表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1331/1407

カイルのお見舞い


 休み時間の度に集まってはカレンちゃんへの質問が続けられていたが、最初に聞いた以上の情報が出ることはなく。放課後には新しく誕生したカップルの片割れを覗きに来た人くらいにしか興味を示されなくなってたみたいだった。


 ……他人の色恋にアホほど反応する彼女たちが異様に大人しいのにはもちろんきちんとした理由がある。これはカレンちゃんの態度に寄るところが非常に大きい。


 普段であれば可愛らしく照れた姿を見せてくれてた「カイルのどこを好きになったのー?」系の質問に対しても、今日のカレンちゃんは真顔で落ち着いて受け答えしててね。しかも落ち着いているその理由を聞けば「怪我してるカイルくんのことが、心配で……」と瞳を潤ませながら言うもんだから、からかい目的の人達が一斉に「こりゃやばい」と撤退していったのだ。恋愛成就をネタにして遊べる空気なんて何処にもなかった。


 なるほど、こういう(かわ)し方も有効なんだなと勉強にはなったけれど、友人が落ち込んでいる姿は見過ごせない。


 私とミュラーは直ぐにでも帰ろうとしているカレンちゃんを捕まえて、そのままお屋敷に遊びに行くこと無理やり了承させたのだった。



◇◇◇◇◇



「……私ね、実はカイルの怪我って大したことないんじゃないかって思ってたんだ。カレンも数日で治るようなことを言っていたしね」


「実際大したキズじゃないんだって」


「いやっ、やめて! その顔でこっち向かないでくれる!?」


「部屋に勝手に入ってきたのそっちだよな? 相変わらず、ソフィアは無茶苦茶言うよなぁ……」


 案内された先でベッドに伏せっていたカイルの頭には、まるでミイラのような包帯がこれ見よがしに巻かれていた。


 しかもその一部からは血が滲んでて……あぁああ、見てるだけでちょー痛そう! 私そーゆーの苦手なんだよう!!


「ソフィアって変なところに反応するわよね。頭がちょっと切れただけなんでしょう?」


「うん……。大人しくしてたなら、傷はもう塞がっててもいいはずなんだけど……。……カイルくん? また寝てる間に引っ掻いたでしょ? 次やったら腕を縛るよって言っておいたよね?」


「寝てる間の行動くらい許してくれよ……」


 平然としているミュラーに、ぷりぷりと怒るカレンちゃん。カイルも困ったような顔をしていたが痛がる素振りは見せなかった。


 いやいやいやいや、それにしてもだよ。それにしたって頭の怪我だよ!? そんな軽く流していいものなの!? 皆にはあの血の滲んだ包帯が目に入ってないの!? あの怪我めっちゃ痛そうじゃんかあぁ!!


 血に濡れた包帯を交換しながら普通に会話を交わす友人たちが信じられない。


 私なんか……ほら見て、腕に鳥肌立ってるよ?


「アイツどうしたんだ?」


「さあ……?」


「多分血を見るのが苦手なんでしょ。前にもかすり傷で大騒ぎしてるのを見たことがあるわ」


「「ああ〜……」」


 何故か残念な人を見るような目で憐れまれた。


 待って、おかしくない? だって頭から血が出てるんだよ? 普通もっと慌てるもんでしょ!?


 そう考えたところで気が付いた。この世界は医学に関しても遅れている。ひょっとすると頭の怪我の危険性について認知していない可能性がある。


 ――これってもしかしてやばくないかな!?


 咄嗟に魔法を行使した。

 カイルの頭に致命的な障害が――あるかどうかは分からないけど! とりあえず外因性の変化は無いように思えた。時間差でいきなりぶっ倒れたりするようなことにはならない……と思う。


 ふう、と一安心して溜め息を吐くと、何故かミュラーから「ふふっ」とおちょくるような笑い声が聞こえた。聞きたくないけど聞かねばなるまい。今の笑いはどういう意味かと。


「なんで私は今笑われたの?」


「いえ、ごめんなさい。……そんなに怒らないでよ。馬車の中ではカイルのことを無謀だ何だと扱き下ろしていたのに、実際に会ったら誰よりも心配してるんだもの。思わず笑いたくなっちゃっても仕方ないでしょ?」


「確かに……!」


「確かに……じゃないんですけど」


 いやいや、だってさーぁ? 軽い捻挫とかだと思ってたのに頭に包帯なんて巻いてる姿見せられたら普通に心配するじゃん? 相手は力自慢の《豪腕》様だし?


「受け損なって手首捻った!」とかなら分かるけど、「受け損なって頭にもらった!」ってなったらそれ致命傷案件だからね。


 この世界の人類はマジで人の頭なんてトマトみたいに軽く潰せちゃうんだから、よくよく気を付けないと簡単に取り返しがつかない事態にだってなりうるのよ。カイルは大して強くないんだから調子乗って強い人に挑んだらダメでしょー? ボコボコにされたいならまずはこの私にご連絡くださーい。


「まあ無事なら良かったけど……そもそもなんでカレンのお父さんに挑んだりなんかしたの?」


 まずそこからして分からない。


 想像だけなら、いくつか可能性は思い浮かぶけど……果たしてこの中に正解はあるのかな? そんなふうに思っていたら。


「なんで、って……。嫁取りに来たなら相手の父親を倒すのは当然だろ?」


 そんな当然聞いたことないわ。


 さては頭に良い一撃もらってバカになったんだなと結論づけようとしたものの、見ればミュラーどころかカレンちゃんまでもが当たり前の顔をして頷いていた。どうやら武門の家では割と一般的なやり方らしい。


 えー……いやいや、その理屈だとカレンちゃんとかミュラーが何処にもお嫁にいけなくならない?


 武門の家ってまともな思考をした人皆無なのかな……?


「ソフィアとカイルも昔馴染みなんでしょ?ソフィアの苦手なものくらい知ってるんじゃないの?」

「こいつが俺に弱みなんて見せると思うか?」

「……なんだかすごく納得したわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ