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ミュラーvsカイル、まともな戦闘


 見るからにいっぱいいっぱいなカイルの防御は意外なことに、五分ほどが経過した今でも崩れることなく、危なっかしいままにミュラーからの猛攻を凌ぎ続けることに成功していた。二本足で立っているその姿がひとつの偉業のようにすら思えてくる。


 ……ていうか、あれなんで防げてるの? あそこにいるの、本当にカイルだよね? そっくりさんとかじゃないんだよね?


 私の知っているカイルであれば、あの速度の剣撃は初撃がせいぜい、運が良くて二回目まで、奇跡が起きればなんとか三回目までは凌げるかなーというのが関の山であったはずだ。それがどうなればあの思考すら置き去りにする六連撃に正解の防御方法が取れるのか。答えを教えながら打ち込まれても普通は身体が追いつかなくて被弾するはず。


 ……まさか、会得したのか? 体感時間をぐぐんと引き伸ばし、接近戦では格段に有利を作れる魔法である《思考加速》を、カイルが?


 魔力濃度を測れる魔力視の視界でよくよく確認すれば、確かにカイルの頭周辺に魔力が多く集まっている……ような気がしなくもない。いや、それを言うなら全身に漲る魔力量がいつもと比べて多い気がする。動きが早くてよく見えないけど!


 頭付近に濃い魔力を纏っているのは視えるから、少なくとも《視力強化》は使ってると思う。そうじゃないとミュラーの速度をめで追えないしね。《思考加速》については……まあ、あれだけ防げてるなら使えてると考えるのが自然なのかな。


 以前から可能性だけなら考えてはいた。魔法というのは想像力を力に変える、言わば自分だけの世界を拡張する能力なんだ。


 騎士が使う《加護》というものが魔法とは別物であると信じる人が、私の使う《身体強化》や《思考加速》を使えるようになったらどうなるのか。《加護》の強化に魔法による強化を上乗せして、更なる力を得られるのではないかと、少しばかり考えたことは確かにあった。


 ただ、魔法の発現には魔力を用いる。

 身体を巡る魔力の流れにはキャパシティがあることや、消費魔力量の消費効率などの観点から考えても、結果は「多少の強化に繋がる可能性はあるかも?」程度で収まるはず……と、思っていたんだけどなぁ。


 可能性はゼロではなく、また「多少」の幅は個人差があると分かってはいても、この結果は受け入れ難い。多少手加減はしているのだろうが、ミュラーとカイルが拮抗してる? どんだけの下駄履かせればそんなことになるんだろうねー?


「いいじゃない、いいじゃない!! 初めてあなたが魅力的に見えてきたわ!!」


「お、おお、俺には、っ、クゥッ!? お前がっ、死神みたいに見えてるんだけどなっ!?」


 おおお、今の脇下からの攻撃も凌ぎ切るかっ!?


 あれ視界の外から急に現れたみたいに見えただろうに、よく反応できたなー。スゴイスゴイ、カイルってば凄いじゃん。よく耐えてるわ。


 右右右、左右、と見せかけて下から。内からも外からも、なんなら前からも後ろからもと縦横無尽に攻めまくるミュラーを相手に、カイルは驚くほどの粘り強さを見せている。納豆だったらもう百回は混ぜられて白く濁っている感じだろうね。


 我ながら訳の分からん喩えを挟みながら観戦していると、ミュラーの攻撃パターンがまた変わった。カカカン、カカカンと子気味よく奏でられるお互いの武器のぶつかる音は、まるでカイルが敗北するまでのカウントダウンを示しているように感じられてしまう。


「さあ次っ! 行くわよ!!」


「もう勘弁してくれよぉ……」


 なんかすんごい情けない声が聞こえたけど、そんな声も続く猛攻に紛れてすぐ聞こえなくなった。それでなくとも聴覚を強化してない他の人には聞こえてなかっただろうけどね。


 カカッカカカッ! カカカカカカン!


 これまで辛うじてミュラーの攻撃を防いできたカイルの剣が、軽快な音が響く度、徐々に身体の中心から離されてゆく。ミュラーの速度を目で追えない人達にとっては、きっとカイルが自ら攻撃の隙を晒しているように見えてるだろうね。


「ほらほら、どうするの!? このままじゃ防げないわよ!? ほらどうするの!!?」


「おんまえぇ……。これホンットに、手加減してるの、か、ってーの……!?」


 うっわ、えっぐ。ミュラーってば相手の武器だけじゃなくて腕まで攻撃し始めてるじゃん。武器取り落とさせる気満々じゃんよ〜。


 身体への攻撃はまだ軽い威力に終始してるみたいだけど、あれは「いつでもここに重い攻撃をぶち込めるぞ」という示威行為だ。下手に恐怖を抱いて警戒なんかしたら、均衡が一気に崩されて瞬く間に敗北へと転がり落ちてしまうだろう。


「くっそ、痛てぇな……!」


 カイルもそれを理解しているのか、痛がりながらも地味な抵抗を続けている。


 そうだ、これは我慢比べなんだ。一見大きな隙に感じるが、身体の中心へと向かう攻撃は一番見やすい攻撃になる。つまりは断然防ぎ易い。


 大きな攻撃の瞬間は如何なミュラーとて隙ができる。その好機を見逃さずに――


「あ」


「あら」


「「「あっ」」」


 ――なんて思っていたら、カイルの木剣がぴゅーんと宙を舞っていた。どうやら度重なる連撃で遂に手からすっぽ抜けちゃったらしい。


「……武器くらいちゃんと握ってなさいよ。全く、酷い終わり方だわ」


「いやお前、それ俺の台詞ぐぺっ」


 ……喋ってる最中に顎打ち上げるとか、ミュラーさんってば容赦なさすぎない? 下手に舌噛んだら死ぬよそれ?



 とまあ、そんな感じで。


 予想外の奮闘は見せたものの、カイル対ミュラーの勝負は誰もが予想していた通り、ミュラーの勝利で幕を閉じましたとさ。ちゃんちゃん。


この後、剣姫とまともな戦闘を繰り広げた姿に感極まった熱血教師に迫られ「俺ともやろう!さあやろう!!」と授業の終わりまで戦わされる羽目になることを、この時のカイルはまだ、知る由もなかった。

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