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盗み聞き失敗


 私が面倒な性格であることは自覚している。

 自分でも随分と好き勝手して生きているつもりではあったけれど、これまで特にそれを正そうと思う機会には巡り合うことなく生きてこられた。


 そう、正す必要を感じなかったんだ。


 だから私は、これまで好き勝手にしてきたのだけど……。


「ソフィア様は友達思いなんですね。それはとても素敵な事だと思いますよ」


 部屋の中の様子を探っているとね。シャルマさんが困った顔をしてこっちを見るんだ。


 困った子供を見るような、少しだけ悲しそうな顔をしてね。私に注意したいけれど、それが本当に私の為になるのか。メイドの立場で出過ぎた真似ではないだろうか、あるいは失敗を排除してしまうことで私の成長を妨げるのではないか……そんな葛藤を思わせる顔をしてね、私のことをじっと見るんだ。


 罪悪感が半端ないんよ。


 結局後ろ髪引かれながらも室内の監視を中断した私は、自ら「これは良くないことだ」と気付き手を引いたことでシャルマさんから手放しで褒め称えられることとなった。そしてこれ以上ないほどの子供扱いもされる羽目になったのだった。


「すごいですね」「えらいですね」とお姉様からされるレベルの猫可愛がりをされまくったお陰でほんの少し髪の乱れた私は、その場で立ったままシャルマさんに髪を整えてもらったりもした。正直部屋の中がどうなってるのかとかどーでも良くなるくらい幸せな時間だったね。


「友人とは、宝です。ソフィア様が嬉しいと感じた時、横に友人がいれば嬉しさは倍増するでしょう。ソフィア様が悲しいと感じた時、横に友人がいれば悲しみを分かち合うことが出来るでしょう。人は一人で生きていくことはできません。助け合うことでみんなが幸せになれるんですよ」


 お説教というか、諭すように語られた話の内容は正直なところ、納得できる部分もあれば「え、そうかな?」と思う部分もなかったわけではないのだけれど、シャルマさんの美声でそれっぽいことを言われてしまえば「ああ、人ってみんな善い人なんだなぁ」って気分にはなってくるものだと別の意味で感心してたり。


 実際この世界の人達って善人ではあるんだよね。人によって「善い行い」の判断基準が違うだけで、妬み嫉みで他人を害するということが殆ど無い。


 そうでなかったら格別に可愛らしい容姿を持ったこの私が今までに問題を起こさなかった訳が無い。

 時に王子様に見初められ、時にクラスで話題が沸騰する男子と一番近しい立場にあったこの私は、普通であればもっと激しいやっかみを受ける立場にあっただろう。妬み嫉みといった負の感情を向けるのにこれほど適した人物はいないだろうと自分でも思う。最強にカッコイイお兄様の存在もあることだしね!


 ただ、そのような感情が私に向けられた事実は一切ない。もしもそんな感情が私に向けられるような事態が起こっていたら、私は迷うことなく煩わしさを解消する為の行動を起こしていたはずだ。それが無かったことは双方にとってとても幸せな事だったんだと改めて思う。


 方法があまりに雑であることは否めないが、女神が定めたこの世界の仕組みは確かにこの世界から争い事を減らしているようだ。その点についてだけは「女神グッジョブ」と思わなくもない。


 魔物の発生とか面倒な副作用が世界に起こったりもしているみたいだが、私には自分の身を守れるだけの魔法がある。あまり思いつきで世界のルールを変えられるのは困ってしまうが、少なくとも私が生きやすい世界になる分には問題ないかなって気がしないでもない。


 女神様のしたことだったらこの世界の人は案外ふつーに受け入れられるみたいだし……っていうか、そもそも文句を言える人が限られてるって話でもあるんだけどさ。


 まあつまるところ、人間誰でも自分が一番かわいいってことだね。


 もちろん私は客観的に見てもかわいいんだけど。


 愛らしい見た目に生まれたおかげで性格も前向きになったし超絶美形のお兄様にも臆することなくアタック出来る。美形の遺伝子には感謝しかないね! 貴族って最っ高ォ!!


「つまり私がヘレナさんに優しくしていたから今もシャルマさんの出してくれる美味しいお菓子を頂ける立場にあるって話ですよね? 私、これからもヘレナさんをたっぷりと甘やかしますね! 期待しててください!」


 自分の容姿を自画自賛しつつ、シャルマさんのありがたいお話を私なりに解釈した言葉で口に出すと、シャルマさんは笑顔のままピシリと固まった。今シャルマさんの頭の中では「この方に無闇に餌を与えないでください」な絵が浮かんでいるのかもしれない。だが私は自分の利益のために餌を投げるぞー!


 シャルマさんの言う通り、助け合いって素晴らしい文化だよね。


 どうかこれからもよろしくおねがいしますとの意志を込めて、シャルマさんには飛び切りの笑顔をお見舞してみた。くらえ、ソフィアちゃん必殺のエンジェリックスマイル! きゃるーん☆


「う、うーん……確かにお互い、幸せにはなっていますが……。助け合うことで、幸せに……うーん……」


 会心の笑顔を浮かべてみたのだが、「教育って難しいですね……」と思い悩むシャルマさんには届かなかったようだ。


 シャルマさんはメイドさんだから、教育について思い悩む必要はないんじゃないかな? なんなら子供には飴を与えて言う事聞かすのがいいと思うな!


シャルマはソフィアにとって数少ない「近くにいられると悪いことが出来ない人」です。

どうせバレないと頭では理解出来ても物凄くやりづらくなるみたいですよ。小心者の鑑ですね。

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