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過剰なお兄様分は呼吸困難のリスクがあります


「お兄様は好きなお菓子とかないんですか?」


「うん? 急にどうしたんだい?」


 優しい微笑みと脳を蕩かすような声で囁かれてしまったが、どうしたと言われても返答に困る。


 いつものように、一日の締めとしてお兄様に甘えていたら、ふとそんなことを思っただけだ。


 お兄様に甘やかされている私に正常な思考が出来るとでも? 自慢じゃないが心までふにゃふにゃに蕩かされている今の私は九九の計算すらまともに出来ない自信があるよ。


 お兄様の胸に抱かれている今、必要なのは計算の出来る冷静な思考能力ではない。

 五感の全てでお兄様を感じ、得た感覚を無駄なく心へと伝える充電効率に他ならない。


 つまり、今の私はお兄様を感じることに特化した存在なのだ。私の考えなど聞かれたところで答えられるはずもない。


 それでもあえて答えるとすれば、「ただお兄様の声が聞きたかった」という解答が一番答えに近いのだろうね。


 そんなことをふんわり頭の隅で考えながら、口は勝手に動いて言葉を返す。


 お兄様と過ごすこの時間こそが私の至福。

 会話の内容に深い意味なんてない。お兄様と二人きりで、くっついたまま仲良く会話を交わす。この時間にこそ意味があるのだ。


「えへへ。私は今すごーく幸せなので、お兄様にも幸せになって欲しいなーと思いまして」


「僕も今、確かな幸福を感じているよ。ソフィアがそばに居てくれてるからね」


 そう言って、手のひら越しのおでこにキスを落とされた。ふおぉぉ、やばばーい! 幸せすぎて色々漏れちゃうぅ〜。


 とりあえず顔面は笑み崩れてデロデロに溶けたソフトクリームみたいになった。口元が液状化したんじゃないかってくらいふにゃふにゃで力が全く入らない。ふへへぇ。


 一方で下半身の方は、まあ、うん。愛しい感情が溢れたせいか足が勝手に動いてお兄様の身体をスリスリっと撫でたが、これくらいならまだ健全な範囲だと思うんだよね。股とか擦り付けてないですよ? これは座り心地を確かめてるだけなんだからねっ!


「んふふ。おにーさまー♪」


「ソフィアは甘えん坊だね」


「はいっ。だってお兄様が大好きですからっ♪」


 過剰なくらいに甘え倒しても全部受け止めてくれちゃうお兄様の包容力よ。こんなんハマるわ。お兄様の愛という底なし沼に全身を絡め取られて依存しちゃうよーう。


 お兄様とのイチャイチャは何物にも代え難い至福の時間で、いつまででもこうしていたい誘惑に駆られるのだけど、残念ながらお兄様は私ほど暇人という訳でもない。私がこうして甘えている分、どこかに影響が出ているはずだ。主には睡眠時間だと思う。


 もちろんくっついてる部分から流してる《治癒》の魔法で多少の疲労なら回復するけど、睡眠は身体的な疲れだけではなく、精神的な疲労回復の側面もある。魔法で全てを補うことも出来なくはないけど、お兄様の健康を願うのならば良質な睡眠は必須だ。その時間を奪うなんてとんでもない。


 本当は離れなくなんてないけど……本当の本当〜に、出来ることなら一生お兄様とくっついたまま生活したいくらいお兄様と離れたくなんてないんだけど、仕方ない。この温もりを糧に今夜はぐっすり眠るとしよう。


 離れ際、一際強くお兄様の香りを肺に取り入れた私は、その幸福感で全身を満たしたままそっとお兄様の胸元から抜け出した。


「……でも、このままだと朝までお兄様と一緒にいたくなっちゃうので、そろそろ部屋に戻ります。本当はずっと一緒にいたいんですが、それはお母様が許してくれないので。決してお兄様を嫌いになった訳では無いんですよ? それだけは、どうか勘違いしないでくださいね……?」


 そんな勘違いをされたら比喩でなく目の前が真っ暗になると思う。なんなら私をショック死させる唯一の方法かも知れないとすら思ってしまう。


 まあお兄様は私と比べるのも烏滸がましいくらい頭が良いので、そんな心配する必要も無いんだけどね。


 でもこういう言い方で寂しげな雰囲気を作って見せれば、きっと、私のお兄様なら――


「もちろん、ソフィアの気持ちは分かってるよ。……安心しておやすみ、僕の愛しのお姫様」


 ――やっば。今日はお兄様のサービスデイでしたか。


 お兄様からのおやすみの挨拶はここ最近、もはや日課のように貰っているが「僕の愛しのお姫様」+「おでこにキス」の合わせ技は今日が初だ。心臓がやばばい。息も苦しくて顔面があっつい。


 えっと、あれ? お兄様の夕食に誰か媚薬とか入れてたっけ? あるいはこれ全部夢とか? 起きたら顔の上にフェルが乗っかってるとか?


 動揺しすぎてお兄様の膝から落っこちそうになったけど、それは未然に防がれた。


 私のピンチを救ったのは、頼もしくも温かくお兄様の腕。お兄様の腕が私の背中に回されて、その膂力で力強く身体を抱き寄せられたのだ!


「おっと。大丈夫かい?」


「はひ」


 嘘ですダメです、夢じゃないや本物だわこれ。


 至近距離で見るお兄様のお顔は相変わらず男性とは思えないくらいに整っていて、その瞳に見つめられているだけでソフィアはもう心臓がドキバクの身体がガチンゴチンで、ってあ、今まで息するの忘れてたわ死んじゃう。


「ひー、ひーっ、」


「ひーって、あはは。ソフィアは本当にかわいいね」


 お兄様に鼻息を吹きかけないよう気をつけながら必死に息をしてたら、その様子を笑われてしまった。


 お言葉ですが、お兄様の笑顔の方が万倍可愛いと思いますよ。


ソフィアがあざとい行為で煽りまくった結果、ロランドお兄様は「やられる前にやる」ことを覚えたようです。

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