ぴかぴかの一年生
お兄様を心配するはずが、お兄様に心配させてしまったあの日。
私は急に倒れたらしい。
家族みんなに心配されたけど、お医者様が言うにはどこも悪くは無いらしい。
「緊張が緩んで疲れが出たんでしょう」とか言ってたけどごめんなさい。たぶん違うと思う。
王妃様に呼ばれて初めは緊張もしてたけど、聖女ちゃん呼びが気になりすぎてすぐにそれどころじゃなくなったからね。
そういえば結局あの呼び方直してもらえなかったけど、私があの王妃様に意見を通せるようになるのは何年後になるのだろうか。
ダメ元で、後でお母様経由で頼んでみよう。
ともあれ。
心配をかけられて悩みどころではなくなったのか、お兄様はすっかりいつも通りのお兄様に戻っていた。
倒れるだけでお兄様の悩みを解決するとはさすが私。
目が覚めてからもみんなにすっごく心配されて。
思えば身体強化の魔法掛け始めてからずっと、風邪もひかないし天井付近から落っこちても怪我ひとつしない超健康優良状態が続いてた。
それだけ丈夫な私が急に倒れたのは確かに心配になるよね。
あれ、もしかしたら倒れたのって初めてかもしれない。
みんなが慌ててるから平気だよーなんともないよーって普段どおりにしてたけど、実はね、私も心配。自分の体が。
だって意識失う時の記憶が本当に全然ないんだもの。
こういうのって普通、体がふらつくとか、意識が遠のくとか、なにかしら前兆があるもんでしょ。
それが私と来たら、瞬きしたら倒れたくらいの気軽さだよ。唐突にも程がある。
若くして変な病気とかじゃないといいんだけど。いままで健康だった分の反動でも来たのかなあ。
ま、病気かどうかなんて分からないし、なんならお兄様の悩みを解決しようとして自分の悩みを増やすような見事極まる本末転倒ぷり。
私は学んだね。
やはり悩みなんて持つものじゃないと。
私は悩まなかった。そういうことにしちゃえば、ほら。私が行動したことによりお兄様の悩みだけが吹っ飛んだわけさ!
うじうじするより、バカっぽくてもわっはっはと笑って暮らしたいよね。
実際はうふふ、くらいにしないとお母様に怒られちゃうんだけどさ。
決意新たにのんべんだらりと日を重ね、待ちに待ったこの日が来た。
今日から学院に通う日々が始まる。
今度こそ普通の、何も起こらない、平穏無事な初登校にしたい。
試験受けに行った日のは、ほら、初登校とはちょっと違うじゃん。
自分のクラスがあって、級友と雑談を交わして、先生の声を聞きながら教科書を読んで。
そういう「もうひとつの居場所」みたいな、これからこの場所が日常になるんだあ、っていう感慨がね、欲しいよね。
ぶっちゃけ活字に飢えてるだけかもだけど。
そもそもさー、お貴族様の本、つまらんのよね。
お父様の仕事柄仕方ないのかもしれないけど、議事録だとか、なんたら報告書だとか、本って言うか資料だしね。あと娯楽小説の少なさよ。
ドロドロの愛憎劇とか読みたい。ミステリーとかサスペンスとか、純文学やラノベっぽいのとか、なんもないんだよねー。はあ。
普通の恋愛小説っぽいものならあるんだけど、中学生の初恋っぽいのをちょっとやって終わりとかもうね。しかも全部ハッピーエンドだし。
内容もパターンが少なすぎて登場人物見ただけで山もオチも見えちゃうのがなー。
いっそマーレでも唆して物書きに仕立て上げようかしら。
物語も好きだったし適正あると思う。
……やるか? 異世界の物語、輸入しちゃう?
智美ちゃんの教育不足により、腐女子が異世界で繁殖する事態は避けられそうだ。




