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男心が意味不明すぎる


「――んっ!?」


 シャルマさんとの楽しい会話に興じていた私は、不意に漏れ聞こえてきたその声に全神経を集中させた。


 ――は? え? これって……もしかしてカレンちゃん、泣いてるんじゃない!?


 怒りで頭が真っ白になった私は、気づいた時には部屋の中に飛び込んでいた。


「おらぁカイルぅぅ!! なに泣かせてんだテメェおらー!!」


 もはや「おらー!」しか言えていない、あまりにも頭の悪い文句を垂れ流しながら突入した私は、その勢いのまま必殺の膝蹴りをぶち込むべく跳躍した。


 狙いは一点、カイルのどたま!! かち割るぞおらぁ!!


「死ね! 今すぐ死ねぇぇ! 死んで詫びろ!!」


「おまっ、ちょ!! 手加減、っぐぅぅう!!」


 魔法で身体を拘束した。《身体強化》に《浮遊》も足して加速度もつけた。


 だから避けられることだけはなかったのだけど、案の定と言うべきか、私の攻撃はカイルの体表面に張られていた《身体防御》の膜によってその威力の殆どを吸収されてしまった。ああああああもう鬱陶しい!!


「今日ばかりは本気でいくよ! ――《痛覚」


「待って!!」


 魔力を直接繋げ、無理やりでも仕置きをしようとした途端――カレンちゃんから待ったの声が。こじ開けた魔力の通り道はそのままに、刑の執行をほんの少しだけ待ってやることにした。


「カイルくんは悪くないの!!」


「でもカレンを泣かせたんだよね?」


「これは……嬉し涙、だから……」


 嬉し涙? ってことは……ほほーう!


「良かったね、カレン! カイルもやるじゃん!」


 まさかこの短時間でそこまで進むとは!


 馬乗りになったままカイルの肩をバシバシと叩く。そうかそうか、カイルがカレンちゃんを受け入れたかー……と、思ったのだが


「…………」


「……?」


 ……なにやら二人の反応がおかしい。


 あれ? 告白が成功したんじゃないの? ……成功、したんだよね?


「……えっと、カイルはカレンと付き合うことにした……んだよね?」


「は? いや違うけど……」


「え?」


「ん?」


 カイルと二人、顔を見合せた後にカレンちゃんの方へと振り返った。これはいったいどういうことかと、説明を求めて。


「ねぇカレン。どゆこと?」


「え、えっと、ね……?」


 モジモジとしていたカレンちゃんは、顔を赤く染めながら意を決したようにこう答えた。


「その……『嬉しい』って言って貰えたのが、うれしくって……」


 嬉しい。カイルがそう言ったと。……何に対して? え、まさか告白の返事がそれだけとか? いやいやそんなまさか……まさかだよねぇ?


 いまいち要領を得なかった私は、先程と同じ問いをカイルにも投げ掛けることにした。


「ねぇカイル。どゆこと?」


「いや俺に聞かれても……分かんねぇよ」


 分かんねぇよじゃねーよ。でも告白を受け入れた訳じゃないのだけはなんとなく理解した。どーゆー状況なんだろこれ、意味わかんないね。


 えーっと、つまり? カレンちゃんが告白したあと、カイルはそれに対して「嬉しい」と答えたと。それを聞いたカレンちゃんが喜びのあまり泣き出してしまった……?


 ……え、ホントに? そんなことある??


 改めて状況を整理したはずが更なる混乱に叩き込まれてしまった気がする。


 カレンちゃんが純粋過ぎるのか、それともカイルに甲斐性がないことが問題なのか……両方かなぁ。


 はあー、と溜め息を吐くふりをしてカイルに顔を近づけた。カレンちゃんに聞こえないよう、小さな声で詰問する。


「……カレンの告白を受け入れるつもりはあるの? それだけ答えて」


「それは……」


 ああ、はい。詰まった時点で理解した。カイルの方にその気は無いのね。


 そうなると、カレンちゃんの涙はぬか喜びになっちゃうな――と思考に意識を向けた途端、「待て」との言葉と共に髪の毛がグイッと引っ張られた。せめて服を掴めやこのボケナスゥ!!


「あんたね……ッ」


「俺からも聞きたい。お前本当に誰とも結婚しないつもりなのか?」


「だったらなんなの?」


 ささっと言葉を交わしてカイルの上から降りるも、質問に答える気はなかったみたいで目を合わせてくる様子さえ見られなかった。聞きたいことを好き勝手に聞くだけとか実にいいご身分ですね。


 これはもうカレンちゃんに謝らせるついでに土下座でもさせて鬱憤晴らすか? と密かな考えを抱いていると、唐突に「カレン!」と力強い声が上がった。驚いたカレンちゃんが「ひゃいっ!」なんて愛らしい返事をしていた。めちゃくちゃ和むね。


「本当に俺でいいのか?」


「え? あっ、それはもちろんっ、カイルくんがっ! カイルくんだからいいのっ! カイルくんがっ、えっと、その……っ!」


 え、え、え。


 ええええなに、急になんなの。何が起きてるの? 私ここにいてもいい人なの? どう考えてもお邪魔じゃない?


 今からでも消えるべきかと悩んでいる間にカイルが更なる行動を起こしていた。


「分かった。なら俺もそのつもりで動いてみるよ。帰ったら両親に話してみる。……いや、どうせならカレンにも来てもらった方が話が早いか。今日の放課後、俺ん家に寄れるか?」


「え、あの、その……〜〜?」


 お、おおーい、カイルぅ? 急展開過ぎてカレンちゃんが困ってるよォ!?


 ついでに私にも事情説明があると嬉しいんだけど……いやホント、急にどうしたんだろ? 頼もしさが突然カンストでもしたかな??


「……ヘレナ様を外出させていて正解でしたね。こんな光景を見てしまってはどれだけの間機嫌を損ねられていたことか……」

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