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日本のお菓子増殖計画


 お菓子と一口に言ってもその種類は多様に及ぶ。


 そこに世界間の技術差、原材料の確保にかかる手間や費用なども含めて考えれば、日本で安く手に入るお菓子がこの世界でも安く製造出来るとは限らない。故に日本のお菓子をこの世界で再現するには、ある程度の種類を持ち込む必要があることは私の中で確定していた。


 十や二十種類程度のお菓子を持ち込んで、その内の数種類でも商品化出来れば御の字だろう。


 その想定の元で今まで食べるお菓子を選別していた。もちろんまだ少しくらいの余裕はあるけど、今もアイテムボックスに残っている向こうのお菓子は研究用としてあえて取っておいた物が大半を占める。


 つまり、既にダブりなんか食い尽くしたのだ。


 一部例外があったとしても、それは研究の確実性を上げるために必要なもの。「最悪また買ってくれば良くない?」等と一時の欲望に任せて消費してしまえば、必ず後悔する羽目になるだろうことは目に見えている。


 その辺の事情をアネットなら理解してくれると思っていたのだけど……困った事に、()()()()()()()()はそんな理屈なんて聞く耳持たない感じだった。


「いいじゃない、ちょっとだけ! ちょっとだけだから! あんなに沢山あるんだからひとつやふたつくらい分けてくれたっていいでしょ? ね!? お願い、ソフィアちゃん!」


 顔が同じだからって油断したよね。


 二重人格でも問題無く生活出来ているように見えたとしても、それが片方の人格の涙ぐましい努力の成果によるものであること、私はちゃんと知ってたはずなのにね。


 義姉の立場を使っておねだりしてくるアネットの中にいる()()()()()()()()()に向かって、私は心から謝罪した。


「なんかゴメン。話すタイミングを間違えたみたいだね」


「――いえ、こちらこそ申し訳――んなーッ!」


 別人のように謝罪に応じる言葉の途中で、またしても入れ替わりが発生したようだ。


「ふふん、この身体の持ち主は私だからね! いつまでも()()の言いなりだと思ったら大間違いなんだからねっ!」


 ……どうしよう。お手本のような調子の乗り方を見て、迂闊にも「私みたいだな」とか思ってしまった。私はカイル以外にはこれほどアホっぽい態度は取っていないと自負しているけど、もう少し理知的な雰囲気を心掛けるべきかと反省した。


 ……いや、待て? 待とうか。理知的な丁寧口調で、でも高圧的な態度だって? それどこのお母様ですかね。


 次々と巻き起こる予想外の事態に私も混乱しているのだろうか。この場のスマートな解決策が見えてこない。


 ……仕方が無い。ここは不注意の代償としてお菓子をいくつか選ばせるしかないかな。


 そんなことを思っていたら、不意にアネットが特大の溜め息を吐き出していた。顔を上げた彼女はもちろんいつもの落ち着いた様子。どうやら身体の主導権争いは終わったようだ。


「……落ち着いて話をさせてもらう対価として、試作品の試食を最初にさせると約束しました。特に問題は無いですよね?」


「うん、それは構わないけど……」


「大変そうだね」と視線に込めて伝えると、同じく視線で「もう慣れました」と返ってきた。目のハイライトが消えているように見えるのは果たして私の気のせいだろうか。


「実はこの子、以前そちらのお菓子を唯様が食べているところを覗き見ていたみたいで。その際に唯様が涙を流していた様子だった為に『女神様も泣いちゃうほど美味しいお菓子』だと思っている節がありまして」


「なるほど。それは食べたくなっちゃうのも納得かもね」


 は〜、なるほどね〜? 理由は分かったけど、でもそれ多分勘違いよね。唯ちゃんに聞かないと本当のところは分からないけど、きっと涙を流してたのは私と同じ理由じゃないかな。美味しさに感動して泣いてた訳では無いと思う。


 要は私達にとって大事なのはお菓子ではなく、故郷のお菓子だっていう感情の方だ。記憶とか思い出とか、そーゆーの大切な記憶に結びつくお菓子が唯ちゃんに渡したお菓子の中に混じってたんだと思う。


 私もそーゆーお菓子はいくつかあるけど……あんまり泣くような気分にはならないかなぁ。悪友共との記憶は言うに及ばず、母さんとの思い出も、まあどちらかと言えばムカムカするようなものが多いからなぁ。


 お風呂上がりに食べようと思って買っといたアイスとかしょっちゅう勝手に食われてたし。


 お詫びとして買わせた新商品のお菓子とかも、何故かいつの間にか消えてたりして……。……思い出したらだんだん腹が立ってきたな。


「まあ完全に再現は出来ないかもだけど、美味しく出来たら私にも教えてよ。ちゃんとお金払って買わせてもらうからさ」


「はい、それはもちろん。売り出す際には必ず届けさせてもらいますね」


 そういえば立場上、この世界に来てからは勝手にお菓子が食べられてるなんてことは無かったんだね。


 食べようと思った物が消えてた時、昔はよく怒ってたものだけど……そういうのも向こうでしか味わえない貴重な体験だったんだなぁ、なんて。


 ちょっぴりしんみりした気持ちになったものの、そんな経験、実は全くする必要が無いんだよね。単にあの人に私がからかわれてただけだわ。……やっぱムカつくぅ!


ソフィアのおちゃらけた性格は日本の母の影響を多分に受け継いでおります。友人達にもよく「この母にしてこの娘か」と言われていたものです。

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