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飛び交う憶測


 今日はもう来ないのかと思われたカレンちゃんだったが、お昼休みの終わり際にはしれっと教室に紛れ込んでた。午後からは普通に授業を受けるようだ。


 なおその時点で確認したが、カイルは学院内にはいなかった様子。


 カレンちゃんのみが登校してきたことの意味……私たちはどう受け止めれば良いのだろうか。


「……どう思う?」


「一緒に休んでて何も無いって事はないでしょー。やっぱり何かあったんじゃない?」


「それならカレンだけが休むのが自然じゃない?」


「いやいや、カレンの家が何処か忘れたの? 体力的にはカレンの方が有利でしょ」


 既に午後一の授業が始まっているというのに、女生徒の内緒話が止まらない。むしろ授業中だからこそ内緒話が盛り上がっている側面もあるのかもしれない。


 クラスの人達は昨日の告白に関しては知らないが、ここ最近のカレンちゃんがカイルに猛アタックしていたことは知っている。


 それがある日突然、二人揃っての欠席ともなれば……。


 邪推する材料には充分だったようだ。


「でも今どき朝帰りとかなくない? 一発でヤったってバレるでしょ」


「でもあの二人だよ? 両方初心者ならそこまで考えが及ばないのも納得と言うか……」


「カレン、頑張ってたからねぇ……。あれだけの誘惑を何かの事情でずっと堪えてたんだとしたら、それこそ我慢から解き放たれたら獣のように……」


「純情男子の欲望が爆発したって? うっわ、それ凄いことになってそう……♪」


 キミたち、さっきから少しずつ声が大きくなってるからね。そろそろ抑えよ? ほら、先生の額に青筋が浮かんできてるの見えるでしょ? 叱られるのは勝手だけど、せめて私が巻き込まれないように叱られて欲しいなー。


 と、そんなふうに思っていたのだけど、私の傍らには空気読めない大王のミュラーがいたのを忘れていた。彼女はあろうことか、まるで先生の我慢が臨界を迎えるここぞというタイミングを狙い済ましたかのように私へと声を掛けてきたのだ。


「ソフィア、どうするのよ? この状況ってソフィアがカレンをけしかけてたせいでもあるのよ? 何か対策を考えないと――」


「今は、黙って。お願いだから」


 口パクで伝えつつ「しー、しー!」ってやっても全然黙ってくれないミュラーに遂に声を出させられてしまった。


 これ先生の側からしたら相当ムカつくだろうなあ……と思っていたら案の定。バァン! と教卓を叩く音が響き渡った。ざわついていた教室に静寂が満ちる。


「……今日は随分と余裕のある方が多いようですね。既に知っていることを説明されるのも退屈でしょうし、ここはひとつ、私の代わりに皆様に解説をお願いしようかしら」


 そう前置きをした先生が、生徒のひとりを指名する。そして「カンターレ地方の特徴と特産品。それぞれ五つずつあげてください」と笑顔で告げた。


「え。五つ……ですか?」


「はい。カンターレ周辺にはいくつかの集落がありますので、そちらの特産品でも構いませんよ。もちろんカンターレで造られている商品でも構いません。気候、風土、住民の傾向。そんな彼らが生み出す生活の糧。きちんと学んでいればそれほど難しい質問ではないでしょう?」


 わぁい、先生静かに怒ってるーぅ。カンターレなんかチーズくらいしか有名なモノないじゃないの。他の特産というと……肉料理の種類が豊富なんて話もあったんだっけ? まあなんにせよ、言うほど簡単な問題ではない気がするよね。


 それにしても、私らが当てられると思ったのに別の人が当てられたのは意外だったな。そんなふうに思っていると、答えに窮する生徒から視線を外した先生様がばっちりこちらを見てらっしゃった。わぁい、微笑みのプレゼントまでされてしまったよ。サービス精神満点だね!


「勤勉なソフィアさんなら勿論お分かりになりますよね?」


「そうですね」


 ミュラーではなく私ですか。まぁミュラーに投げても授業が進むことは無いだろうからね。


 求められるままにスラスラっと答えたら、なんだか無性にピザ的なものが食べたくなってきた。カンターレのチーズは牛の乳じゃないから好みじゃないけど、あれもおつまみとしてなら結構イケるんだよね。お父様がお酒飲んでる時に何度か食べた。


 ふむ……各地の名物料理を食べ歩く旅というのも悪くないな。


 先程とは打って変わって滞りなく進む授業中にそんなことを考えてたら、再度先生からのご指名が入った。余計なお喋りとかしてなかったのに何で私が? 普段は全部自分で進行してるのになんで今日に限って私ばっかり当てるんだろ? 不思議だねー。


「ソフィアさん? お願いできますか?」


「はい。ええと、ロクス山脈の豊富な資源は――」


 答えながら教室の様子を確認すると、未だにちらちらと視線は向けられてはいるものの、露骨にカレンちゃんの話をしている人はもういないみたいだった。流石は優等生クラスってとこなのかな?


 まあ優等生だからこそ好奇心が強すぎる人とかもいるみたいだけど、そこはそれ。


 もしかしたら先生は「優秀な人は公私の区別がしっかりしている」と伝えたかったのかもしれないね。


先生がソフィアを当てまくっていたのは、単にざわつく生徒達の会話から「この落ち着きのなさはソフィアさんのせいなのね?」と誤解をしたから。

要は声の大きかったミュラーの発言が原因ってことです。

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