎるぅ!!


「ソフィアは本当にロランドさんのことが大好きよねぇ……」


「まぁね!!」


 何を今更分かりきったことを。


 最近ではむしろ大好きなんて言葉では表現がまるで足りていないとさえ思っているよ?


 極好き……いや、おにしね(お兄様の為なら死ねる)とか?


 なんにせよ、カイルとカレンちゃんのラブラブっぷりも私とお兄様の相思相愛度合いにはまるで敵わないだろうね! なにせ、愛の! 年期が十何年も違いますから!!!!


「私からすれば、ソフィアも相当……いえ、なんでもないわ。幸せでいるのが何よりよね」

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