おちゅきあいしたいらしい
「カイルさあ、なんか急に強くなってない? 自分で心当たりとかあったりするの?」
「強いて言うなら……へっ。俺の秘められた才能が、ようやく開花し始めたってとこかな……?」
なんて、まるでネムちゃんに汚染されたかのような身のない会話を交わした翌日のこと。
私は学院に来るなり声を掛けてきたカレンちゃんによって、久しぶりの校舎裏へと連れ出されていた。
「……ここなら、いいかな」
キョロキョロと周囲に人気がないことを確認するカレンちゃん。私はこれからいったいどうされてしまうのでしょうか。
私の友人達は曲者揃いだ。ミュラーを筆頭に二人きりになればろくでもないことしか起こりそうもない相手ばかりではあるが、その中でもカレンちゃんは少し特殊で、所謂「キレたら怖い」に属するタイプであると思う。
まあキレてなくても、ちょっぴり怖かったりもするんだけど。
それを補って余りある見た目補正があるから仕方ないね。やっぱり人間、容姿の美醜って物凄く大事だと思う。ちょっとの迷惑なら許しちゃうもん。
「あ、あの……っ。……ソフィアっ!」
「うん。なぁに?」
一大決心でも秘めたように、切羽詰まった声を上げるカレンちゃん。まるでこれから告白でもするかのような……え、待って。ホントにそうなの? そんな可能性ってあるのかしら?
潤んだ瞳。高鳴る動悸。
緊張の為か、僅かな高揚を見せるほっぺたは見て分かるほどに赤く染まっていて……。
え、ええー。いやあ、困っちゃうなぁ。私にはお兄様という心に決めた人が……――
「わ、わたしっ! カイルくんと結婚を前提にしたおちきあいをしたっ、したいと思うの!!」
……いやあ、盛大に噛んだね。ここは見ないふりをしてあげるのが優しさかな? 真っ赤になっちゃってかーわいいねー♪
じゃなくて。
「えっと、そうなんだ? おめでとう……で、いいのかな?」
「えっ?」
「えっ?」
何を求められているのかがまるで分からず、とりあえず祝辞を述べてみたら、カレンちゃんがビックリしたような顔で私を見ていた。私も正答が分からずに困惑している。
えっと、なんだろ。言葉が足りなかったかな? 「ようやく決心出来たんだね、おめでとう」とか?
いやいや何目線だよ偉そうだなってならないかな。
やべぇ、何を言えばいいのか本気でわからん。
笑顔を浮かべたままカレンちゃんの考えを読もうとするが、そもそもこの場に呼び出されて私だけに知らされた理由からして分からない。一番のお友達には一番に知らせておきたい的な? だとしたら嬉しくはあるけど……。
お互い頭に疑問符を浮かべながら見つめ合っていると、カレンちゃんが追加で言葉を発した。
「え、えっと、ね……? わ、私、カイルくん、と、その……。…………お、おつ、おちゅきあい、を……そのぅ……はぅぅ」
……いや、これは果たして言葉と呼んでいいのかな? かわいいかわいいカレンちゃんという生き物の鳴き声では??
本人的には勇気を振り絞って言葉を紡いでいる。それは噛み噛みになった言葉からも伺い知れる、間違えようのない事実だろう。
これだけ恥ずかしがってて男となんて付き合えるのか? と思わず心配になってしまうが、相手がカイルならそれほど問題にならない気もする。カイルだったらいざとなれば腕力でぶちのめして言う事聞かせりゃそれで済むし、何より今のカレンちゃんは死ぬ程かわいい。こんなにかわいい女の子と付き合えるのに文句を言う男がいたら、そんな相手はそれこそ私がぶちのめしてあげちゃいたくなるよね。
んー、しかし、カイルかー。……んー、カイル、カイルねぇ。
これだけかわいい上に才能の塊であるカレンちゃんと比べて、カイルの方は正直、いまひとつパッとしないって言うか……。有り体に言えば「もっと良い男探した方がよくない?」と言いたくなっちゃうところだけど、具体的にそれは誰かと聞かれたら、それはそれで困っちゃうところではある。私が育てただけあって、カイルって意外とスペック自体は高めだからね。
……ふむ。まあ本人が望むならいいんじゃないかな?
「カレンとカイルが付き合うんだよね? ん? それとももう付き合ってはいるとか?」
「つつちゅちゅきあってないよっ!!?」
うん、ひとまず落ち着こうか?
見てる分には面白いけど、そろそろ何言ってるか聞き取れなくなりそうだからね。
深呼吸を促したついでに軽く《平静》の魔法を掛けてあげると、カレンちゃんはようやく落ち着きを取り戻したようだ。大分心音の落ち着いた胸元に手を置いてすうはあと呼吸を繰り返している。
「……こ、これから、カイルくんとそういう関係になりたいなって、思ってて……。だからソフィアには、報告をしておかないとって思って、それでここに来てもらったの……」
「報告?」
私に? 何故? 結局はそこが分からない。
まあ報告したいなら勝手してくれても問題ないけど……何か誤解が生じてる気がする。
「なんで私に報告しないとって思ったの?」と素直に感じたことを質問すると、カレンちゃんは「だって……」と言いづらそうにしながらも答えてくれた。
「ソフィアも、その……カイルくんのことが、好き……なんでしょ? だから……」
「ちょい待ち」
なるほどおっけー、全てまるっと理解したわ。
要するにカレンちゃんは、私を恋のライバルに認定してたと。故に公平を期すために宣言……この恋に私も立候補するぞと、宣戦布告をしてきたわけだ。そういう解釈でいいんだよね?
ははは、あはははははは。
いやいやないから。どーぞ勝手に持っていって?
本人的には、この恋は秘していたらしい。
本人的には、この恋は諦めていたらしい。
カレンちゃんの(本人的には)壮大な恋の物語が今、始まる。
 




