豪腕家の純情乙女
初めての学院。初めての授業。
割り振られた特別クラスの教室で、私たちは先生が来るのを待っていた。
一人一席じゃないのが新鮮だったけど、移動教室の時みたいでちょっとわくわくする。
教室内に階段があるのも映画館みたいで面白い。
実際に目にする機会はなかったけど、大学に行けていたらきっと似たような雰囲気だったんじゃないかな。
「それにしても、カイルもいるとはね」
私の隣りにはカイルがいる。
なんと、成績優秀者が割り振られる特別クラスに脳筋と思われたカイルがいたのだ。
「ふふん、当然だ」
こう見えて頭いいのかな。
それとも、やっぱり剣術の試験の成績が良くて特待生扱いとか。試合見応えあったし。
「剣が得意で良かったね」
「……なんか、褒められてる気がしない」
ふむ、言葉の裏にある含意に気づいたか。さすがは貴族に名を連ねるものよ。
でもカイルみたいにストレートに反抗してくれる子っていないから、なんだかんだ、同じクラスになれて嬉しいトコもある。恥ずかしいから言わないけど。
「あっ、あの子もいるんだ」
深く突っ込まれる前に、とある人物を視線で示して話を変える。
そう。剣術の試験で私の相手を務めた、あのヴァレリーちゃんもいたのだ。
あの剣術の試験で良い評価が貰えたとは思えないから、筆記か魔法が得意なんだろう。カイルの逆パターンだね。
「あの子も特別クラスになれたんだね」
「誰?」
「マジか」
あっと、いけない。
カイルと話してるとどうも口が悪くなり過ぎて困る。私の悪い癖だ。
「あの方はヴァレリーさん。入学試験の時、私の剣の相手をして下さった方ですよ」
「なんで急にそんな話し方?」
「特に理由はありません」
あるけどね、理由。もちろんあるよ。
そろそろ教室内に人が増えてきたからね。
いつもみたいに気軽に話してて、誰かに聞かれたらあらぬ誤解を招きそうだと思ったんだよ。
「――って、ヴァレリー? 【豪腕】の? へーあれが」
「【豪腕】?」
また二つ名ってやつ?
それにしても、なんて女の子に失礼な二つ名なんだ。あんなに可憐な美少女を捕まえてけしからん。
私だったら【純情乙女】とか名付けてあげるのに。
二つ名ってどこの誰がつけてるんだろうね。
「知らないのか? 武門の家だと有名なんだけどな、【豪腕】のヴァレリー家は。現当主は片手で馬を抱えられるって言うぜ」
「馬を」
え、馬って100キロじゃきかないよね? 300キロくらいなかったっけ? あれ、もっとだっけ?
それを片手って……紛うことなき化け物じゃん。
ヴァレリー家当主ヤバい。
「おい、信じるなよ。そんなこと出来るわけないだろ。【豪腕】を語るときに付いて回る、ただの噂にすぎねぇよ」
なんだ嘘なのかよ!
ちょっと信じちゃったじゃん!
豪腕、豪腕と、言われ続ける悲劇の女の子。頑張れヴァレリーちゃん。