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従者の引き立て役ご主人様


 ヘレナさんは研究者だ。その職分は不可思議の解明と言っても差し支えない。


 なのでその不可思議を持ち込んだ張本人である私が放課後に呼び出されることも想定の範囲内ではあった。


 ただその呼び出しにシャルマさんが思いのほか乗り気だった事だけが、私の想定とほんの少しズレていただけだ。


「シャルマさんにも期待されているとあれば、来ない訳にはいきませんからね」


「……そんなに顔に出ていましたか?」


「バッチリと」


 私の言葉に、いつも慈愛の心で包み込んでくれる聖母の微笑みが薄らと赤く色付いている。


 大人として体面を気にしてるみたいだから口には出さないけど、せめて心の中でだけは声を大にして叫びたい。恥ずかしがってるシャルマさん、かーわーいーいー!!


 お母様を恥ずかしがらせて遊ぶのも楽しかったけど、やっぱり元から可愛い人の恥ずかしがってる姿こそが至高だよね。美人の照れ顔は、なんていうかな。それはそれで良いものなのは確かなんだけど、ほんわかした気分になるよりもただ単に見蕩れるだけで終わっちゃうというか。観賞時間に比例して失われる好感度が気になっちゃってイマイチ集中できない感じがするんだよね。


 その点相手がシャルマさんなら天地がひっくり返っても報復なんてしてこないだろうし、無心になってカワイイを堪能することが出来る。


 より質の高いカワイイには顔や性格が大切なのは言うまでもない事だけど、それと同じように環境や状況も大切だということだ。カワイイの道はとても奥が深いことを改めて実感したね。


「シャルマさんにはいつもお世話になっていますから。私に出来ることならなんでも気軽に頼んでくれていいんですよ?」


「そんな! ソフィア様に助けられているのは私共の方です。むしろ私がソフィア様の望みを……――」


 シャルマさんから伝説の「なんでもする」発言が頂戴できるかと思った正にその時。ヘレナさんが絶妙なタイミングで横槍を入れてきた。


「ねー、シャルマと仲良くするのもいいけど先にこれのこと早く教えてくれない? ソフィアちゃんが『詳しい話は放課後に』って言うから、私ずっと待ってたのよ?」


 言ってない。そんなこと私言ってないよ。


 私が言ったのは「詳しい話? それはまた今度、落ち着いて話せる時にしてもいいですか?」って言っただけだ。ヘレナさんもそれには了承したはずだ。


 いま私、シャルマさんと楽しくおしゃべりをしていたよね? 落ち着いてないよね? なにより「今日の放課後に詳しい話をする」なんて確約は全くもってしていないよね?


 まあヘレナさんの研究欲が抑えられるとは思っていなかったから、早ければ放課後になるかなーとは考えてたけどさ。それにしたってこの邪魔の仕方は無いなって思うよ。


 ヘレナさんは研究が関わると状況が見えなくなる傾向があるよね。


 私しか知らない情報を聞かせてもらう立場なのに、何故私の機嫌を損ねるような真似をするのか。そこが私には理解出来ない。


 ……もしかして、シャルマさんとの話を邪魔するのが目的なのかな。嫉妬? 嫉妬なの? ヘレナさん、実はシャルマさんに構って貰えなくてイジけてるの?


 そう思ったらなんだかヘレナさんが可愛く見えてきた。


 よくよく見ればヘレナさんだって充分以上に顔立ちは整っているし、素材としては悪くない。ただ姿勢が悪くて品位に欠けるというか、デザイン製が死んでる丸眼鏡のせいでネタキャラの印象が強いというか……。


「…………」


「……? なに、そんなにじっと見て。もしかして洗っちゃダメだったりした?」


 それ(お菓子の袋)は今はどうでもいい。


 私が気にしているのは、案外悪くないはずのヘレナさんが何故こうも魅力的に思えないかという謎の方だ。


「……シャルマさんといるせいかな?」


「なにが?」


「私がどうかいたしましたか?」


 うん、返事を聞いただけでも淑女レベルが違いすぎる。これじゃあヘレナさんが引き立て役にしかなってないのも納得だわ。


 シャルマさんは私が今までに出会ってきた中で一番の淑女と言っても過言ではない。それは所作や態度に留まらず、聞くものに安心感を与える声音であったり、美しさと愛らしさの共存した母性溢れる微笑みであるとか、まあヘレナさんに足りない色々である。お母様や私にだって足りないけどね。


 言うなれば長時間を共にしている相手が悪い。

 例えるなら男性の頂点であるお兄様と同じ時、同じ場所で同じ行動を取っているお父様が私にとって取るに足らない存在に見えてしまっているのと同じ事ではないかと思う。お父様にだってきっといいところはあるはずなのに、お兄様と見比べてしまうとその利点も利点には感じなくなるのだ。だってお兄様が素敵すぎるから。


 ……ヘレナさんはシャルマさんと一緒にいる限り、ずっと結婚出来ないかもしれないね。


「ヘレナさんは研究が好きですよね」


「え? ええ、そうね。それがなに?」


 とぼけた表情もそれなりに可愛い。……が、それもシャルマさんの圧倒的癒し力の前では注目されることは無いんだろうなぁ。


「例え結婚が出来なくても気を落とさないでくださいね。ヘレナさんが素敵な人だということは、私はちゃんと分かってますから」


「……え? え? ……急になんなの!?」


 結婚だけが女の幸せじゃない。


 趣味に生きるのだっていいじゃない。私はヘレナさんのこと応援してるよ、楽しく生きられればそれがサイコー、幸せだよね!


なんもかんもシャルマさんが魅力的すぎるのが悪いと思います。

そう信じるソフィアの視線は、豊かな曲線を描くシャルマの胸元に特に強く注がれていたみたいですよ。

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