私が育てたカイルという男子は
誤解を恐れずに言わせてもらえば、カイルのことは好きだ。好意はある。
それが恋愛感情かと聞かれると微妙なところではあるが、お兄様以外の誰かと付き合うのなら誰がいいかと問われた時、いの一番に名前が浮かぶのはカイルだと断言出来るくらいには好意を抱いている。
そもそもカイルを身近に置いて私好みに調教……もとい育ててきたのだって、将来的に私の結婚相手としての役割を期待しての事だった。【聖女】として認められ結婚を避けられる立場になった時点でその意義は消失しているが、これまでに育ててきた感情が突然無くなる訳も無い。いつかは結婚する相手と長年思い続けてきたのだから、それなり以上の好意はある。
――でもね。「それはそれ」っていう言葉が世の中にはあってね?
むしろ好意があるからこそ「必要なくなった結婚相手」をどうするのかという問題について、ずっと悩んでいたと言っても過言ではない。
私は幼い頃から計画していた。
将来誰かと結婚しなければならなくなるのなら、その相手は絶対に自分で選ぶのだと。許容出来ない相手は何がなんでも断固拒否すると、強く決意を固めていた。
そう決意すれば自ずとその後の行動も決まってくる。
相性の良い相手の選定。親が満足する相手の選定。
色々なパーティーに連れ出される度、私は数多いる男の子達をこのショタ好きの目で見極めてきた。大人しい子、元気な子。やんちゃな子に臆病な子。
容姿抜群のショタっ子&ロリっ子、更にはそのお父さんやお母さんである美形軍団に囲まれる日々を謳歌しながら、ある日気付いた。これ適当な男の子を私好みになるよう育てた方が早いんじゃね? と。
そうして出来上がったのが今日のカイルである。
本人の生まれ持った資質のせいか、思っていたよりもかなり生意気に成長してしまった感は否めないが、概ね想定通りの性格に育て上げることは出来たと自負している。今はまだ少し子供っぽさが目立つが、大人になる頃には寛容さも身につけて誰もが一目を置く素敵な紳士になるだろうことを確信している。本人に直接伝えることは無いが、カイルは私の自慢の幼馴染みだ。この素敵男子は私が育てた!
とまあ、折角頑張って育てたのはいいものの、何の因果か私は【聖女】と認められ、国から結婚が免除されることと相成った。こうなればペアになる予定だったカイルが余ることとなる。
カイルだって貴族だ。放っておいても誰かしらとくっつくことにはなるだろうが、折角頑張っていい男に育てたんだから変な女に持っていかれるのは癪に障る。どうせなら私も認める可愛い女の子に贈呈したい。その点カレンちゃんなら相手としては文句なしのパーフェクトだ。
カレンちゃんが望んでいるならそれはもう、手塩にかけて育てた息子を送り出すような心境で喜んで差し上げたいところではあるのだけど、ここで問題になるのがカイルの育った環境――長年掛けて植え付けてきたカイルの恋愛感情である。
私の結婚相手として育てたカイルは、当然のように私に恋愛感情を抱いている……はずだ。そうなるように色々仕向けた。欲望の赴くままに純情なショタっ子の恋心を弄びまくった自覚が私にはあります。だからこそ今のカイルがやたら生意気になったんだけどね。
あの頃にはそうするだけの理由があったので全くもって反省はしていないが、流石にカイルが私に好意を寄せているのを知ったまま「はい、カレンご所望のカイルです」と差し出す気にはなれない。カレンちゃんやカイルとの関係が変に拗れるのは私の望むところではない。どうせならちゃんと好き同士になってくっついて欲しい。
そうなると、どうするのが良いのだろうか。カイルを振ってからカレンちゃんに慰めるよう助言をする? 我ながら鬼畜さが半端なくない?
そもそも告られてもないのに振るのってどうなんだろ。男子的にトラウマになったりしないかな? もし私に振られたカイルが「今は誰とも付き合う気にはなれないんだ……」とか言い出したらカレンちゃんが相当惨めにならない? ん〜、恋愛って難しいね〜。
「とりあえず、結論として……私はカレンとカイルの恋を応援するよ」
「えっ? え……えっ……? そ、ソフィアは、それでいいの……?」
「私が一番好きなのはお兄様だしね」
まあ結局はそこに尽きる話だったりもする。
カイルとエッチなことをする想像とかも……まあ、したことがないとは言わないけど。お兄様でスるのとは頻度が違う。
誰がなんと言おうと私の一番はお兄様だ。こればっかりは国が認めなくたって変わらないと断言出来る。
「だからカレンがカイルを狙うのに、私に遠慮する必要はないんだけど……」
カイル、あれで結構モテるからなぁ……。しかもウブだからなぁ……。身体で迫られたら案外コロッと……いったりしないか……?
私は目の前に佇むカレンちゃんを見る。
能力はバツグン。容姿もクラスメイトに比べて充分以上に戦える。あとは問題の性格だけど……。
「……一応聞くけど、もうカイルには迫ったりした?」
「せまっ!? せ、せま……せま……っ?!??」
……これだけ恥ずかしがり屋で、一月以内に告白までいけるのかな? 告白したところでカイルが受け入れるかも分からないのに?
慌てふためき顔を真っ赤に染めるカレンちゃんを見て、この恋を成就させるのは中々に骨が折れそうだと、そんな予感を抱いたのだった。
育成中のコンセプトは「憧れのお姉さんに見合う男になる為に、ボク、頑張るよ!」だったそうです。




