特別クラスの在り方
「ここに集まった皆さんは今日から特別クラスの所属です。学業で、武術で、芸術で、魔法で。または、それら全てで。我ら教師陣を認めさせた力を、これからの三年間でより伸ばすよう努力し続けてください」
教壇に立った先生が新入生に語り続ける。
「このクラスではそれらの能力をより高めることを目的とした指導を行います。その一環として、特別クラスでの全ての試験ではクラス内の順位が公表されます。クラスの同胞と切磋琢磨しなさい。自分の評価を、他人の評価を意識しなさい。競い合い、高め合う。それが成長に繋がります」
生徒達の緊張した空気が教室を支配していた。
先生を見知っていたらしき女の子たちがひそひそ話していたり、友人たちと共に学べることをふざけあいながら喜んでいた男の子たちが、今は真剣な表情で先生の話に耳を傾けている。
「上位の成績に慢心すれば、すぐに追い落とされるでしょう。下位の成績に奮起できなければ、成長はないでしょう。常に上を目指し、その為の努力を惜しまないことです」
私は楽しい学院生活を夢見てここに来た。
さっきまで、先生が来るまでは、この教室にいるみんなも同じ気持ちだと感じられる雰囲気だったのに。
今、みんなが考えてることって同じじゃないかな?
――この先生、めちゃくちゃ厳しそう。
そんな心の声が聞こえてくる気がする。
「皆さんは幸運です。今年の特別クラスには殿下がいらっしゃるのですから。皆さんが努力し、結果を出せば、それは王族の目にとまることとなります。その意味が、分からない人はいないでしょう」
わ、教室の空気が変わった。
先生が、心底羨ましいって顔してたから本心で私たちのこと幸運だと思ってるんだ、マジか、とか思ってたのに。
意外とみんなやる気あるのね。真面目クラスなのね。
「それではこれより三年間、限られた時間の中ではあるが、自らを高め続けるように。それと一応、規則だからな。希望者は下位クラスへの転属が認められることも知らせておこう。希望者が出ないことを願っているがね」
下位クラスって。
なんだかエリート志向な先生なのかもしれない。
そして次の休憩時間。
クラスでは先生のこと、また特別クラスの方針についての話で盛り上がっていた。
「はぁ~、リチャード様の怜悧な目、堪らないわ。頑張って特別クラス入って良かった」
「ちょっと怖かったけど、あの先生に見られてると思ったら嫌でも成績上がりそう」
「順位が公表されるって怖いな。成績低すぎたら婚約者見つけられないんじゃないか?」
「愚かな、それは敗者の思考だぞ。逆に考えることだ。成績さえ良ければモテると!」
「俺頑張れそうな気がしてきた」
「指標にはなるわよね」
話の流れがおかしい。いや学院の目的からしたらそこまでおかしくはないんだけど、やっぱ十五歳までに結婚相手探すの早すぎるよ。私もお姉様並に行き遅れたい。
クラスメイトの楽しい会話に聞き耳を立ててるうちに、カイルのところに見知らぬ暑苦しい男が来てた。
「いやあ、予想以上にいいねえ! 特別クラス! 仲間たちと共に強くなる! 最高だな!」
「うちの親父もよく言ってたな。『負けて当然と思うな。考えるのを止めるな』ってやつ、似たような意味だろ? 先生と気が合いそうだな」
カイルのお父さんいい事言うね。やはりダンディは良い、良いぞぉ。
そんなことを思ってたら、カイルと話してたはずのミスター暑苦親善大使が急に顔を覗き込んできた。
初対面の。乙女の顔を。下から。近距離で!
はっ倒したい。断固国交拒否だこのやろう。
「やはり、ソフィア嬢ではないですか!」
だから誰だよ! 名を名乗れ!
リチャード教諭は「第9部分 お姉様と計画を立てよう」で登場した先生。
女の子に人気が高い。




