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女神視点:在るべき世界

新年明けましておめでとうございます&元旦仕様の特別編第四回でございます。

そろそろデイリー小説は終わらせて質重視の作品を書き始めたいと願うものの、なんやかんやと終わりは見えず……。

ここまでソフィアの物語を見守って頂いた稀有な皆々様方への感謝と共に、作者の満足する「区切り」までいま暫くお付き合い頂けますと幸いです。


 ――世界に「()る」と感じたのはいつだったか。


 闇の中に浮かびながらそんなことを茫洋と想う。



 ここに世界が在るのか。私という存在が世界に在るのか。


 私が在るから世界が在るのか。世界が在るから私が在るのか。



 ……分からない。いつもと変わらず答えは出ない。


 私は何故世界に在って、世界の有り様について考えているのか。その理由さえ失われてしまった。


 在るのはただ、私という感情の残滓のみ。


 私という個は――……。……私という、個、は――……?



 思考に重なるノイズが煩わしい。


 これはなんだ? どこから生まれた?


 溢れる疑問という感情に、忘れていた私自身を意識させられる。



 ――ああ、私は元は人だったのか?


 ――嗚呼(ああ)、私も元は人だったのか?



 流れる風の感触に手をやれば、風と思っていたものは(なみだ)だった。



 指の、頬に当たる感触が、酷く懐かしいものに感じられる。


 身体などとうに失われたものと思っていたが、どうやら思い違いをしていたようだ。変わらず此処に在ったことに安心感を覚えた。



 ――安心感とはまた、なんとも人間くさい感情だ。



 私はもう、人では無いのに。


 私はもう、「  」でしか無いのに。



 この闇だけが支配する世界で、人の残滓に縋ったところで――?



 …………――。



 ……何か、音が。何処かで、(こえ)が、聞こえた気がした。



 自身の音さえ呑まれる闇の中から、(こえ)など聞こえるはずも無いのに。


 自身の躰さえ保てない闇の中から、(こえ)など発せれるはずも無いのに。



 ……その(こえ)は、何故か私の心を掻き乱して。



 (うしな)われたはずの「私」に、必死に呼び掛けられているような気がして。何故か酷く気に触った。



 ……まるでここで忘れてしまったら、そのナニカは、二度と手に入らない所にいってしまうのではないかと――



◇◇◇◇◇



「……どうしたの? 突然黙り込んでしまうから驚いたわ」


「……リンゼ?」


 目を開くと、目の前にいたのはこの屋敷に来てからずっと世話になっている友人の姿。


 ――あれ? ()()()()()


 私はいつ、どうして目を閉じたんだっけ……?


(ゆい)はいつもぼうっとしているけれど、今のは普段と少し様子が違ったように見えたわね。……ソフィアに困らされていることがあるなら遠慮なく言いなさい。いざとなればアイリス様に伝えてでも止めさせるから」


「あ、違うの、そうじゃなくて。少し夢を見ていたというか……」


「……夢? あなたが?」


 そう、今の私は人ではない。


 睡眠をすることがないので夢も見ないはず。

 ……なら、さっきのは何? さっき感じた、胸が引き裂かれるような悲しみの理由は――?


 自分の身に何が起こったのかが分からない。


 けれど確かに、私はあの恐ろしくも慣れ親しんだ闇の中で、大切な何か(ナニカ)を失った――そんな気がした。


「……ちょっと、唯」


「え?」


 前触れなく伸ばされた手に反応を惑う。


 スッ、と頬を撫でられた感触がしたと思った直後、思いもよらない言葉を向けられていた。


「あなた、なんで泣いているの?」


「泣い……て? ……え? 私が?」


 まさか。そう思ったものの、目元を拭えば確かに泪の感触がある。


 ……そうか。私、涙を流してるんだ。まだ人に近い生き物なんだ。そっか。……そっか。


「ごめんなさい。これは……その、なんでもないの」


 自分でも下手な言い訳だと思う。それでもリンゼはただ「そう」とだけ答えて、そっと視線を外してくれた。


 ……ありがたいな。私がまたこんなふうに、人らしく生きられるなんて思わなかった。



 この涙にどんな意味があったのか。それは自分でも分からないけれど。


 私はこれからも()として生きたい。あの闇の中にはもう、戻りたくない。……そう思った。



◇◇◇◇◇



 ――「門脇私立探偵事務所」


 そう書かれた看板が掲げられた扉の奥で、二人の女性が焦燥した様子で顔を突き合わせていた。


「どういうこと? 何があったの?」


「分からない、分からないのよ! でもあの建物で間違いなく何かがあった。だから急いで貴女に連絡したんじゃないの!」


 要点の見えない会話。しかしこのやり取りだけで事態が急を要するものであると正確に伝わった。二人の真剣さが否応にも増す。


 緊張感が張り詰めるこの場には、二人の他にも人の言葉を発する物があった。「リモコン式盗聴器」――遠隔で電源の操作が出来、電源を切っている間は電波を発しない為に盗聴の発覚がされにくい盗聴用の装置だった。


 二人の間に置かれた受信機からは何人もの人が行き交う足音と声が絶え間なく聞こえてくる。


 慌ただしいその様子から、現場では何か想定外の事態が起こったのだと分かる。だが肝心要なその想定外の内容を、盗聴しているこの二人は未だ把握出来ないでいた。


『――た眠ってやがる。なんで―――――。何処――――――襲撃――』


『――――逃げられ――、すぐに―――に連絡―、―――――、指示を―――』


 大きすぎる雑音に紛れた声は途切れ途切れで要領を得ない。


 穴蔵に引っ込んだ連中が動く待ち望んだ機会だというのに、これでは必要な情報が得られないかもしれない。今は文句を言っている場合ではないと理解しつつも、愚痴を零さずにはいられなかったようだ。


「もっと性能のいいやつなかったの?」


「これ以上内側には設置出来なかったのよ! 言っとくけど、普段ならこれでも充分聞き取れるんだからね!?」


 反論をしながらも、両者ともに一言も聞き逃すまいとする集中力は途切れてはいない。



 彼女達が追い求めていた少女が突如穴蔵から消えたという情報を得たのは、それから僅か数分後の出来事だった。


さよならパパさん&こんにちわママさん。

誰かが気付かぬ間に何かを失い、誰かが必死に何かを追い求めている間にも、ソフィアの日常はひたすら呑気に続きます。

「今日のお菓子を所望する!!」

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